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このアイドル、どこかおかしい。一人だけ、笑っていない。  作者: Nagiousen


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107/117

第107話 それぞれの車窓

八月三十日(日) 午前十時




新幹線——「のぞみ」。


新大阪から——新横浜へ。


七人が——並んで、座っていた。




いつもなら——ここは、賑やかな車内だった。


大阪城ホールを——成功させた翌日。




「SNS——すごいよ!」


「今日の——写真、見て!」


「お弁当——何にする?」


「武道館も——絶対、行こう!」




そんな——会話が、飛び交うはずだった。




だが——今日は、違った。




誰も——スマホを、見せ合わなかった。


笑い声も——なかった。




聞こえるのは——ただ。


新幹線の——走行音。


車内アナウンスの——機械的な声。


誰かが——ペットボトルの、キャップを開ける音。




それだけだった。




七つの——沈黙が車両の中に、重なっていた。




---




桃霞は——窓側に座っていた。


昨夜——ほとんど、眠れていなかった。




発車して——十分ほど経った頃。


コトン——と。


頭が——窓に、もたれかかった。


眠って——いた。




隣に——座る莉恋は、それに気づいた。




(眠った——のか)




安堵に——近い感情が、一瞬湧いた。


だが——同時に、違和感もあった。




他の——六人は誰も、眠れずにいた。


体は——疲れているのに、心が休まらなかった。




なのに——桃霞だけは。


まるで——電池が切れたように。


一瞬で——落ちるように、眠った。




莉恋は——何度も、その横顔を見た。


穏やかな——寝顔だった。




「やっと——眠れたんだ」




そう——思う一方で。




(この——眠りは)


(本当に——普通なの——?)




その——不安が、消えなかった。




桃霞を——起こさないように。


六人は——小さな声で、話し始めた。




「今日は——休ませよう」




苺が——静かに言った。




「病院——行った方が、いいのでしょうか」




空が——呟いた。




若葉が——低い声で続けた。




「身体より——先に、記憶の——問題を調べるべき——かもしれません」




杏が——腕を組んだまま、疑問を口にした。




「あれ——本当に、夢遊病なの?」




「桃霞ちゃん——大丈夫、だよね——?」




向日葵が——不安げに呟いた。




誰も——それに、はっきりと答えなかった。




莉恋は——黙って聞いていた。


言葉を——挟めなかった。


誰も——答えを、持っていなかった。




---




莉恋は——桃霞の肩を見た。


車内の——冷房で、少し寒そうに見えた。




黙って——荷物棚から、ブランケットを取り出した。


そっと——桃霞の肩にかけた。




桃霞は——起きなかった。


その——顔は、昨日よりも穏やかに見えた。


莉恋は——少し、安心した。




だが——その時。


桃霞の——右手に、目が留まった。




眠っている——間も。


微かに——握りしめられていた。




指先が——固く曲がり。


まるで——何かを握るように。




莉恋の——胸に、冷たいものが走った。




(まだ——)


(終わって——いない)




言葉には——しなかった。


ただ——その握りしめられた右手を、見つめ続けた。




---




空が——スマートフォンを開いた。


音を——立てないように。




SNSには——投稿が溢れていた。




「大阪城ホール——最高!」


「七人体制——完全に完成した——!」


「感動した——涙止まらない」




絶賛の——嵐だった。




空は——それを、一つ一つ目で追った。


だが——笑えなかった。




昨日までなら——嬉しかったはずの言葉。


今日は——遠く感じられた。


まるで——別の世界の出来事のように。




画面を——閉じた。


隣の——若葉も、それに気づいていた。


何も——言わなかった。




「まもなく——新横浜」




車内アナウンスが——響いた。




その——声で。


桃霞の——瞼が動いた。




ゆっくりと——目を、開けた。


窓の外を——見た。




「……着いたん——ですね」




普通の——声だった。


普通の——表情だった。




だが——六人は。


その——「普通」が本当に普通なのか。


判断が——つかなかった。




苺が——努めて、笑って言った。




「帰ろう」




六人が——頷いた。


桃霞も——頷いた。


いつも——通りに。




新幹線が——ホームへ滑り込んだ。


七人は——それぞれ荷物を持ち、立ち上がった。




ホームへ——降りていった。


その——後ろ姿は。




第三者から——見れば。


大阪城ホールライブを——成功させた、最高のアイドルグループだった。




しかし七人は——今。


誰も——同じ景色を、見ていなかった。





つづく…




▼登場人物のイラストをpixivで公開中


https://www.pixiv.net/artworks/144793121

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