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「中等部の生徒との交流会?」

 とある放課後、シュカが席を立とうとしていると、例によってユーリが話しかけてきた。

 曰く、中等部の生徒との交流の場に参加しないかというお誘いだった。

「遠慮します。それでは」

 子供は苦手なのだ。どう接してよいかわからないし、興味もなかった。

 しかし颯爽と去ろうとするシュカの前に現れるのがディーだ。いつものパターンである。

「まあまあまあ、シュカ君。ちょっとくらい話を聞いてくれてもいいんじゃないかな?」

 前後で挟まれては逃げられない。シュカはため息をついた。

「それで、何故僕がそのような場に参加しなければならないのです?」

「話せば長くなるのだが――このイベントは、もともと高等部生のボランティアによって開催されているものなんだ。参加者は内申点に加点がつくから毎回希望者も多かったのだが……今回は人手が足りないらしくてな」

「何故?」

「クラスを見回してわからないかい? 風邪が大流行しているというわけだよ」

 たしかに、日に日に授業の参加者が減っていることには気づいていた。まさか風邪だったとは思わなかった。

「なるほど。それでは交流会を延期したらよいのでは?」

「それが大人の事情というやつでな、日取りはもう決まっていて動かせないんだ。頼む、一緒に参加してくれないか?」

「……」

 シュカは頭を巡らせる。子供の相手は億劫だったが、内申点が上がるというのは魅力的だった。交流会とはいえど、数時間程度で済むだろう。それならば、参加してもよいかもしれなかった。

「――はあ、仕様がないですね。構いませんよ」

「ほんとうか! シュカならそう云ってくれると思っていたよ。助かる!」

 ユーリは無表情のままにぱっと顔を耀かせた。最近ユーリの顔色が読めるようになってきた気がする――のはきっと気のせいだ。

「そうと決まれば早速行こうか!」

 ディーが肩を組んでくる。

「え、今日なのですか?」

「ああ、ぎりぎりで参加者も少なかったから助かるよ」

 確信的犯行としか思えない。

 シュカは肩に置かれた手を払いのけるとため息をついた。


 交流会は、中等部のホールで行われた。賓客室のような豪華な内装で、すでにそこかしこに輪が出来ていた。

「中等部までは教養科しかないから、高等部の進路について相談したいという子も多くてな。魔術科に進みたい子たちの相談にのってやってくれ」

 相談と云われても、シュカには魔術科に進学する選択肢しかなかった。

 果たして役に立てるかどうか――

 そこで、シュカたちの集団に声をかける者がいた。

「あら、お兄様、ディー、シュカ様も。ごきげんよう」

 ユーリの妹、エリーゼだった。たしかかのじょは中等部二年だった筈だ。もう進学のことを考えているのだろうか。

 エリーゼは相変わらず護衛の従者を連れ、ひとり輪の外に佇んでいた。

 もしや友人がいないのだろうか――それは邪推のしすぎというものか。

「エリーゼもいたのか」

「こんにちはーお茶会ぶりですね」

 ユーリとディーが早速挨拶へ行く。

「お久しぶりです」

 シュカも歩み寄ると、エリーゼはシュカの顔を眺めて顔をしかめた。

「シュカ様、眼鏡は外されたらいかがですか? あと前髪が伸びすぎです。分けられたらよろしいかと」

 早速駄目だしされる。眼鏡は瞳の色を隠すための保険だし、前髪も顔の印象を隠すために伸ばしていた。

「エリーゼ、ひとの外見に言及するのはよくないとあれほど」

「ギルベルトお兄様もそうですが、みなさま外見に頓着がなさすぎます。一緒にいて恥ずかしいですわ」

 相変わらず言葉に棘の多いひとである。

「エリーゼ様、そんなんだから友達ができないんですよ」

 ディーがずばっと切り込む。

「まあ、なんて失礼な! 友人くらいいますわ」 

 そう云ってあたりを見回すも、此方に近寄ってくる者はいない。

 王族が集まっているのだ。当然だろう。

「――エリーゼ様は、魔術科にご進学予定なのですか?」

 此処は話題を変えるのが最適だとシュカは判断した。

「勿論ですわ。火と光の二系統の魔術を使えるのですもの。魔術科に進まなければ才能の損失というものですわ」

「そうなのですね」

「シュカも水と光の魔術を使えるんだ。光の魔術について教えてもらったらどうだい?」

「まあ、あなたも二系統使えるのですね。人は見かけによりませんわね」

 若干見直されたようだった。

「でもわたくし、もう中級魔術までは使えますの。あなたに教えられることがあるとは思いませんわ」

「なにを云う。シュカは高等魔術まで使えるんだぞ」

「……なんですって?」

「ユーリ、余計なことを云わないでください」

 窘めたがもう遅い。通常、高等部では中級魔術まで習得できればよいほうで、それ以上は大学に進学する者たちが使用するものであった。

 高等部一年で高等魔術が使えるとなれば、相当に目立ってしまう。だから力を押さえていたというのに、このひとといったら――

「そんな方がなんの噂にもなっていないなんて――いったいどういうことですの?」

「どういうことと云われましても……目立ちたくないというのが正直なところですね。ですからこの話も内密にしておいていただけると助かります」

「……変わった方でいらっしゃるのね。――光の魔術について質問してもよろしいかしら」

「どうぞ」

「治療に使用する以外にも、攻撃魔術に応用できると聞きます。光の拡散を習得すれば幅広くいろいろなことに使えると思うのですが、やはり有用なのかしら」

「そうですね。僕も光の拡散と水の魔術を掛け合わせた幻術を使用しますが、有用なのはたしかだと思いますよ」

「まあ、素晴らしいわ。ほんとうに高等魔術をお使いになるのね!」

 エリーゼの目が耀く。

「今度ご教示いただけないかしら。中等部の授業は基礎的なものが多くてつまらないの」

「宮廷魔術師に教わればよいのでは?」

「あのひとたちはわたくしに真面目に向き合ってくれないの。我が儘な小娘だと思っているみたい」

 そのとおりだと思うのだが、口には出さないでおく。

 ユーリを見ると、うんうん頷いている。

「そうですね、時間があるときでしたら、構いませんが」

 僕は何故頷いてしまったのだ――シュカは頭を抱えたくなるのを堪える。

「それではよろしくお願いいたしますわ!」

 きらきら光る瞳に抗えず、シュカは首肯してしまったのだった。


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