17 天からの零れ種『季刊・真実の探求:"零れ種"大特集号』
季刊『真実の探求』 1250年冬号
話題騒然『零れ種』特集!
【二大陸戦争はノウストラル大陸の零れ種を巡る争いだった!? タルキアに漂着した木箱の謎を追う!】
世界中に数多く残る天柱雲やロンブルから齎された、あるいは零れ落ちた秘宝の謎を追う本特集の最後はノウストラル大陸に眠っていた零れ種、『羽鉄』である。
この大陸の資源を巡りヴァルデン帝国とアネニス合衆国が同盟国を巻き込んで争い、1800万人もの犠牲者を出した二大陸戦争の記憶は読者諸兄におかれても色濃く残っているであろう。
だが実のところヴァルデンにとってもアネニスにとってもノウストラル大陸は必ずしも死守すべき土地ではなかった。
当時の状況を見ればヴァルデンは植民地経営は順調であり、アネニスも自国内で巨大な油田が見つかったばかりであった。
むろんノウストラル大陸に先に目をつけたのはアネニスであり、そこへヴァルデンが実効支配に動いた以上、大国の威信をかけた対立が起きるのは避けられなかっただろう。しかしそれだけであれほどの総力戦にまで発展したと考えるには両国が失ったものが多すぎる。
だが小誌は、その真の理由を掴んだ。
それはノウストラル大陸で発見された零れ種こそが両国の真の争いの種であったという真実である。
戦争がヴァルデンの敗戦が濃厚な流れになった1241年の5月のことである。タルキアのポルトマーレ沿岸に貨物船が難破した。
船体は大破して船倉は浸水。甲板は波で削り取られたように荒れ果てていた。
船名板から、船名はノルトヴィント号と判明。エストリア公国船籍の貨物船だった。
後に船内で発見された生存者は二等船員のわずか2名。
他の船員は全員、嵐で海に呑まれたという。
以上は通報を受けて駆けつけた沿岸警備隊の調査によるものだが、このとき難破船の近くには二つの木箱も流れ着いていた。
その木箱は地元の漁師によって持ち去られようとしていたのを、警備隊によって確保されている。
その後、警備隊はノルトヴィント号の船主に連絡を取ろうとするが連絡がつかない。
エストリア公国海運省によればそのような船は存在していないという。
生き残りの船員によれば船はノウストラル国を出航し、リュミエを目指していたという。
だがリュミエの港湾局にはノルトヴィント号の入港申請は記録されていない。
そして木箱の刻印番号を辿ればノウストラル国のエストマーク商会の貨物となっているが、この商会はノルトヴィント号の出航と同時に突如として廃業している。
さあ、ここに隠された何かがあったと読者諸兄のヴェリタス魂が震えているだろう。
ここにタルキア王国沿岸警備隊の関係者の証言がある。匿名を条件に小誌に特別に語ってくれた。
「実のところ、あの時期に難破する船が訳ありってのは珍しいことじゃない。タルキアの沖合いはやたらと低気圧が発達するんだが、この時分だと洋上を天柱雲が通過するわけだ。すると嵐蹴りが発生する。野良嵐が神様の雲にぶつかって弾き飛ばされるんだ。
どういう理屈かは分からんのだが、そんときの嵐ってのは運がよきゃ小さくなるし、まあ大抵は風も雨も強くなる。おまけに弾かれる先がどっちになるかは誰にも分からんときた。ひどきゃUターンすることもある。
だから嵐と天柱雲がぶつかるタイミングのときはまともな船はみな海には出ない。つまり天柱雲の渡る海に繰り出そうなんて奴はまともじゃないわけだ。麻薬の密売か犯罪者の高飛びか御禁制の密輸か。
木箱を見れば御禁制の品だってのが分かった。樫の木板で組まれて分厚い鉄帯で囲われていたからな。黄金だってあそこまで厳重にしないさ。それに少し考えれば分かる。ノウストラルからの荷であんなルートを通ったってことはアネニスの海上封鎖を逃れるためで、ってことは本当の行き先はヴァルデン以外にありえない。つまり特級の厄モンだ。
