第103話 一人だけ違う景色
八月三十日(日) 午前七時十五分
朝食会場。
藤原が——スマートフォンを見ながら笑った。
「すごいな」
画面を——田中へ向けた。
「もう——『大阪城ホール』が、トレンド一位だ」
田中も——覗き込んだ。
「『伝説の——ライブ』」
「『七人体制——やっぱり最高』」
「『今年——一番、泣いた』……」
指で——画面を、送っていった。
「絶賛——ばっかりですね」
藤原が——満足そうに、頷いた。
「当然だ。昨日の——出来なら、こうなる」
エマが——トレーを持って、やってきた。
「海外——ファンも、すごいですよ」
スマートフォンには——英語や中国語、韓国語の投稿が——並んでいた。
*"Best concert ever."*
*"Momoka is amazing."*
*"Yumeiro Chiffon became perfect."*
エマが——笑った。
「海外でも——反応が、広がっています」
田中が——嬉しそうに言った。
「やっぱり——凄いですよ。ゆめいろシフォンは」
「七人になって——完全に軌道に乗り、一段上へ行きましたね」
藤原も——頷いた。
「全国ツアーも——武道館も、決まっている」
「昨日は——歴史が、変わった日だ」
その——会話を。
少し——離れた席で。
麻衣は——黙って、聞いていた。
コーヒーカップを——持ったまま。
一口も——飲めずにいた。
(本当に——そうなのかな)
昨夜。
控室で——見た桃霞。
笑えなくなった——少女。
「私、笑って——いませんか?」
あの——言葉だけが。
何度も——頭に、蘇ってきた。
SNSには——桃霞を褒める、言葉が溢れていた。
「新メンバー——最高」
「桃霞ちゃん——泣いた」
「表情に——感動した」
麻衣は——画面を閉じた。
(違う——)
(あれは——)
続きを——考えた。
だが——言葉に、ならなかった。
そこへ。
ホテルスタッフが——声を掛けた。
「メンバーの——皆さんは、まだ——お見えになっていません」
藤原は——時計を見た。
「疲れてる——んだろう」
「昨日は——遅かったしな」
気にも——留めなかった。
だが。
麻衣だけは。
胸の——奥が、小さく——ざわついた。
(桃霞さん——)
コーヒーカップを——静かに置いた。
まだ——一口も、飲んでいなかった。
会場の——喧騒は、変わらなかった。
藤原と——田中はまだ、トレンドの話を続けていた。
エマも——海外の反響を、確認し続けていた。
麻衣だけが。
一人——違う温度の中にいた。
――
八月三十日(日) 午前七時三十分
朝食会場。
六人が——順番に、集まってきた。
つづく…
▼登場人物のイラストをpixivで公開中
https://www.pixiv.net/artworks/144793121




