18 浮かび上がるスフレ『粉挽きおじさんハンスの小麦粉おすすめレシピ』
『粉挽きおじさんハンスの小麦粉おすすめレシピ』
朝、リグ豆のスープとライ麦パン。
今日のパンはレンガより固い。塩気ばかりのスープに浸して食べる。朝食でまでパンの固さに悩まされるなんて。せめてバターを混ぜることすらできないのか。
堅パン#7-Cの追加試験。出力は相変わらず F ≈ orna/r² で頭打ち。
続けて破砕試験。堅パン1つを1/32にしても出力低下なし。
我々のオーブンが生み出す最大火力など誤差にすぎないということだ。中央のやつらはこいつを厨房ごと吹き飛ばしたが、逆に言えば街中の火力を集めてもその程度でしかないんだからな。
恐らくパン粉にしても機能するだろう。そいつで薄切り肉にまぶしてシュニッツェルにするか。
―――――4班の解析結果が出た。
やはり分割すると、そのサイズだけで自己完結するように内部構造が再編成されるとのこと。
ある種の細胞か。
昼はレーズンパン。レーズンが5粒しか入っていないパンをそう定義できるなら。
おまけにこれも固い。リュミエのパン職人を雇っているのか?
問題は依然として干渉だ。
1/32にスライスした堅パンを10c以内に配置すると相互に出力が70%低下。
プレットクッキーをオーブンで焼くときは指三つ分は離さなきゃくっつく。お袋の教えだ。
1/16片と1/32片の2枚の組み合わせで干渉域が8.5cに収まる。だが火力の調整がずれれば丸焦げだ。
どっちがコンマ1秒でも遅れればそのたびにオーブンが破裂だ。
空飛ぶ大皿はこいつを敷き詰めてただろうが、どう制御していた? 具材を入れた鍋の上と底をまったく同一の温度のままシチューに仕立てるような御業だ。
ヒーツ通りのラミル菓子店が再開のニュース―――ようやくあの極上のクロッツクーヘンを味わえるときがきた。
この問題が解決したら原木で丸ごと買ってやる
…………そうだ、なぜ私は堅パンを小さなオーブンに収めようとしていた?
クロッツクーヘンをオーブンで焼くのは三流店だろう。あいつは長い火床の上で丸太みたいに太く長く焼き上げるのが本物ってやつだ。
堅パンが相互に干渉するなら望み通り引き離してやればいい。
鉄板を10倍、いや100倍にしよう。オーブンは1000倍だ。
コンロは10は必要になろう―――――
[↹]
【F100=100×(32/orna)×ηsep
ηsep≈0.81, F100≈253.56 lin
W10K=11.0 t<F100】
いける。10台のコンロの重量およそ11tを堅パン100片の膨らみ力253.56リンカが上回る。
火力の連動は捨てる。100片の堅パンに均等に火力を振り分けるなんてゴルデ・レーヴェンの料理長にだって不可能だ。だが堅パンの下にコンロの籠をぶら下げておけばいい。
まさに膨らんだスフレにバケットを引っ掛けて妖精の国まで飛んだ小さなコックのリーゼルだ。
今夜のデザートはクロッツクーヘンの原木だ。
総統もこの極上の甘さにお喜びになるだろう。
※本資料は非構造化雑多文書コーパス内より抽出された。語彙共起解析および構造パターン照合の結果、帝国期反重力研究資料群との一致率86%を記録し、検索結果に昇格表示されている。
[↹]【クラウゼ実験メモ AE1248年5月17日】として採択。
※既述者"粉挽きおじさんハンス"はヴァルデン帝国軍兵器開発局技術主任ヘルムート・クラウゼ博士と断定。
[帝国技術院会員][多層浮揚プラットフォーム][クラウゼ調理器KG]
※文書内数式は墨消し処理が施されており、可視文字数・記号配置パターンから逆算的に復元。
※ロンブル技術再現計画における初期試作機の概念設計段階の一次資料であり、AG結晶体の出力制御の不安定性から、計画が分散配置による受動浮力方式及び船体の大型プラットフォームへ移行したことを示唆する。"次世代型飛行船グレンデル"への設計思想の源流を示す。




