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このアイドル、どこかおかしい。一人だけ、笑っていない。

作者:Nagiousen
最新エピソード掲載日:2026/05/06
「8,797通の中に、一枚だけ——違う書類があった」

九条エンターテインメントのオーディション担当スタッフ、浅井麻衣、27歳。

ある日の午後、書類を処理する手が止まった。

志望動機欄にはこう書かれていた。

「知りたいことがあります」

それだけだった。特技欄は空欄。写真は加工なし。笑顔を作っていない、一枚の顔。

気になった。それだけだった——のはずだった。


女性アイドルグループが三百を超える飽和市場の中で、
六色のカラーシステムを武器に上位をキープしてきたゆめいろシフォン。
結成から一年、グループに陰りが見え始めた。

プロデューサーの九条冴子は言う。

「ゆめいろシフォンに今必要なのは——事件です」

8,000人規模のオーディションが始まった。


麻衣は書類を処理し続ける。
一日に270通。締切前日には500通を超える日もある。
夢を持った応募書類が、データとして積み上がっていく。

その中に、あの書類の子がいた。

二次審査の会場で、初めて声を聞いた。
足音が、しなかった。

三次審査では、踊るのを見た。完璧だった。なのに——何かが引っかかった。

最終審査で、乱入者を一秒で制圧した。

麻衣は、モニターの前で立ち上がっていた。椅子が後ろに飛んだ音がした。気づかなかった。


合格者は、一名。

櫻井桃霞。

格闘の実績を持ち、感情を持たないまま——
担当カラーを奪われた先輩メンバーの敵意を受けながら、
ゆめいろシフォンのセンターに立った少女。

そして彼女には、ただひとつの動機があった。

「あの笑顔が、何なのかを知りたい」

幼い頃にテレビで見た、不揃いな笑顔。
完璧ではなかった。それでも——消えなかった、あの感覚。


アイドルは、笑う。

歌って、踊って——笑う。

それが仕事だ。

でも——桃霞は、その笑顔の「意味」を、まだ知らない。

「なぜ笑うのか」

その問いが、六色の女の子たちを、静かに揺さぶっていく。


※格闘×アイドル×群像劇。運営スタッフ・麻衣の視点を軸に、8,797人のオーディションから桃霞のデビューまでを描く。


※「彼女はまだ、笑い方を知らない ――無表情の天才と、観測者の記録」を2話まで読んで頂いた方、大変申し訳ございません。新たに1話から書き直します。こちらをご覧ください。
影のない部屋
2026/05/05 08:46
七人目
2026/05/05 20:10
六人の会議室
2026/05/06 20:10
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