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このアイドル、どこかおかしい。一人だけ、笑っていない。  作者: Nagiousen


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85/114

第85話 嵐の前の七色

八月二十九日(土) 午後六時五十分




新曲「レインボーステップ」が——終わった。


拍手が——鳴り止まなかった。




苺が——息を整えながら笑った。


七人が——横一列に並んだ。




「それじゃあ」




苺が——声を上げた。




「ここから——本編、いきます!」




歓声が——応えた。




イントロが——鳴った。


軽やかな——メロディ。




「君が笑う理由」——だった。




七人が——それぞれの位置へ散った。




苺のパートが——来た。


移動は——少なかった。




だが——声には、迷いがなかった。


高く——伸びるサビ。




客席が——一斉に跳ねた。




「苺ちゃん、声——出てる!」




小さな——声が、あちこちで上がった。


安堵が——広がっていくのが、わかった。




曲が——終わると、すぐに次の——イントロ。




「届いていますか」。




七色の——ペンライトが揃って右へ。


揃って——左へ。




七人が——それぞれの色を、指した瞬間。


対応する——客席の光が、ひときわ強く輝いた。




さくらの——ラベンダーパープルも。


健一の——ベリーレッドも。


ななの——ソーダブルーも。




一斉に——揺れた。


一つの——生き物のように、客席全体が波打った。




苺は——歌いながら、その光景を見た。




(すごい)




心の中で——呟いた。


言葉にならない——熱が、胸に広がった。




曲間。


短い——MCが、挟まれた。




向日葵が——マイクを握った。




「みなさーん!元気ですかー!!!!」




いつもの——テンションだった。




客席が——笑いながら答えた。




「元気ー!」




「よろしい!」




向日葵が——満足そうに頷いた。




杏が——横で小さく笑った。




「相変わらず——うるさい」




マイク越しに——聞こえてしまい、客席がまた笑った。




「ときめきキャンディポップ」。




自己紹介を——兼ねた定番曲。


一人ずつ——名乗りを上げていく。




「ベリーレッド、春日苺です」




「ソーダブルー、水瀬空です」




「レモンイエロー、橘向日葵だよ!」




「ミントグリーン、霧島若葉です」




「マンゴーオレンジ、御堂杏」




「ラベンダーパープル、白石莉恋です」




そして。




「ピーチピンク、桜霞——桃霞です」




桃霞の——声が響いた。


以前より——少し柔らかい、響きだった。




客席から——大きな声援が飛んだ。




「桃霞ちゃーん!」




桃霞は——一瞬、目を細めた。




小さく——微笑んだ。


自然な——笑顔だった。




もう——誰もそれを、不自然だとは思わなかった。




「一秒先のミライ」。




爽やかな——イントロ。


七人の——動きが、軽やかに揃った。




苺の——フォーメーションも、この曲ではほとんど違和感がなかった。


移動量が——少ない分、他のメンバーの——動きで、自然に補われていた。




客席は——その調整に、気づかなかった。


ただ——七人が楽しそうに、踊っている姿を見ていた。




「君まで1センチ」。




ファンに——人気の高い楽曲。


サビで——客席全体が一斉に歌った。




七人の——声と一万六千の声が、重なった。


苺は——マイクを少し下げた。




客席の——声を聴くために。




(これだ)




胸の——奥が熱くなった。


しばらく——聴けなかったこの重なり。




「きらきらシュガーノート」。




向日葵と——空が中心の曲。




向日葵の——弾けるようなパフォーマンス。


空の——静かで伸びやかな歌声。




対照的な——二人が、一つの曲を作っていた。




「向日葵ちゃん、元気すぎる!」




客席から——笑い交じりの声援。




空が——それを聞いて微笑んだ。


いつもの——彼女らしい、控えめな笑顔だった。




イントロが——変わった。


しっとりとした——旋律。




「ラベンダー・リスタート」。




莉恋——センター曲。




客席の——色が、静かに変わり始めた。


一つ、また一つと——ラベンダーパープルの光が灯っていく。




莉恋は——センターに立った。


横浜での——あの瞬間を思い出させる光景だった。




だが——今日は、もう迷いはなかった。


移行は——完了していた。




莉恋の——声が伸びやかに響いた。




会場全体が——一色に染まっていった。




さくらは——自分のペンライトを強く握った。




横浜アリーナライブから——新たに加わった、その色。


目の前に——それが、広がっていた。




言葉には——できなかった。


ただ——涙が滲んだ。




「Colorful Promise」。




七人——それぞれの見せ場が、用意された曲。


一人ずつ——スポットライトが当たる。




苺——赤。


空——青。


向日葵——黄。


若葉——緑。


杏——橙。


莉恋——紫。


桃霞——桃。




七色が——順番に輝き、最後に——重なった。


七人が——並んだ。




満面の——笑みだった。


苺の——笑顔にも、もうかげりはなかった。




客席から——大きな拍手が湧いた。




さくらは——隣の見知らぬ人と目が合った。


互いに——微笑み合った。


言葉は——なかった。


それでも——同じ気持ちだと、わかった。




健一は——ステージを見つめながら思った。




(今日は——いい日になりそうだ)




何の——根拠もない確信だった。


ただ——七人の笑顔が、それをそう思わせた。




ホールは——温かい空気に包まれていた。




前半戦が——終わろうとしていた。


何事もなく——このまま進んでいくように見えた。




誰も——まだ知らなかった。




この——穏やかな時間のその先に、何が待っているのかを。





つづく…




▼登場人物のイラストをpixivで公開中


https://www.pixiv.net/artworks/144793121

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