第84話 待っていてくれた光
ステージの——照明が、ゆっくりと明るくなった。
歓声の中で——七人が、一列に並ぶ。
ここで初めて。
客席は——今日の新衣装を、はっきりと目にした。
今回のテーマは——**「New Beginning(新しい日常)」**。
七人になったことは——もう特別ではない。
七人で歌い七人で笑い、七人でステージに立つ。
そんな——新しい"当たり前"を形にした衣装だった。
デザインの基本は——王道アイドル。
軽やかなシフォンのミニスカート。
胸元には——小さなフリル。
腰には——大きく結ばれたリボン。
袖口や裾には——銀糸の刺繍が走り、照明を受けるたび、星屑のような輝きを放っていた。
可愛らしさは、そのままに。
横浜アリーナの衣装よりも、少しだけ大人びた空気をまとっていた。
七人は——共通のデザインを身にまとっていた。
だが——細部は、それぞれ違う。
リボンの結び方。
フリルの重なり。
胸元のアクセサリー。
一人ひとりの個性が、さりげなく映えるように作られていた。
そして——何より目を引くのは、それぞれの色だった。
春日苺は——深みを増したベリーレッド。
リーダーらしい、落ち着いた赤。
水瀬空は——透き通るソーダブルー。
風をまとったような、涼やかな色合い。
橘向日葵は——鮮やかなレモンイエロー。
動くたびに、裾が元気よく跳ねた。
霧島若葉は——柔らかなミントグリーン。
余計な装飾を抑えた、知性を感じさせる美しさ。
御堂杏は——温もりのあるマンゴーオレンジ。
幾重にも重なる布が、夕焼けのような柔らかな表情を作っていた。
白石莉恋は——ラベンダーパープル。
横浜アリーナで初めて披露された新しい色。
今ではもうその紫は、誰の目にも自然だった。
莉恋自身が、この色を自分のものにしていた。
そして、櫻井桃霞。
淡く優しい——ピーチピンク。
加入した頃の控えめな衣装とは違う。
胸元には、小さな花を思わせる刺繍。
腰のリボンも、他のメンバーと同じ大きさになっていた。
飾りすぎることなく。
それでも——誰が見てもわかる。
もう彼女は、「新メンバー」ではない。
ゆめいろシフォンの——七人目だった。
客席から——小さな歓声が漏れた。
「新衣装だ……!」
「莉恋ちゃんの紫、すごく似合ってる」
「桃霞ちゃんも、完全に馴染んでる」
「かわいい!」
一万六千人の視線が——七人を包み込んでいた。
一曲目の——余韻が、まだ、ホールに残っていた。
拍手が——少しずつ、収まっていく。
苺は——マイクを、両手で持ち直した。
息を——整えた。
「えっと」
少し——照れたように、笑った。
「久しぶりに——マイクの前で、こんなにドキドキしてます」
客席から——小さな笑い声が上がった。
空気が——少し和らいだ。
「みなさん」
苺は——一度、言葉を切った。
「さっき——九条から、お話があった通りです」
会場が——静かになった。
「二週間——お休みをいただきました。たくさん——心配を、おかけしました」
深く——頭を下げた。
「本当に——ごめんなさい」
顔を——上げた。
「でも、今日——こうして、みなさんの前に立てています。それが——本当に、うれしいです」
拍手が——自然と起こった。
苺は——少し照れながら笑った。
「本当は、前と同じように——全部踊りたかったです」
「ジャンプもターンも全部、やりたかった」
その言葉には——悔しさが滲んでいた。
会場は——静かだった。
誰も——急かさなかった。
「でも」
苺は——後ろを振り返った。
六人が——そこに立っていた。
「私が踊れなかった二週間、この六人は——止まりませんでした」
「私の分まで、前へ進み続けてくれました」
向日葵が——目を潤ませた。
杏は——照れ隠しのように、視線を逸らした。
莉恋は——静かに頷いた。
若葉は——柔らかく微笑んだ。
空は——穏やかに苺を見つめていた。
桃霞は——何も言わず、真っ直ぐ苺を見ていた。
「私は、毎日——見学席で、みんなの練習を、見ていました」
「踊れなかったけど、頭の中では——毎日、一緒に踊っていました」
「だから」
少しだけ——笑った。
「今日、戻ってこられたのは、私一人の力じゃありません」
六人を——見た。
「この六人が私を、待っていてくれました」
「私の足りないところを全部、支えてくれました」
そして——客席へ向き直った。
「それから、待っていてくれた、ファンのみなさんがいました」
客席の——ペンライトが、大きく揺れた。
「苺ちゃん!」
「おかえり!」
「待ってたよ!」
温かい声が——あちこちから届いた。
苺の目に——涙が滲んだ。
こぼれないように——少しだけ空を見た。
深呼吸を、一つ。
「ありがとうございます」
その一言だけだった。
だが——一番重い言葉だった。
「今日私は、万全ではありません」
「でも、心だけは、誰にも負けません」
声が——少し力強くなった。
「この大阪城ホールで、今日という日を、みなさんと一緒に、最高の一日にしたいです」
「七人で、ここまで来ました。だから、今日も七人で、最後まで走ります」
客席から——大きな拍手が起こった。
それは——励ます拍手だった。
迎え入れる拍手だった。
苺は——笑った。
もう——迷いはなかった。
そこにいたのは——ゆめいろシフォンのリーダーだった。
「大阪!」
少しだけ——声を張った。
「まだまだ——盛り上がれますか!」
「いけますかーーーーー!」
「うおおおおおーーーーーーっ!!」
一万六千人の歓声が——ホールを揺らした。
七色のペンライトが——大きく波打った。
苺は——後ろを振り返った。
六人と——目が合った。
誰も——言葉はなかった。
それだけで——十分だった。
「それじゃあ、次の曲、いきます!」
七人が——それぞれの立ち位置へ散った。
照明が——ゆっくりと落ちる。
桃霞が——静かにセンターへ進み出た。
半歩——前へ。
苺は——最後にもう一度、客席を見渡した。
一万六千の光。
待ち続けてくれた、一万六千人の笑顔。
(ありがとう)
心の中で——静かに呟いた。
次のイントロが——鳴り響いた。
つづく…
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