05 天昇る祈り『天への請願の手紙の写し』
『聖ミルズ教会収蔵:天への請願の手紙の写し』AE200年頃
神よ。
我が名はテオロス。聖ミルズ教会の教会師であります。
これは遠き東洋の国、シイから取り寄せた樹帛をもって籠に仕立て、内に据えた蝋の熱の元素でもって天の領域に届かせん仕組みにございます。
むろん神の眼差しは日の陽光と雲の陰光とでもって遍く我らに降り注がれるもの。この稚拙な企てなど、とうに見通されておいででしょう。
人に許されるのはただ天を仰ぎ見ることと知りながら私は罪を犯します。きっと裁雷がこの身に落とされることでしょう。
ですが私は請願しなければなりません。
神よ、あなたの真の言葉を地上に与え給えと。
教皇によって歪められた偽りの言葉ではなく、あなたのまごころをどうか哀れな民たちに齎されんことを。
『聖ミルズ教会発行:春季燔祠の儀の布告』AE288年
来たる四の月の初め、天空宮の来臨をもってヒルヒカの丘で燔祠を執り行います。
此度、天へと昇る昇梯籠は東方ソウ国より購った一点の曇りもなき純白の樹帛を修道女が貼り合わせたものです。司教が起こした聖火を種火とし、ソルベ製の蜜蝋に灯します。
ですがこの昇梯籠を真に天空宮に御わす主神オルスへと届けるには皆さんの贖罪の真心が必要なのです。
赦免箋を聖火の焚き付けに使うことで、その炎は罪を焼き尽くし清らかな熱気となって昇梯籠を天高く押し上げるのです。正しく昇梯籠がオルスの御許に届いたとき、皆さんの罪は赦されるでことでしょう。
この一年の己の罪と向き合い、真心から贖罪を求めるとき、赦免箋がその助けになります。
赦免箋は聖ミルズ教会より三の月の初めより配布いたします。
【白箋】銀貨10枚の寄進と交換
隣人との語らいにおいてつい声を荒らげてしまった、などの罪に
【茶箋】銀貨30枚の寄進と交換
商いにおいて、客の歓心を得ようと心にもない追従や美辞麗句を口にしてしまった、などの罪に
【黒箋】金貨8枚の寄進と交換
他人の財貨を羨む、兄弟の妻に劣情を抱く、などの罪に
『新大陸航海記:マガルフ船長記録』AE 752年12月10日
ようやく嵐から抜け、三日ぶりの星図観測をすれば我々はルレシア大陸から3000ピグも離れていることが分かった。
北東風に逆らうための側帆は失われ、海流は容赦なく船足を絡め取る。
どう計算しても故郷まで水も食糧も保ちはしない。いや、その前に私は船員たちに海に突き落とされるだろう。
もはや神に祈りを捧ぐ他あるまいと天を仰ぎ見れば、まさにその神のお座す城の白き壁が目に入った。
懐かしき故郷の草原で見上げていたのと同じ変わらぬ威容であった。
私は親交のあるミズシ派の牧師の言葉を思い出した。
神の眼差しは等しく大地に注がれると。
つまり神があの宮殿で渡ってきた先、そこにも人が住まうべき大地があるはずなのだと。
彼の計算によれば、天空宮が遥か東のソウ国からルレシア大陸に戻るまでにおよそ140日がかかるという。それだけの長い時間を仰ぎ見る者がいないはずがない。でなければ天空宮は天たりえないのだから。
天空宮はゆっくりと東へと流れていく。
フロンティアだ、と私は皆に叫んだ。
もはや故郷に戻りはしない。このまま帆をはり西に進むのだ。その先にはオグの種を撒かれた大地があるはずだ。
この日、私は神の啓示を受け取ったのだ。
《備考》
天空宮がなぜある国の上空を通り、あるいは通らないのか。同じ国土の中でさえ、影の恵みに与る地とそうでない地があるのはなぜか―――――この問いは、古代の人々にとって切実な関心事でした。神による選別があるのだと解釈するのは、当時の人々の思想からすれば自然な帰結です。ですが実際にはこの軌道は選別の意志によるものではなく、天空宮が一年の周期で地表をいかに効率よく走査するか、という一点にのみ基づいて定められた航路です。この事実は精密な測地技術と球面幾何学の発展を待って初めて明らかになるものであります。それ以前は恣意的な、あるいは神慮による人智及ばぬ道行きとしか理解しようがありませんでした。
またその信念はもう一つの推測も生みました。天空宮が長い航程の少なからぬ部分を海上に費やすのならばその真下にはまだ見ぬ陸地があるはずだ、という考えです。この推測に基づき、幾人もの船乗りが未知の大陸を求めて出航しました。マガルフ船長の名だけが歴史に残っているのは、彼が生還し記録を書き残した、ほぼ唯一の人物であったためにすぎません。
【恩寵の巡行】【幻の黄金大陸】【鄧倭船団】
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