表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このアイドル、どこかおかしい。一人だけ、笑っていない。  作者: Nagiousen


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
82/114

第82話 幕が上がる前に

午前十時。




ステージ。


サウンドチェック。




音響スタッフが——それぞれのマイクを、確認していく。




「苺さん、お願いします」




苺が——マイクの前に、立った。


歌の——一節を、歌った。


声が——ホールに、響いた。


誰もいない——客席へ。




一人ずつ——確認が進んだ。




向日葵の——伸びやかな声。


空の——澄んだ声。


莉恋の——芯のある声。


若葉の——安定した声。


杏の——独特の、艶のある声。




そして——桃霞。


短く——一節だけ歌った。




音響スタッフが——頷いた。




「問題——ありません」




田中が——配信機材を、確認していた。




「カメラ——三台、正常です」


「回線——安定しています」




エマが——タイムテーブルを片手に、ステージ袖を歩いていた。




「センター——切り替えのタイミング、確認します」




一つ一つ——丁寧に、詰めていった。




---




正午。




ゲネプロ。




本番同様の——通し。


衣装は——まだ、着ていなかった。


だが——動きは、本番と同じだった。




一曲目から——最後の曲まで。


新曲「全員が主役」も——含まれていた。




センターが——切り替わるその瞬間。


桃霞が——センターへ出た。


半歩——前へ。




エマが——ステージ袖で、それを見ていた。




(届く)




小さく——確信した。




ゲネプロが——終わった。




振付師が——七人の前に立った。




「完璧です」




短く——言った。


それ以上——何も必要なかった。




---




午後三時。




楽屋。




メイクが——始まった。


一人ずつ——鏡の前に座った。




衣装に——袖を通していく。




赤——青——黄——緑——橙——紫——桃。




七色が——それぞれの鏡台に映った。




苺は——鏡の中の自分を見た。




ベリーレッドの——衣装。


横浜アリーナの時とは——違う体調で着ている。




それでも——確かにそこにいた。




向日葵が——鏡越しに苺を見た。




「苺ちゃん、綺麗」




「向日葵も」




苺が——笑った。




鏡の中で——七人がそれぞれ、色を纏っていく。




---




午後四時三十分。




麻衣が——楽屋を回った。




「開場まで——三十分です。準備——大丈夫ですか」




一人ずつ——確認していく。


タブレットに——チェックを、入れていった。




---




八月二十九日(土) 午後五時四十分




正面ゲートを——くぐった。


冷たい——空調の風が、体を包んだ。


外の——熱気とは、違う空気だった。




さくらは——チケットを、確認しながら歩いた。




「二階——Bブロック」




案内板を——見上げた。


矢印に——従って進んだ。




階段を——上がった。


視界が——開けた。




一瞬——足が止まった。


ステージが——見えた。




まだ——暗いステージ。


その手前に——広がる客席。


すでに——多くの人が、座り始めていた。




(大きい)




さくらは——息を吐いた。




横浜アリーナとは——また違うスケールだった。


天井が——高かった。


音が——上へ抜けていくのが、想像できた。




自分の——席に座った。


隣は——まだ空いていた。




鞄から——ペンライトを取り出した。


莉恋担当の——ラベンダーパープル。


膝の上に——置いた。




---




健一は——一階席だった。




ステージに——近い位置。


席に——座り周りを見渡した。




年齢も——性別もバラバラの観客たち。


だが——皆、同じ方向を見ていた。




隣の席の——男性と目が合った。


軽く——会釈を交わした。




言葉は——なかった。


それでも——通じるものがあった。




---




ななは——三階席。




スマホを——構えた。


会場全体が——見渡せる角度だった。




写真を——一枚撮った。


投稿した。




「席に——着きました。もうすぐ——始まります」




すぐに——反応が、返ってきた。




「頑張って——レポお願いします」


「羨ましい……」




ななは——スマホを、鞄にしまった。




(今は——見ることに、集中しよう)




---




高校生の——二人は、二階席の端だった。




「見える?」




「見える——けっこう、遠いけど」




「大丈夫、初めてだし」




二人は——並んで座った。




パンフレットを——開いた。


メンバーの——プロフィールを確認した。




「私——桃霞ちゃん、応援する」




「私は——苺ちゃん」




初めて——選んだ、推しだった。




---




母娘は——一階席、後方。




娘が——座席に座った。


足が——床に届かなかった。




それでも——背筋を伸ばしていた。


うちわを——両手で持っていた。




「とうか」の——文字。




「お母さん」




「なに?」




「ここから——見えるかな」




「見えるよ」




母親は——娘の頭を撫でた。




「大丈夫」




---




会場の——照明が、少しずつ落ちていった。




ざわめきが——徐々に、静まっていった。




---




さくらは——ペンライトを握り直した。




健一は——姿勢を正した。




ななは——スマホをしまったまま、じっとステージを見つめた。




高校生二人は——手を握り合った。




母娘は——うちわをそっと、胸の前に抱えた。




---




一万六千の——席が、ほぼ埋まっていた。




七色の——光が、あちこちで灯り始めていた。




赤——青——黄——緑——橙——紫——桃。




まだ——バラバラだった。


まだ——一つのうねりには、なっていなかった。


だが——その一つ一つに、




新幹線の——中で見た景色があった。




ホテルの——部屋で、確認したリストがあった。




初めての——参戦を、待ちわびた夜があった。




親子で——選んだ、うちわがあった。




---




場内アナウンスが——流れた。




「まもなく——開演です」


「携帯電話の——電源は」




いつもの——注意事項。


だが——今日は、いつもより重く響いた。




---




さくらは——目を、閉じた。




健一は——静かに、息を吸った。




ななは——画面越しではなく、今日は——自分の目で見ると、決めていた。




高校生二人は——互いに頷き合った。




母娘は——手を繋いだ。




---




照明が——完全に落ちた。


暗闇が——ホールを包んだ。




歓声が——一斉に、湧き上がった。




一万六千の——声が、一つになった。




一筋の——スポットライトが、ステージへ落ちた。




---




十分前の楽屋。




七人が——並んでいた。


外の——ざわめきが、微かに届いていた。




麻衣が——最後の確認をした。




「開演まで——十分です」




苺が——七人を見渡した。




「みんな」




短く——呼びかけた。




七人が——苺を見た。




「今日まで——ありがとう」




それだけ——言った。




多くの——言葉は、いらなかった。




桃霞が——小さく頷いた。




空が——静かに微笑んだ。




向日葵が——目を潤ませた。




「泣かない——泣かない」




自分に——言い聞かせるように言った。




スタッフが——ドアの外から声をかけた。




「スタンバイ——お願いします」




七人が——立ち上がった。




ステージ袖へ——向かった。




---




暗い——舞台袖。


その先に——光があった。


一万六千人の——声が、遠くから聞こえていた。




---




開演——五分前。




七人は——それぞれの位置に着いた。




苺は——静かに目を閉じた。




目を——開けた。




---




照明が——落ちた。


客席から——歓声が湧き上がった。


一万六千本の——ペンライトが揺れ始めた。





つづく…




▼登場人物のイラストをpixivで公開中


https://www.pixiv.net/artworks/144793121

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