第81話 大阪の朝
八月二十九日(土) 午前七時
ホテル——七階。
七つの部屋の——カーテンが、順番に開いていった。
大阪の——朝だった。
雲一つ——なかった。
苺は——目を覚ました。
天井を——しばらく見ていた。
(今日だ)
起き上がった。
体が——軽かった。
二週間の——休養が、無駄ではなかった証だった。
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午前七時三十分。
朝食会場。
七人が——順番に、集まってきた。
向日葵が——一番に、来ていた。
「おはようございます!」
いつもより——少し、声が大きかった。
杏が——目をこすりながら、席に着いた。
「……緊張して、あんまり寝れなかった」
「私も」
莉恋が——静かに頷いた。
若葉は——タブレットを、片手に持っていた。
「気温——三十四度予報」
「会場内は——空調管理、徹底されます」
淡々と——伝える。
いつも通りの——若葉だった。
その——いつも通りさが、周りを少し落ち着かせた。
空は——パンを、静かに食べていた。
窓の外を——時々見ていた。
大阪の——空を。
桃霞は——最後に来た。
いつもと——変わらない表情だった。
だが——箸を持つ手が、いつもより少しだけゆっくりだった。
誰も——それを、指摘しなかった。
藤原が——テーブルを回った。
「食べられるだけ——食べておけ、今日は——長い」
七人が——それぞれ頷いた。
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午前九時。
貸切バスが——ホテル前に停まった。
七人と——藤原、麻衣、田中、エマが乗り込んだ。
バスが——動き出した。
車内は——静かだった。
昨日までとは——違う静けさだった。
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大阪城ホールが——見えてきた。
外周に——すでに人の姿があった。
グッズ売り場の——設営。
警備の——配置確認。
まだ——開場前だった。
それでも——空気が変わり始めていた。
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午前九時三十分。
搬入口。
バスを——降りた。
麻衣が——タブレットを開いた。
「本日の——スケジュール、最終確認します」
「九時半——会場入り」
「十時——サウンドチェック」
「十二時——ゲネプロ」
「十五時——休憩、メイク、衣装」
「十七時——開場」
「十八時三十分——開演」
淡々と——読み上げられた。
七人が——それぞれ頷いた。
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楽屋へ——荷物を置いた。
すでに——七つの鏡台が並んでいた。
名札が——それぞれに貼られていた。
「春日苺」
「水瀬空」
「橘向日葵」
「霧島若葉」
「御堂杏」
「白石莉恋」
「櫻井桃霞」
七つの——名前を確認するように、それぞれが見た。
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八月二十九日(土) 午前七時
大阪——ホテルの一室。
和田さくらは——目を、覚ました。
カーテンの隙間から——光が、差し込んでいた。
(今日だ)
飛び起きた。
スマートフォンを——確認した。
グループチャット——「大阪組」。
すでに——メッセージが、並んでいた。
「起きた」
「同じく」
「緊張して——四時に目覚めた」
さくらは——笑った。
自分だけでは——なかった。
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午前七時三十分。
同じ——ホテル、別の階。
山田健一は——スーツケースを、確認していた。
ペンライト。
タオル。
チケット。
もう一度——数えた。
チケットだけは——三回確認した。
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午前八時。
伊藤ななの——部屋。
配信の——準備をしていた。
カメラでは——なかった。
スマホ一台。
投稿用の——写真を、何枚か撮った。
会場までの——道のり。
グッズ売り場の——看板。
投稿した。
「大阪、来ました」
すぐに——反応が、返ってきた。
「羨ましい!」
「レポ待ってます」
「気をつけて、楽しんできてください」
画面の向こうに——今日、来られない人たちがいた。
なな自身も——その人たちの分まで、届けようと思った。
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午前九時。
高校生の——二人。
駅の——改札前で、待ち合わせていた。
「おはよう」
「おはよう……緊張する」
二人とも——初めての参戦だった。
「何から——すればいいんだっけ」
「グッズ——並ぶ?」
「うん、まず——グッズ」
スマホで——SNSを確認した。
先に到着した人たちの——投稿が、いくつも流れていた。
「もう——並んでる人、いるみたい」
「早くない?」
「行こう」
二人は——足早に歩き出した。
