15 姉妹(2)
その日から、放課後、時間のあるときにエリーゼに魔術を教えるようになった。
エリーゼは、自身が云うとおり優秀な生徒だった。歳は十四だというが、それにしては安定した魔術の使い手だった。
火の魔術は専門外だったが、光の魔術についてはさまざまな角度からアドバイスをすることができた。
「弱い魔力の出力の安定化が苦手なようですね。光の拡散は継続的に行うのが鍵なので、そこを克服すべきかと思います」
「はい!」
我が儘娘と云われているとのことだから、口答えされるかとも思っていたが、かのじょは思いのほか素直にアドバイスを受け入れてくれた。
「今日はここまでにしましょう」
「まだできますわ」
「いいえ、魔力の出力が不安定です。無理をせず疲労しきるまえに終わりにするのが上達の鍵ですよ」
「……わかりました。ありがとうございました」
エリーゼは礼儀正しく一礼すると、従者のハンスからタオルを受け取っている。
立ち会っていたユーリとディーが――彼らは何故か剣の打ち合いをしていたのだが――近寄ってくる。
「おつかれさまーエリーゼ様、筋がいいみたいだね」
「そうですね。年齢を考えれば申し分ない出来です」
「シュカ、付き合ってくれてありがとう。私からも礼を云わせてくれ」
「いえ。教えることで得るものもありますから」
想定外に報酬ももらえたため――しかも占い師の稼ぎを大きく上回る――シュカとしては得るものしかなかった。
「それではシュカ様、本日は失礼いたしますわ」
棘のある態度も引っ込み、エリーゼは優秀な生徒として振る舞うようになった。
デジャヴュを感じる――そう、ユーリに懐かれたときのような――
どことなく厭な予感を感じるのは気のせいだろうか。気のせいだと思いたかった。
「シュカ、今週の日曜日は暇かい?」
季節は晩秋、そろそろ中庭で昼食を摂るのが厳しくなってきたため、空き教室で弁当を突いていると、ユーリが話しかけてきた。
「……用事の内容によります」
「シュカ君も学んできたねえ」
シュカが警戒心を持って答えると、ディーがからからと笑った。
「お茶会の招待状が届いてな」
「エリーゼ様からですか?」
「……それが……姉上から……」
シュカは飲んでいた紅茶を気管支に入れてしまい、盛大に噎せた。
「大丈夫かい?」
ユーリとディーが左右から背をさすってくれる。ようやく咳が収まると、ユーリの方に視線を向けた。
「失礼しました。――それはつまり、王位第一継承者のアレクシア様からということでお間違いないでしょうか?」
「ああ、そうなるな」
王位第一継承者のアレクシア・アッシュヴィルドは、水の護り手との異名を持つ才女で、次期国王だと云われている。大学を飛び級で卒業し、若干二十三歳にして内政にも関わっているほどの人物だった。
それが何故、シュカなどを茶会に誘うことになったのか――
「エリーゼが姉上に、シュカから魔術を教わっていると手紙を書いたらしい。たいそう尊敬できる人物だとかいろいろと書き連ねたらしく……私の友人であることもあって、一度会ってみたいと……」
アレクシアには、シュカがセレン帝国の元十三姫だということが知られている。皇籍離脱したとはいえ、他国の王族に近づきすぎているのは事実だ。なにかを企んでいると思われても、おかしくはない。
此処は、身の潔白を証明するため、参加するのが懸命か――
「――わかりました。ご招待、お受けいたします」
「よかった! 私もひさびさに姉上にお会いできるのが楽しみだ」
「……ユーリも呼ばれているのですか?」
「ああ、三人で会おうと」
「そうですか」
流石にさしで向き合うのには勇気がいるため、助かった。当然護衛のディーも着いてくるだろうし――あとは、ユーリの機転に期待することとしよう。
「それじゃあ、今週の日曜日、午后一時に迎えを寄越してくれるそうだから。制服で構わないよ」
「わかりました」
気が重い。しかし、これを乗り越えねば、平穏な学院生活など夢のまた夢となるだろう。
気合いを入れ直したシュカであった。




