表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このアイドル、どこかおかしい。一人だけ、笑っていない。  作者: Nagiousen


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
112/115

第112話 重ならない七人

九月二日(火) 午後二時




横浜——スタジオ。




七人が——集まっていた。


全国ツアーに——向けた、リハーサル。




大阪城ホールの——成功直後。


スタッフ側は——前向きな空気だった。




だが——メンバーの間には。


どこか——緊張が、残っていた。




それでも——桃霞を、特別扱いしないように。


各メンバーは、気を使っていた。




振付師が——いつも通り声をかけた。




「新曲の——サビから、通します」




七人が——それぞれの位置に着いた。




音楽が——流れた。


七人が——動き始めた。




振付は——間違っていなかった。


だが——桃霞だけが。


ほんの——わずかに、早かった。




向日葵が——動く前に。


桃霞が——すでに位置を、変えていた。




空が——腕を動かす直前。


桃霞が——身体を、ずらしていた。




苺が——一歩下がるより先に。


桃霞は——最適な位置へ、移動していた。




振付師が——一度動きを止めた。




「桃霞さん——少しだけ、早い」




短く——指摘した。




「すみません」




桃霞は——素直に、謝った。




もう一度——通した。


だが——また、同じだった。




桃霞自身は——困惑していた。




「ちゃんと——合わせて、いるつもり——なんです」




振付師が——一度桃霞にだけ、自由に動いてもらうことにした。




「桃霞さんは——好きに、動いてみて」




音楽が——流れた。


桃霞が——動いた。




その——動きは。


非常に——自然だった。




フォーメーション——全体がそれだけで、美しく見えた。




若葉が——それを見て、違和感を覚えた。




リハーサル——後。


若葉は——一人、映像を確認した。




桃霞は——振付を、無視しているわけではなかった。


むしろ——その瞬間に、最も美しく見える位置を選んでいた。




若葉は——桃霞に、近づいた。




「桃霞さん——」




静かに——尋ねた。




「今——何を考えて、動いていますか」




桃霞は——少し、考えた。




「何も——」




答えた。




「ただ——ここに、行った方がいい気が——して」




若葉は——それ以上、聞かなかった。


だが——何かが引っかかったまま、離れなかった。




リハーサルを——繰り返した。


桃霞の——動きが、さらに洗練されていった。




一回目より——二回目。


二回目より——三回目。




同じ——振付なのに。


桃霞だけが——毎回少しずつ違った。




しかも——その違いが。


すべて——合理的だった。




他の——六人が動く場所を見てから、動いているのでは——なかった。


まるで——六人が次にどこへ動くかを、予測しているように見えた。




だが——桃霞自身は。


予測して——いなかった。


身体が——勝手に、動いていた。




音楽に——合わせて、七人が踊った。


桃霞が——一歩、動いた。




苺が——遅れた。


空が——遅れた。


向日葵も——遅れた。


若葉、杏、莉恋も——わずかに遅れた。




フォーメーションが——崩れた。




音楽が——止まった。


スタジオが——静かになった。




桃霞は——振り返った。


六人を——見た。




「……ごめんなさい」




苺が——答えた。




「違うよ」




桃霞を——まっすぐ見た。




「桃霞ちゃんが——悪いんじゃない」




少し——間を置いた。




「私たちが——合わせられてないんだと、思う」




桃霞は——理解できなかった。




「でも——私は、みんなに——合わせたいです」




その——言葉に。


六人が——黙った。




桃霞は——自分の手を見た。




大阪城ホールで——乱入者を倒した時と、同じ感覚。


身体が——勝手に動く。


あの時と——同じだった。




「私——」




小さく——言った。




「どうして——こうなるんでしょう」




誰も——答えられなかった。


桃霞は——続けた。




「みんなと——一緒に、踊りたいのに」




少し——間を置いた。




「みんなの——動きが、遅く——見えるんです」




その——言葉で。


六人が——凍りついた。




桃霞本人は——悪気なく言っていた。


だからこそ——怖かった。




莉恋が——桃霞を見た。




大阪城ホールで——助けられたこと。


その後——桃霞が、笑えなくなったこと。


そして今——桃霞が六人から、離れていくように見えること。




莉恋は——桃霞の名前を呼んだ。




「桃霞」




桃霞が——振り返った。




「私たち——ちゃんと一緒に、いるから」




莉恋は——そう伝えた。




能力の——ことでは、なかった。


仲間として——桃霞を、繋ぎ止めようとしていた。




桃霞は——小さく頷いた。




若葉がまた——一人映像を、確認していた。


画面の中の——桃霞。


一つ一つの——動きが異常なほど、合理的だった。




若葉は——過去の桃霞の映像と、比較した。


明らかに——違った。


以前の——桃霞にはなかった動き。




若葉が——小さく呟いた。




「……成長——している?」




すぐに——首を振った。




「違う——」




画面を——見つめた。




「これは——成長じゃない」




そこで——手を止めた。


言葉は——それ以上、続かなかった。




リハーサルが——終わった。


六人が——先に、スタジオを出た。




桃霞だけが——残った。


誰もいない——スタジオ。




桃霞は——一人で、もう一度振付を踊ってみた。




音楽は——なかった。


身体だけが——動いた。




一歩。


回転。


停止。




その——動きは、完璧だった。


だが——桃霞は、笑わなかった。




最後に——鏡を見た。


鏡の中には——一人だけの桃霞。




小さく——呟いた。




「……みんなと——一緒に、踊りたい」




だが——身体は。


もう一度——別の動きを選んだ。




桃霞自身が——意図していない、動きだった。





つづく…




▼登場人物のイラストをpixivで公開中


https://www.pixiv.net/artworks/144793121

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