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午前十時。
母娘は——新幹線の中にいた。
娘は——窓に顔をつけていた。
「もうすぐ?」
「もう少し」
母親は——時刻表を確認した。
(あと三十分)
娘の手には——うちわが、しっかりと握られていた。
道中——一度も離さなかった。
「お母さん」
「なに?」
「桃霞ちゃん、緊張してるかな」
母親は——少し考えた。
「してるかもね」
「私たちが——応援したら、元気出るかな」
「きっと」
母親は——娘の頭を撫でた。
「届くと——思うよ」
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午前十一時。
大阪城ホール——周辺。
すでに——列ができていた。
グッズ売り場の——前に長い列。
さくらも——健一も——ななも。
それぞれ——違う場所から、同じ列に加わっていた。
顔は——知らなかった。
だが——身につけているものが、同じ方向を示していた。
莉恋担当の——ラベンダーパープル。
苺担当の——ベリーレッド。
桃霞担当の——ピーチピンク。
色が——少しずつ、集まっていく。
高校生二人が——列に並んだ。
前にいた——年配の女性が振り返った。
「初めて?」
「はい……わかります?」
「そわそわしてたから」
女性は——笑った。
「楽しんできてね」
「私、4回目だけど——毎回、緊張する」
二人は——顔を見合わせた。
少しだけ——安心した。
自分たちだけではなかった。
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正午——過ぎ。
母娘が——会場前に到着した。
大阪城ホールの——外観を見て、娘が息を呑んだ。
「大きい……」
母親も——見上げた。
想像していたより——ずっと大きかった。
「本当に——ここに、桃霞ちゃんたちが」
言葉が——途切れた。
娘が——母親の手を、強く握った。
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グッズ列の——中で、なながスマホを構えた。
会場全体を——写した。
投稿した。
「もうすぐ——開場です」
コメントが——次々に、届いた。
「頑張ってきてください」
「レポ楽しみにしてます」
「私も——次は絶対行く」
見えない——たくさんの人が、この列に重なっていた。
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午後一時。
さくらは——列の中で、空を見上げた。
雲一つ——ない大阪の空。
(あと数時間)
チケットを——確かめるように握り直した。
結成依頼——莉恋を応援してきた。
ラベンダーパープルへの——移行を、この目で見届けた。
今日も——莉恋と同じその色を、身にまとっていた。
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健一は——列の少し先に目をやった。
さっき——後ろにいた高校生の二人が、楽しそうに話していた。
初めての——参戦。
自分にも——そんな日が、あったことを、思い出した。
腕は——組んでいなかった。
ただ——静かに、開場の時を待っていた。
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午後二時。
列が——少しずつ動き始めた。
グッズの——受け渡しが始まっていた。
うちわ。
ペンライトの——新色。
タオル。
それぞれが——自分の色を手にしていく。
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母娘も——列の中で順番を待っていた。
娘が——新しいペンライトを選んだ。
ピーチピンク。
桃霞の——色だった。
「これにする」
迷わず——言った。
母親は——微笑んだ。
「いいね」
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午後三時三十分。
正面ゲート前に——すでに長い列ができていた。
一万六千人分の——列。
それぞれの——理由を抱えて。
それぞれの——色を身にまとって。
同じ——時間を待っていた。
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さくらは——胸のあたりに手を当てた。
心臓が——少し早かった。
(あと一時間半)
健一も——同じ空を見上げていた。
ななは——最後の投稿を準備していた。
「開場——待ってます」
高校生二人は——手を握り合っていた。
母娘は——うちわを二人で持っていた。
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大阪城ホールの——扉は、まだ閉じていた。
だが——その向こうには、もう始まっている時間があった。
ステージの——七人が、支度を進めている時間。
そして——ここには、一万六千の待つ時間があった。
どちらも——同じ場所へ、向かっていた。
つづく…
▼登場人物のイラストをpixivで公開中
https://www.pixiv.net/artworks/144793121




