第65話 予告の向こう側
七月十三日(金) 午後六時。
公式SNSに——
一つの投稿が、上がった。
画像は——黒地に白い文字だけだった。
「重大発表予告」
それだけだった。
日時は——七月十九日(日)、午後八時。
---
投稿から——三十秒で、コメントが来た。
「なにこれ」
「次のライブ告知」
「横浜の余韻まだあるのに」
「何だろ?」
「またメンバー増える?」
タイムラインが——動き始めた。
---
田中は——反響を、リアルタイムで見ていた。
「予告だけで、これだけ来るか」
隣のエマが——画面を見た。
「英語のコメントも、来てますね」
「本当だ」
「横浜の配信を見た海外ファンからだと思います。「What's the announcement?」「Are they coming to LA?」って」
田中は——少し考えた。
「大阪の発表、海外向けも、同時に出した方がいいですか」
「はい——できれば。発表と同時に英語の告知を出すと、海外ファンが自分たちのことも、考えてくれていると感じやすいです」
「準備してもらえますか」
「わかりました」
エマは——メモ帳を開いた。
英語版の告知文を——書き始めた。
---
その頃——
ファンのタイムラインは、止まらなかった。
和田さくらは——投稿を見た瞬間に、スマートフォンを持ち直した。
「重大発表予告——」
胸が——動いた。
「大阪城ホールだと思う」
「違うよ、もっと大きい話じゃない?」
「全国ツアーじゃないの?」
「新メンバーはないよね、七人になったばかりだし」
さくらは——その予想合戦を読みながら——
ラベンダーパープルのペンライトを、思い出した。
横浜で上げた、あのペンライトを。
「……また会いに、行ける」
小さく言った。
決まったわけではなかった。
まだ、予告だけだった。
だが——
胸の中に——確信に近い何かが、あった。
---
山田健一は——
投稿を見て——少し、考えた。
スケジュール帳を開いた。
「七月十九日、午後八時」
メモした。
「次のライブも——行く」
独り言だった。
決めていた。
予告の前から——決めていた。
横浜を見た後で——
次を見たいという気持ちが——
健一の中に、あった。
---
最前列にいた女の子は——
「重大発表予告」という文字を見て——
すぐにスマートフォンをベッドに置いた。
心臓が——速くなっていた。
「……また、届けに来てくれる」
桃霞が——また来る。
確信が——あった。
予告の一枚の画像が——
その確信を、連れてきた。
---
午後七時五十分。
YouTube生配信の待機画面に——
すでに三万人が、集まっていた。
「もうこんなにいる」
「ドキドキする」
「大阪城ホールだと思う」
「違う、もっと大きい話」
「全国ツアー確定でしょ」
待機コメントが——流れ続けた。
---
田中は——モニタリング画面を見ていた。
「……三万人、超えた」
エマが——隣で、英語コメントを確認していた。
「英語圏からも、かなり来てます。「I'm so excited」「Please come to my country」って」
「「Please come to my country」——」
田中は——その言葉を、受け取った。
「……本当に、海外が見えてきてる」
「横浜の配信が——届いたんだと思います」
---
午後八時ちょうど。
配信が——始まった。
暗い画面に——ゆめいろシフォンのロゴが映った。
音楽が——少し流れた。
苺が——画面に現れた。
白いシャツに——ベリーレッドのラインが入ったシンプルな衣装だった。
「こんばんは——ゆめいろシフォンです」
コメントが——爆発した。
「きた」
「苺ちゃん」
「可愛い」
苺は——少し笑った。
「今日は——発表があって、みなさんに来てもらいました」
コメントが——また流れた。
「発表」
「待ってました」
「大阪?大阪?」
苺は——後ろのスクリーンを、手で指した。
「発表します」
一拍。
スクリーンに——文字が映った。
「大阪城ホール」
「八月二十九日(土)」
コメント欄が——止まった。
一秒——止まった。
その一秒の後で——
コメントが、来た。
「大阪」
「行く」
「チケット取る」
「日程押さえた」
「横浜行けなかったから、今度こそ」
「大阪城ホール、行ったことある、最高の会場」
「桃霞ちゃん、また見れる」
「莉恋ちゃんのラベンダーパープルを、また見たい」
コメントが——止まらなかった。
---
苺は——続けた。
「大阪城ホールで——新しいことを、お見せします」
また、スクリーンが変わった。
「センター交代制——新曲初披露」
「全員が主役」
「全国ツアーの発表」
コメントが——また爆発した。
「全国ツアー」
「どこの会場」
「地元来て」
「センター交代制って、何?」
「全員が主役って、どういうこと」
「気になりすぎる」
苺は——画面を見ながら言った。
「詳細は——明日、公式サイトで発表します」
「今日は——大阪城ホール、八月二十九日。これだけ、覚えていてください」
一拍。
「待っていてくれますか」
コメントが——来た。
「待ってる」
「絶対待ってる」
「行く」
「チケット取る」
「どこにでも行く」
苺は——少し、目が揺れた。
「……ありがとうございます」
「七人で——大阪に向かいます」
「次も——よろしくお願いします」
配信が——終わった。
---
その夜——
SNSに、投稿が流れた。
「大阪行きます」
「チケット絶対取る」
「横浜より大阪の方が近い、これは運命」
「8/29予定を空けた」
「「全国ツアー発表」って——つまり全国ツアーが決まってるってこと?」
「そういうことでしょ」
「地元来てほしい」
「どこの会場か気になる」
配信視聴者からも——来た。
「配信で見てた。また配信あるなら全部見る」
「大阪遠くて行けないけど——全国ツアーに期待してる」
「「全員が主役」って——どんなライブになるんだろう」
「楽しみすぎて眠れない」
---
田中は——その反響を、まとめながら——
エマに言った。
「英語コメント——どうでしたか」
エマは——画面を見ながら答えた。
「「Osaka Castle Hall, that's a legendary venue」って言ってる人がいます。海外でも知名度が、ある会場みたいです」
「本当だ」
「「全国ツアー発表」に反応してる人も多くて——「Will they do international shows too?」って」
田中は——少し、画面を見た。
「……エマさん」
「はい」
「今日の英語告知——ありがとうございました。発表と同時に出せたの、良かったと思います」
エマは——少し、笑った。
「田中さんが準備してくれていたから、出せました」
「二人でやった仕事ですね」
「そうですね」
エマは——コメントをスクロールしながら——
少し、画面を見つめた。
「……大阪、どんなライブになるんだろう」
「楽しみですか」
エマは——少し考えた。
「……はい。楽しみです」
言葉が——少し、複雑な色を持っていた。
楽しみ、という言葉は——本当だった。
田中には——それが分かった。
つづく…
▼登場人物のイラストをpixivで公開中
https://www.pixiv.net/artworks/144793121




