25 天へ『ヴァルデンの天空要塞三号機に関する緊急報告および作戦立案要請』
アネニス合衆国国家安全保障局 極秘文書 AE 1263年12月22日
『ヴァルデンの天空要塞三号機に関する緊急報告および作戦立案要請』
一、状況を共有する
ヴァルデン帝国が建造を完成させたと見られる天空要塞三号機(仮称)アンタイオスについて、イルミア王立情報局からの報告により、その真の用途が判明した。
当初我々はアンタイオスをグレンデルの後継——すなわち周辺国への軍事的威圧を目的とした天空要塞——と判断していた。エストリアからネーデルン連邦までのHVR-2の展開交渉もその前提に基づいていた。しかしイルミアの報告は全く異なる事実を示している。
アンタイオスの外観には砲塔も爆弾投下ベイも固定機銃も確認できない。スルトがHVR-1対策として後付けした機体下部全周の散弾幕散布装置に類するものも防護ネットも見当たらない。周辺国への軍事攻撃・威圧を目的としないことが明らかである。
また機体はグレンデル・スルトとは全く異なり、円盤型の扁平構造の船体に、下部に円盤の半分程度の直径の筒が繋がり、その筒から三本の円筒状のユニットが斜め下方に広がり、機体を支えるという構造である。この形状は与圧構造として合理的であり、各所の舷窓は全て丸窓、ハッチの厚みも1・2号機をはるかに上回る。高高度での運用を前提とした設計と判断される。
さらに搭乗員の選抜に血統証明書の提出が義務付けられていることが確認されている。同国にザートケール思想が蔓延していることは承知しているが、軍事任務の乗員選抜にこれほど厳格な血統条件を課す合理的な軍事上の理由は存在しない。
また来年4月8日、天空宮がヴァルデン本国上空に到来するタイミングに合わせてヴァルデン全軍に何らかの軍事行動の予兆を掴んだ。完成したアンタイオスに関して国民への事前告知は一切なく、グレンデルのような国威発揚を目的としたお披露目の可能性は低い。秘密裏に遂行される作戦と判断される。
以上四点を総合し、アンタイオスは天空宮への到達を目的として設計された機体であると判断する。
ヴァルデンは天空宮への到達を軍事的優位の回復と結びつけている。天空宮に何があるかは不明だが、ザートケール思想が国家レベルで浸透した現在のヴァルデンが天空宮に至った場合、その政治的・軍事的影響は計り知れない。
よって本局はアンタイオスの天空宮到達を阻止することを最優先の行動事項とする。
二、課題を共有する
アンタイオスに対しHVR-2による迎撃を検討したが、以下の理由により不可能と判断した。
第一に、アンタイオスはヴァルデン本国の直上から垂直上昇する経路をとることが確実である。直径45セクの機体に対し周辺国に配置したHVR-2では有効射角を確保できない。
第二に、ヴァルデン本国上空への攻撃は西州領空主権条約の明白な違反となる。アンタイオスがヴァルデン本国領空内を飛行している限り、周辺国による迎撃の法的根拠は存在しない。
第三に、天空要塞二号機スルトが健在である。機動性に劣るスルトであるが、その防御性能と保有火力はグレンデルを凌駕する。間違いなく高度8セクまではアンタイオスの護衛とし、HVR-2対策とするはずである。
三、作戦方針を共有する
現状、アンタイオス及びスルトの高度帯と速度域で唯一対抗し近接できる機体はハミングバード機のみである。しかしその攻撃力は著しく限定的である。機関銃と鉤爪ワイヤーで天空要塞を落とすことは不可能である。
爆弾の搭載を想定しても積載できるのは数十キロ程度が限界であり、天空要塞の装甲を貫通するには到底足りない。しかし天空要塞の浮揚機構を考えると、第一層外殻程度の破壊ではアンタイオスの浮上能力を奪うことは難しいと判断する。
結論として、現有戦力によるアンタイオスの物理的破壊、および天空宮到達の完全な阻止は極めて困難であると言わざるを得ない。




