第79話 七色の前夜
八月二十八日(金) 午前八時
東京——スタジオ。
最後の——軽いリハーサルだった。
汗を——かきすぎない程度に。
body——確認するだけの動き。
振付師が——時計を見た。
「今日は——これくらいで、十分です」
七人が——頷いた。
明日への——調整だった。
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午前十時。
衣装部屋。
七着の——衣装が、並んでいた。
赤——青——黄——緑——橙——紫——桃。
麻衣が——一着ずつ、確認していた。
タブレットに——チェックを、入れていく。
「苺さんの——衣装、裾の——ほつれ、直りました」
「莉恋さんの——ラベンダーパープル。本番用、問題なし」
田中は——機材リストを、見ていた。
「配信用カメラ——三台、大阪に前日搬入済み」
「照明——搬入完了の連絡あり」
「音響も——同じく」
淡々と——確認が、進んでいった。
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午前十一時三十分。
会議室。
九条冴子が——七人の前に、立っていた。
最終ミーティング。
「明日——大阪城ホール」
短く——切り出した。
「新曲——初披露」
「全国ツアー——発表」
「二つ——同時に来る」
七人は——黙って、聞いていた。
「緊張する必要はない」
九条は——七人を、一人ずつ見た。
「準備は——できてる」
「あとは——いつも通り、やるだけ」
苺が——小さく、頷いた。
九条の——視線が、一瞬苺で止まった。
何も——言わなかった。
それだけで——十分だった。
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正午。
東京駅——新幹線ホーム。
「のぞみ」が——入線してきた。
七人と——藤原、麻衣、田中、エマ。
それぞれ——荷物を持ち、乗り込んだ。
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車内。
窓側の席に——若葉が座った。
タブレットを——開いた。
「大阪城ホール——天候、晴れ予報」
「明日——気温、三十三度」
隣で——空が、頷いた。
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向日葵は——通路を挟んだ席で、早くも——うとうとしていた。
昨夜——あまり眠れなかったらしい。
杏が——それを見て、小さく笑った。
「緊張してるくせに」
小声で——呟いた。
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苺は——窓の外を、見ていた。
流れていく——景色。
明日への——距離が、確かに縮まっていく。
(大阪)
心の中で——呟いた。
椅子に——座って過ごした、一週間の日々を思い出した。
(大阪は——立って、迎える)
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エマは——資料を広げていた。
明日の——タイムスケジュール。
分刻みの——予定表。
藤原が——隣で、それを覗き込んだ。
「会場確認——何時からだ」
「夕方——十七時からです。短時間で——照明と音響、確認します」
「立ち位置も——最終チェック」
「わかった」
藤原は——腕を組み、目を閉じた。
新幹線の——揺れに、身を任せた。
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麻衣は——タブレットを、開いていた。
新しいページを——作った。
「八月二十八日、前日。」
書いた。
「東京から——大阪へ、向かっている。」
書いた。
「機材は——すでに、大阪にある。」
「私たちだけが——まだ、追いついていない。」
書いた。
窓の外を——見た。
景色が——後ろへ、流れていった。
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午後三時四十分。
新大阪駅。
新幹線が——ホームへ、滑り込んだ。
扉が——開いた。
熱気が——車内へ、流れ込んできた。
大阪の——夏だった。
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七人が——ホームへ、降りた。
田中が——先頭に立ち、案内した。
「こちらです」
貸切バスが——駅前で、待っていた。
七人と——スタッフが、乗り込んだ。
エンジンが——かかった。
バスが——動き出した。
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車窓から——大阪の街が、流れていった。
向日葵が——窓に、顔を寄せた。
「わあ……」
初めて見る——景色に、目を輝かせた。
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午後四時十五分。
ホテル——到着。
チェックインが——手早く、済まされた。
部屋割りは——事前に、決まっていた。
荷物を——それぞれの部屋に、置いた。
長居は——しなかった。
まだ——今日の予定が、残っていた。
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午後五時。
大阪城ホール——搬入口。
バスが——止まった。
七人が——降りた。
桃霞にとっては——二度目の場所だった。
十日前の——下見で、訪れていた。
他の六人にとっては——初めて見る、ホールだった。
その大きさに——向日葵が思わず、声を漏らした。
「わあ……」
空気が——違っていた。
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照明が——すでに、組まれていた。
音響機材が——ステージ脇に、並んでいた。
明日の——本番に向けて。
