第102話 誰も眠れなかった夜
八月二十九日(土) 午後十一時三十分
大阪——ホテル。
七つの——部屋。
七つの——夜が、始まっていた。
**苺**
シャワーを——浴びた。
髪を——乾かしながら鏡を見た。
疲れた——顔が、そこにあった。
だが——それだけでは、なかった。
ベッドに——腰掛けた。
天井を——見上げた。
今日一日を——振り返った。
自分だけが違うフォーメーション。
新曲。
そして——あの、瞬間。
(桃霞ちゃん——)
考えても——答えは出なかった。
リーダーとして——何ができるのか。
わからないまま——目を閉じた。
眠りは——なかなか訪れなかった。
何度も——寝返りを打った。
**空**
窓辺に——立っていた。
大阪の——夜景を見ていた。
広報として——今日メディア関係者に答えた言葉を、思い返していた。
すべてを——語らなかった。自分に少し疲れていた。
だが——それ以上に。
桃霞の——あの目が、頭から離れなかった。
「体、大丈夫?」
「……わかりません」
その——やり取りだけが、繰り返し蘇った。
ベッドに——入った。
目を——閉じた。
だが——眠りは浅かった。
何度も——目が覚めた。
**向日葵**
部屋に——戻った瞬間。
いつもなら——すぐにはしゃぐ。
「今日、めっちゃ——楽しかった!」
そう——誰かに電話するか、メッセージを送るか。
だが——今日は違った。
ベッドに——うつ伏せに倒れ込んだ。
枕に——顔を埋めた。
(桃霞ちゃん——)
涙が——じわりと滲んだ。
理由は——自分でも、はっきりしなかった。
ただ——悲しかった。
ただ——不安だった。
しばらく——そのまま、動けなかった。
**若葉**
タブレットを——開いた。
いつもなら——今日のデータを、整理する時間だった。
移動量。
タイミング。
観客の——反応。
だが——今日は、指が止まった。
説明の——つかない現象。
数字にも——理論にも、当てはまらない出来事。
若葉は——タブレットを閉じた。
珍しく——何も、記録しなかった。
ベッドに——横たわった。
目を——閉じても、頭の中は動き続けていた。
分析できないことを——分析しようとする堂々巡り。
眠りは——遠かった。
**杏**
シャワーを——浴びながら、思い返していた。
(あれ——本当に、人間の動きじゃなかった)
自分の——体の感覚として、覚えている。
横で——起きたあの一瞬の出来事。
腕を——組んで、鏡の前に立った。
「……桃霞は、何者?」
小さく——呟いた。
ベッドに——潜り込んだ。
いつもより——早く目を閉じた。
だが——眠りには落ちなかった。
疲れているのに——頭だけが、冴えていた。
**莉恋**
椅子に——座っていた。
明かりを——落としたまま。
窓の外の——夜景だけが、部屋を照らしていた。
桃霞の——最後の言葉が、頭を離れなかった。
「……ごめんなさい」
何に対する——謝罪だったのか。
莉恋は——何度も考えた。
(私が——聞いたから)
(あんな風に——問い詰めたから)
いや——違う。
問い詰めた——わけではなかった。
それでも——罪悪感が、消えなかった。
スマートフォンを——手に取った。
桃霞の——名前を見た。
メッセージを——打ちかけた。
「大丈夫?」
送信は——しなかった。
消した。
もう一度——打った。
「今日、ありがとう」
これも——消した。
結局——何も、送れなかった。
スマートフォンを——枕元に置いた。
眠れないまま、夜が更けていった。
**桃霞**
一人の——部屋。
明かりを——つけなかった。
暗闇の——中で、ベッドの——端に座っていた。
両手を——見た。
先程の——感触が、まだそこにあった。
骨の——軋む音。
呻き声。
消えなかった。
(あれは——なんだったんだろう)
八百年——受け継がれてきた力。
初めて——使った。
その瞬間から——何かが決定的に、変わってしまった。
(皆を——守りたかった)
(それは——嘘じゃない)
(でも——)
歌詞が——頭の中で繰り返された。
「ここから——始まる」
自分の——心の中の言葉と重なった。
「終わりが——始まった」
(笑いたい——)
(でも——できない)
鏡台の——前に立った。
暗闇の中——微かに、自分の輪郭だけが映っていた。
口角を——上げようとした。
だが——動かなかった。
スマートフォンが——取った。
画面を——見た。
未読の——メッセージも、なかった。
桃霞は——それでも少しの間、画面を見つめていた。
やがて——伏せた。
窓の外——大阪の夜景を見た。
明日には——次の日常が始まる。
だが——今夜だけは。
誰にも——会いたくなかった。
誰の——顔も、見たくなかった。
ベッドに——横たわった。
目を——閉じた。
眠りは——訪れなかった。
ただ——暗闇の中で、消えない掌の感触だけを、感じていた。
つづく…
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