第87話 静かなる配置
八月二十九日(土) 午後七時三十五分
大阪城ホール——バックヤード、資材搬入口の裏。
薄暗い——通路だった。
六人が——それぞれ、静かに集まっていた。
黒い——服。
音を——立てない靴。
すでに——衣装ではなく、任務の姿だった。
神崎龍司が——タブレットを手にしていた。
画面には——七人の顔写真。
そのうち——一枚に、赤い印がついていた。
「最終確認する」
低い——声だった。
画面を——皆へ向けた。
「俺の——標的は」
写真を——指した。
「春日苺」
短く——言った。
「リーダー」
「体調——万全ではない」
「だが——油断はしない」
高瀬修が——次の写真を確認した。
「俺は——御堂杏」
タブレットの——プロフィールを、目で追った。
「格闘技経験——なし」
「だが——身体能力は高い」
「組み付けば——早い」
自分の——手を一度握り、開いた。
感触を——確かめるように。
黒田剛が——無言で画面を見た。
「水瀬空」
短く——名前だけ口にした。
それ以上——何も言わなかった。
すでに——動きの映像を、頭の中で何度も再生していた。
反応の——遅れるコンマ数秒。
そこだけを——見ていた。
真壁隼人が——タブレットを覗き込んだ。
「白石莉恋——か」
少し——口の端を上げた。
「最近、ラベンダーパープルに変わった——」
「意味が——あるんだろうな、これは」
誰にともなく——呟いた。
答えは——返ってこなかった。
篠原徹が——写真を確認した。
「橘向日葵」
淡々と——言った。
「一番——予測しにくい」
「テンションが——高い分、動きが読めない」
「だが——それは、隙にもなる」
短く——分析を口にした。
南部誠だけが——タブレットを見なかった。
「霧島若葉——だろ」
すでに——覚えていた。
「冷静な——分析役」
「そこを——潰す」
言葉は——計画通りだった。
だが——視線はすでに、写真の——別の一枚へ向いていた。
桃霞の——顔。
標的では——ない写真。
「南部」
神崎が——それに気づいた。
「お前の——標的は、若葉だ」
「わかってる」
南部が——短く答えた。
視線を——写真から離さなかった。
「本気で——やれ」
神崎の——声に、鋭さが増した。
「これは——訓練じゃない。九条さんの——計画通りに、俺達六人——同時に、動く。それが——条件だ」
南部は——ようやく、タブレットから目を離した。
「わかってるって」
軽く——言った。
だが——目の奥には、隠しきれない興味があった。
(桃霞は——どう出る)
黒田が——低く言った。
「乱入の——タイミングは」
「サビの——直前」
篠原が——答えた。
「照明が——一瞬、揺れる。その——合図で動く」
高瀬が——腕を回した。
肩の——具合を確かめた。
「武器は、訓練用の——ナイフ」
真壁が——懐から、それを少しだけ覗かせた。
刃の——形をした金属。
刃先は——潰されていた。
安全対策——済みのもの。
「本物と——重さは変わらない」
「動きも——本気で」
「だが——傷は、つかない」
自分に——言い聞かせるように言った。
神崎が——タブレットをしまった。
腕時計を——確認した。
「あと——十分」
六人が——それぞれ頷いた。
篠原が——最後に付け加えた。
「一つだけ——確認だ」
全員の——視線が集まった。
「桃霞には——手を出さない」
「標的は——それ以外の六人」
「間違えるな」
高瀬が——短く頷いた。
黒田は——すでに、無言で頷いていた。
真壁が——肩をすくめた。
「間違える——わけないだろ」
南部だけが——もう一度、桃霞の写真を思い出すように、視線を宙に泳がせた。
「……桃霞は——何を、するんだろうな」
誰にも——聞こえないほどの声で呟いた。
神崎が——通路の暗がりを見渡した。
「配置に——つけ」
短い——号令だった。
六人が——それぞれ散った。
通路には——誰もいなくなった。
ただ——遠くから、音楽と歓声だけが、微かに響いていた。
つづく…
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