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このアイドル、どこかおかしい。一人だけ、笑っていない。  作者: Nagiousen


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102/115

第102話 誰も眠れなかった夜

八月二十九日(土) 午後十一時三十分




大阪——ホテル。




七つの——部屋。


七つの——夜が、始まっていた。




**苺**




シャワーを——浴びた。


髪を——乾かしながら鏡を見た。




疲れた——顔が、そこにあった。


だが——それだけでは、なかった。




ベッドに——腰掛けた。


天井を——見上げた。


今日一日を——振り返った。




自分だけが違うフォーメーション。


新曲。




そして——あの、瞬間。




(桃霞ちゃん——)




考えても——答えは出なかった。


リーダーとして——何ができるのか。




わからないまま——目を閉じた。


眠りは——なかなか訪れなかった。


何度も——寝返りを打った。




**空**




窓辺に——立っていた。


大阪の——夜景を見ていた。




広報として——今日メディア関係者に答えた言葉を、思い返していた。


すべてを——語らなかった。自分に少し疲れていた。




だが——それ以上に。


桃霞の——あの目が、頭から離れなかった。




「体、大丈夫?」




「……わかりません」




その——やり取りだけが、繰り返し蘇った。




ベッドに——入った。


目を——閉じた。


だが——眠りは浅かった。


何度も——目が覚めた。




**向日葵**




部屋に——戻った瞬間。


いつもなら——すぐにはしゃぐ。




「今日、めっちゃ——楽しかった!」




そう——誰かに電話するか、メッセージを送るか。


だが——今日は違った。




ベッドに——うつ伏せに倒れ込んだ。


枕に——顔を埋めた。




(桃霞ちゃん——)




涙が——じわりと滲んだ。


理由は——自分でも、はっきりしなかった。




ただ——悲しかった。


ただ——不安だった。




しばらく——そのまま、動けなかった。




**若葉**




タブレットを——開いた。


いつもなら——今日のデータを、整理する時間だった。




移動量。


タイミング。


観客の——反応。




だが——今日は、指が止まった。


説明の——つかない現象。


数字にも——理論にも、当てはまらない出来事。




若葉は——タブレットを閉じた。


珍しく——何も、記録しなかった。




ベッドに——横たわった。


目を——閉じても、頭の中は動き続けていた。




分析できないことを——分析しようとする堂々巡り。


眠りは——遠かった。




**杏**




シャワーを——浴びながら、思い返していた。




(あれ——本当に、人間の動きじゃなかった)




自分の——体の感覚として、覚えている。


横で——起きたあの一瞬の出来事。




腕を——組んで、鏡の前に立った。




「……桃霞は、何者?」




小さく——呟いた。




ベッドに——潜り込んだ。


いつもより——早く目を閉じた。




だが——眠りには落ちなかった。


疲れているのに——頭だけが、冴えていた。




**莉恋**




椅子に——座っていた。




明かりを——落としたまま。


窓の外の——夜景だけが、部屋を照らしていた。




桃霞の——最後の言葉が、頭を離れなかった。




「……ごめんなさい」




何に対する——謝罪だったのか。


莉恋は——何度も考えた。




(私が——聞いたから)


(あんな風に——問い詰めたから)




いや——違う。


問い詰めた——わけではなかった。


それでも——罪悪感が、消えなかった。




スマートフォンを——手に取った。


桃霞の——名前を見た。


メッセージを——打ちかけた。




「大丈夫?」




送信は——しなかった。


消した。




もう一度——打った。




「今日、ありがとう」




これも——消した。


結局——何も、送れなかった。




スマートフォンを——枕元に置いた。


眠れないまま、夜が更けていった。




**桃霞**




一人の——部屋。




明かりを——つけなかった。


暗闇の——中で、ベッドの——端に座っていた。




両手を——見た。


先程の——感触が、まだそこにあった。




骨の——軋む音。


呻き声。




消えなかった。




(あれは——なんだったんだろう)




八百年——受け継がれてきた力。


初めて——使った。




その瞬間から——何かが決定的に、変わってしまった。




(皆を——守りたかった)


(それは——嘘じゃない)


(でも——)




歌詞が——頭の中で繰り返された。




「ここから——始まる」




自分の——心の中の言葉と重なった。




「終わりが——始まった」




(笑いたい——)


(でも——できない)




鏡台の——前に立った。


暗闇の中——微かに、自分の輪郭だけが映っていた。




口角を——上げようとした。


だが——動かなかった。




スマートフォンが——取った。


画面を——見た。




未読の——メッセージも、なかった。




桃霞は——それでも少しの間、画面を見つめていた。


やがて——伏せた。




窓の外——大阪の夜景を見た。


明日には——次の日常が始まる。




だが——今夜だけは。


誰にも——会いたくなかった。


誰の——顔も、見たくなかった。




ベッドに——横たわった。


目を——閉じた。


眠りは——訪れなかった。




ただ——暗闇の中で、消えない掌の感触だけを、感じていた。





つづく…




▼登場人物のイラストをpixivで公開中


https://www.pixiv.net/artworks/144793121

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