06 新大陸『布告:アネニス開拓団の募集』
『イルミア王国植民局 布告:アネニス開拓団の募集』 AE 771年
【告、全ての天を仰ぐ民へ】
偉大なる航海者マガルフ船長の発見により、天柱雲が洋上を渡る空白地帯の下に、広大なる新大陸の実在が証明された。
かの地、アネニスは温暖な気候と、種を落とせば直ちに芽吹く黒き肥沃な大地に恵まれている。 深き森には香り高き香木や未知の甘露なる果実が溢れ、川底には陽光を浴びて輝く砂金が散る。
まさにオグの種の撒かれた太初の大地がそこにある。
しかるにかの地の住人は天空宮を巨大な鷲の巣と呼びつけ、自身を鷲の子孫と名乗る野蛮な輩である。
我ら敬虔にして理知あるイルミア国民こそがかの地で支天の民として主神オルスを支えねばならない。
現在、新大陸アネニスにおいては王家より全権を委任されしマガルフ新大陸総督の元、植民都市を建設中であり、多数の開拓者を募っている。
さあ、希望の船に乗り込め。 新しき大地に、正しき信仰の礎を築くのは諸君らである。
『考古学者エミール・ヴォーンの手記』AE 890年
新大陸アネニスから運んだ香木と黄金により、私は巨万の富を得た。この富を、私は少年期よりの情熱――――古代の物語の史実性の証明に捧げることとした。
取り掛かったのは『ヤナル人に関する八巻』の守護者ゴーレムの実在である。
幼い頃の私は敬虔なミズシ派であった祖母の膝の上で、ゴーレムが地上に降り立ったその瞬間を幾度も追体験した。 祖母の皺枯れた、しかし信仰の熱を帯びた声が物語を紡ぐたび、幼き私の瞼の裏には、天柱雲を裂いて現れる鉄の巨人の姿がありありと浮かんだものだ。
悪しき軍勢を踏み砕く轟音、瞳の紅玉から放たれる火矢。あの時、私の魂は確かに二千年前の戦場にあり、ゴーレムの足元でヤナルの民と共に歓喜の声を上げていたのだ。
調査は、ヤナル人の長老たちの歓待と協力のもとに始まった。彼らに教えられたゴーレムが降り立ったという平原に赴いた私は――――むろん彼らがムルノア公国に立ち入ることは許されなかったのだが――――現地の領事に、新大陸アネニスの希少作物を移植するための大規模な農地開発投資であると持ちかけた。
黄金の輝きは領事の警戒心を容易く溶かした。私は灌漑用水路の掘削という名目のもと、何百人もの人夫を動員し、平原を徹底的に掘り返したのである。
すると私は地下深くの地層から、広範囲にわたり岩が溶け、瑠璃と化した痕跡を発見した。これこそ聖典にある「瞳の紅玉からの火矢」の跡である。私は歓喜し、神の御業を讃えた。やはりヤナルの聖典は真実であったのだと。
しかも現地の古老が言うには、遠き南の方向に同じものを見たという。これこそがヤナルの民を導いた先導の足跡に違いない。私は意気揚々と調査隊を南下させた。
しかし、その調査の内に私の熱狂は冷たい疑念へと変わっていった。
たしかにムルノア公国の国境付近にその痕跡は見つかった。岩山を穿つ瑠璃の痕跡であった。しかしそれは聖地ミズとはまるで違う海岸にあったのだ。
『ヤナル大老連の七人による告』 AE 906年
我らの神聖なる歴史を汚す冒涜者、エミール・ヴォーンを断罪する。
罪の一つ。この薄汚い黄金の豚は、唾棄すべきムルノアの盗人共に金色の餌を撒き、神聖なるヤナルの守護者の降り立った聖土を無残に掘り返した。
罪の一つ。守護者の先導の道筋を歪めた。ヴォーンは守護者がひたすらに南に直進したと主張する。ならば我らのか弱き始祖たちは守護者の先導なくしていかにして聖地ミズまでたどり着けたというのか。
罪の一つ。主神オルスの御業への侮辱。守護者が流星の衝突により地上に落下したと主張するヴォーンの愚かなりかな。守護者は去り行く天空宮を追いすがったために南下したという。語るに落ちる言なり。それが事実ならば一年を聖地ミズで待てば良いだけ。守護者の腕が天使の羽根となるは始祖たちの語るところである。