すべてが——形を、成していた。
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藤原が——スタッフに、声をかけた。
「音響——チェック、いきます」
「照明も——並行して」
エマが——タブレットを持ち、ステージへ向かった。
「立ち位置——テープ、確認します」
床に——すでに、テープが貼られていた。
十日前より——正確な位置に。
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苺が——センターに、立った。
照明が——当たった。
眩しさに——一瞬、目を細めた。
すぐに——慣れた。
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「苺さん、聞こえますか」
音響スタッフの——声が飛んだ。
「聞こえます」
マイクを通した——声が、ホール全体に響いた。
誰もいない——客席へ。
明日——一万六千人が、埋める場所へ。
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一曲だけ——短く通した。
軽い——ステージリハーサル。
汗を——かかない程度の確認。
音の——返り方。
照明の——タイミング。
立ち位置の——微調整。
三十分ほどで——終わった。
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藤原が——頷いた。
「問題ない。明日——このままで、いける」
エマが——タブレットを閉じた。
「調整点——なしです」
麻衣も——タブレットに、記録した。
「会場確認——完了。」
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七人が——ステージから降りた。
桃霞だけが——少し遅れた。
一瞬——客席を、振り返った。
十日前と——同じ光景。
だが——明日には変わる。
何もない——客席が、七色に埋まる。
桃霞は——それだけを確かめて、階段を降りた。
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午後七時。
ホテル——会議室。
夕食を——兼ねたミーティング。
軽食が——テーブルに並んでいた。
九条は——同行していなかった。
別の業務が、あった。
藤原が——代わりに、進行した。
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「明日の——流れ、最終確認」
タイムテーブルが——スクリーンに映された。
「開場——十七時」
「開演——十八時三十分」
「新曲——後半」
「全国ツアー発表——アンコール前」
一つ一つ——読み上げられた。
七人は——静かに、聞いていた。
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田中が——付け加えた。
「配信——同時接続、横浜を上回る見込みです」
「海外からの——アクセスも、増えています」
エマが——それを聞いて、小さく頷いた。
九条と——進めてきた、英語版サイトの効果が、少しずつ——形になっていた。
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食事が——進んだ。
向日葵が——早くも、眠そうにしていた。
「向日葵、寝るの早すぎ」
莉恋が——笑った。
「だって——明日、頑張らなきゃだから」
向日葵なりの——理屈だった。
誰も——否定しなかった。
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苺は——静かに、皆を見ていた。
七人が——揃って、同じ空気を吸っている。
二週間前には——想像できなかった光景。
(ここまで——来た)
心の中で——思った。
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桃霞は——窓の外を、見ていた。
大阪の——夜景。
その先に——大阪城ホールがあった。
明日——そこが埋まる。
静かに——目を閉じた。
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午後七時三十分。
ミーティングが——終わった。
「明日——起床、七時」
「朝食後——ホテルで、最終確認」
藤原が——締めくくった。
「今夜は——早く休め」
七人が——それぞれ、頷いた。
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エレベーターへ——向かう廊下。
エマが——麻衣に並んだ。
「明日——大阪城ホールですね」
「はい」
麻衣が——少し笑った。
「やっと——ここまで、来ました」
エマも——頷いた。
「中村さんの——分も」
短く——言った。
麻衣が——エマを見た。
「はい」
「届けます」
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各自の——部屋へ、散っていった。
廊下の——照明だけが、静かに灯っていた。
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苺の——部屋。
窓から——大阪の夜が見えた。
ベッドに——腰掛けた。
明日への——緊張が、静かに体の中にあった。
でも——不安ではなかった。
(一人じゃない)
その——確信だけが、あった。
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大阪城ホールまで——あと一日。
七色は——もうすぐそこに、あった。
つづく…
▼登場人物のイラストをpixivで公開中
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