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このアイドル、どこかおかしい。一人だけ、笑っていない。  作者: Nagiousen


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95/113

第95話 七人で、最後まで

八月二十九日(土) 午後八時二十分




本編最後の曲が、終わった。




拍手が割れんばかりに、鳴り響いた。




七人が、横一列に整列した。




苺が、マイクを持ち直した。


息を整えながら、客席を見渡した。




「今日は——本当に、ありがとうございました」




声が少し、掠れていた。


だがその掠れが、かえってまっすぐに届いた。




「みなさんと——一緒に、作った今日でした」




拍手がまた大きくなった。




照明が少し落ちた。


ホールが、静かな余韻に包まれていく。




正面の——大型モニターに、文字が浮かび上がった。




**Thank you Osaka**




---




客席から——温か、拍手が湧いた。




さくらは——目元を拭った。




健一は——静かに手を叩き続けた。




ななは——スマホを下ろしたまま、画面の——文字を見つめていた。




母娘は——繋いだ手を離さなかった。


もう片方の手だけで——精一杯、拍手を送っていた。




---




その静けさの中。




若葉が——一歩、前へ出た。


マイクを——構えた。




「今日は——皆さんに、お知らせがあります」




客席が——一瞬、ざわついた。




「来た——」


「全国ツアー——」




期待と戸惑いが混ざった声が、あちこちで上がった。




スクリーンが——暗転した。


低い——SEが、ホール全体に響いた。


腹の底に——響くような重低音。




暗闇の——中。


日本列島の——地図が、浮かび上がった。




一本の——光の線が、大阪から伸び始めた。


弧を——描くように。




モニターに——文字が映った。




**ゆめいろシフォン**


**First National Tour**




歓声が——爆発した。


一万六千人の——声が、一つになった。




若葉は——歓声が少し収まるのを待った。


そして——続けた。




「この秋、私たちは——全国ツアーを、開催します」




再び——歓声が湧いた。


ペンライトが——一斉に揺れた。




スクリーンに——都市名と日程が、一つずつ映し出されていった。




**①仙台**


**9月20日(日) 仙台サンプラザホール**




歓声。




**②名古屋**


**10月4日(日) 愛知県芸術劇場 大ホール**




歓声。




**③福岡**


**10月18日(日) 福岡サンパレス**




歓声。




**④札幌**


**11月1日(日) カナモトホール(札幌市民ホール)**




歓声。




**⑤広島**


**11月15日(日) 広島文化学園HBGホール**




一つ一つの——都市名が映るたびに。


客席のどこかで——その街の名前に反応する、声が上がった。




「私の——地元だ!」




叫ぶような——声も混じった。




**⑥大阪(追加公演)**


**11月29日(日) 大阪城ホール**




ここで——ひときわ、大きな歓声が湧いた。




「もう一回——来れる!」




さくらが——思わず、声を上げていた。




そして——スクリーンが一度、真っ暗になった。


一拍の——静寂。


ドンと——重い音が響いた。




**FINAL**


**12月20日(日) 日本武道館**




歓声が——爆発した。


さっきまでとは——比べ物にならない音量だった。


客席全体が——揺れているように感じられた。




銀色の——テープが、天井から降り注いだ。


金色の——紙吹雪が、宙を舞った。


七色の——光の中に、それが混ざりきらめいた。




苺が——マイクを、握りしめた。


声が——震えていた。




「みんなの——おかげで!ここまで——来られました!」




割れるような——拍手。




向日葵が——両手を突き上げた。




「武道館ーー!!」




叫んだ。




客席が——応えた。




「うおおおお!」




地鳴りのような——声が返ってきた。




空は——目に、涙を浮かべていた。


言葉には——ならなかった。


ただ——胸の前で、両手を握りしめていた。




杏は——ガッツポーズをしていた。


いつもの——照れ隠しはなかった。


素直な——喜びが、そこにあった。




莉恋は——笑っていた。


だが——その笑顔のまま、横を見た。




桃霞。




拍手を——していた。


立って——いた。


歌って——いた。


さっきまでの——曲でも、確かに声は出ていた。




だが——笑っていなかった。




莉恋だけが——その横顔に、気づいていた。




歓声の中、誰もが——スクリーンを見上げている中。


莉恋の——視線だけが、桃霞に向いていた。




(……笑って)




心の中で——そう願った。


言葉には——できなかった。


ただ——祈るように思った。




若葉が——続けた。




「そして、この——全国ツアーは、七人全員で——完走します」




客席から——大きな拍手が湧いた。




七人全員という——その言葉に込められた決意を、観客は正しく受け取っていた。




その言葉が、桃霞の中に——鋭く刺さった。




(七人で——最後まで——)




拍手をしながら——桃霞の胸の奥で、何かが軋んだ。




さっき——自分がしたこと。


その——代償として、まだ笑顔を取り戻せずにいること。




七人という——言葉が、今自分に問いかけているように感じた。




(私は——このまま——みんなと一緒に、いられるのだろうか)




歓声は——鳴り止まなかった。


紙吹雪が——まだ宙を舞っていた。


七色の——光が揺れ続けていた。




その真ん中で。


桃霞だけが——静かに、その問いを抱えていた。




照明が——暗転した。


歓声の中、ホール全体が——一瞬、闇に包まれた。




アンコールの——準備が、始まろうとしていた。





つづく…




▼登場人物のイラストをpixivで公開中


https://www.pixiv.net/artworks/144793121

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