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このアイドル、どこかおかしい。一人だけ、笑っていない。  作者: Nagiousen


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106/116

第106話 空白の夜明け

八月三十日(日) 午前八時十分




苺と莉恋は——ホテルを、出た。


周辺の——道を、探し始めていた。




「桃霞ちゃん——!」




苺が——声を上げた。


朝の——大阪の街に、その声が響いた。




莉恋も——早足で歩きながら、周囲を見渡していた。


心臓が——ずっと、早鐘を打っていた。




交差点に——差し掛かった。


信号が——赤に変わった。


二人は——足を、止めた。




その——時だった。




莉恋が——遠くに、目を留めた。


道の——向こう。


誰かが——走ってくる。




見覚えの——あるシルエット。




「……桃霞?」




莉恋の——声が掠れた。




桃霞も——それに、気づいた。


足が——自然と止まった。


信号の——向こう側で。




「莉恋さん——?」




息を——切らしながら呟いた。




信号が——変わった。


莉恋は——歩くのではなく。


走った。




「桃霞——!」




叫びながら——交差点を渡った。




そのまま——桃霞に、飛びついた。


強く——抱きしめた。




桃霞は——受け止めきれず、少しよろけた。




「え——」




何が——起きているのか、わからなかった。




「莉恋さん——?」




莉恋の——肩が、震えていた。


泣いていた。




「ごめんなさい——」




腕の中で——莉恋が呟いた。




桃霞は——ますます、混乱した。




「何が——ですか」




莉恋は——顔を上げなかった。


桃霞の——肩に顔を、埋めたまま続けた。




「昨日——」




声が——震えていた。




「ちゃんと——ありがとうって、言えなかった。ずっと——それだけ、後悔してた」




桃霞は——理解できなかった。




(心配を——かけたのは、私の方——なのに)


(どうして——莉恋さんが、謝るの)




言葉が——見つからなかった。


ただ——莉恋の震える背中に、そっと手を当てた。




その——時。




「桃霞ちゃん——!」




苺が——追いついてきた。




苺は——莉恋のように、抱きつかなかった。


だが——その目には、涙が滲んでいた。




こらえるように——一度唇を噛んだ。




「……バカ」




短く——それだけ、言った。


その一言に——すべてが込められていた。




心配。


安堵。




そして——言葉にならない怒り。




そこへ——他の四人も、駆けつけてきた。




「桃霞ちゃん——!」




向日葵が——真っ先に、声を上げた。




「桃霞——」




杏が——短く呼んだ。




「桃霞さん——」




若葉と——空が、それぞれ口にした。




七人が——交差点の片隅に、集まっていた。




苺が——涙を拭いながら、口を開いた。




「桃霞ちゃん——どこに、行ってたの」




桃霞は——一瞬黙った。


昨夜の——記憶を辿ろうとした。




「……わかりません」




正直に——答えた。




六人が——驚いた。




「え——?」




苺が——聞き返した。




「部屋で——寝た、はずなんです」




桃霞は——一つ一つ、言葉を選びながら続けた。




「でも——目が覚めたら。大阪城公園の——ベンチに、いました」




全員が——言葉を失った。




「……は?」




杏が——短く呟いた。




若葉が——冷静さを取り戻そうとするように聞いた。




「歩いて——行った、ということですか」




「そう——だと思います」




桃霞は——首を微かに振った。




「でも——覚えて、いないんです」




ポケットから——スマートフォンを、取り出した。




画面を——見せた。


大量の——着信履歴。


未読の——メッセージ。




「気づいたら——みんなから、連絡が来ていて」




苺は——それを見て、一瞬絶句した。


だが——すぐに、リーダーとしての顔に戻った。




「怪我は——?」




真っ先に——それを聞いた。




「ありません」




桃霞が——答えた。




空が——桃霞の顔を、覗き込んだ。




「体調は——?」




桃霞は——少し考えた。


そして——答えた。




「……わかりません」




昨日と——同じ、答えだった。


その——一言が六人を、さらに不安にさせた。




莉恋は——まだ桃霞の、腕を離さなかった。


抱きしめたまま——静かに、涙を流し続けていた。




朝の——交差点。


行き交う——人々の中で。


七人だけが——立ち止まったまま、動けずにいた。





つづく…




▼登場人物のイラストをpixivで公開中


https://www.pixiv.net/artworks/144793121

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