ところが木箱の中身は意外な物だった。ああ、見たんだよ。俺達が駆けつけたときには地元の浜鼠―――――漁師くずれの半端者のことだが、そいつらがとっくに木箱を割っていたからな。
浜鼠たちをとっ捕まえて中身を確認したら鈍く銀がかった金属の板だった。手帳程度だったり、机の天板くらいだったり、ドラム缶を割ったみたいに曲げられてたり、サイズは様々なのが数枚。どいつも端がちぎれたようになっていた。
そう、まさに難破した船の破片といった風の。
わけが分からないだろ。こんなもんを何で御丁寧に木箱で包んでいたのかって。
だがそいつを手にとってさらにわけが分からなくなった。
軽すぎたんだ。
戸板の大きさなのに片手で引き上げられた。最初は厚紙に銀箔をしていたのかと思ったくらいだ。だが端のとがりに触れればこちらの手が切れた。並のナイフどころじゃない鋭利な切れ味だったよ。
それに後で尋問した浜鼠たちが言っていたんだ。苦労して木箱を壊して中身が金属の破片だったものだから、奴らは腹いせにハンマーでそいつをぶん殴ったって。だがその金属はへこみもせず、傷の一つもつかなかったと。
自分でも試したのかって?
いや、そいつはできなかった。
事件の翌日にはアネニスが乗り込んできたんだ。どこで嗅ぎつけたかアネニスの情報部が首を突っ込んできた。軍の所属であることを隠そうともしない剣呑な連中だった。戦時中にマルコーニ首相がアネニスに尻尾を振っていた頃だ。上も抵抗できずに生き残りの船員も船の残骸も、もちろん金属片だって木箱の破片ごと持っていかれた。
俺たちはその引き渡しに立ち会った。それはまさにタルキアに天柱雲が来た日のことだ。モンテ・アルヴォ山で聖影被りの大祭が開かれているその時分に。
アネニスの情報部の人間は沿岸警備隊司令官のサインの入った書類を突き出してきて、俺たちは黙って従うしかなかった。
収監庫の鍵を開けば、アネニスの奴らは後は自分たちだけでやる言ってずけずけと中に入っていった。
収監物はそいつだけじゃないんだ。俺は一言文句くらいは言ってやろうと室内に顔をつっこんだ。そのときに見たんだ。金属片が青白く光っているのを。
見たのはその一瞬だけだ。神秘的で、美しく、それでいてどこか恐ろしい光だった。俺は海に関わって生きてきたんだ。海には見ちゃいけないもの、気づいてはいけないものがあることを知っている。その最たるものだと直感した。とっさに部屋から出た。
きっと情報部の奴らはその光から目を離せなかったんだろう。俺が気づかれずに身を隠せたのは。そうでなきゃ消されていたかもしれん。
ノウストラル大陸からヴァルデンに運ばれようとした木箱の中身はあの金属片で間違いはなかったんだ。アネニスもあの光を求めていたに違いない。だからこそあれほど急いで奪いに来たんだろうよ」
取材を終えて小誌は確信した。あの木箱の中身こそが、ノウストラル戦争の真の目的だったのだと。恐らくはノウストラル大陸のパワースポットたる古き巨石の環に眠っていたのがその零れ種、羽根のように軽い金属板『羽鉄』であったのだ。
アネニスはそれを求めてノウストラル大陸に目をつけ、ヴァルデンは強引に横入りし、両国は世界を巻き込んで争った。
その渦中でヴァルデンは羽鉄を見つけ、嵐の中を決死行で突破しようとしたのだ。だが陽光はヴァルデンに影光はアネニスへ。羽鉄はアネニスの手にわたることになった。
ではアネニスの手にした零れ種の奇跡は何だったのであろうか。
ただ金属にあらぬ軽さだけではない。その真価は天柱雲の到来に合わせて放った光である。
小誌の推測ではそれはかつて天空宮が渡ってきた宇宙の果てアストラルエリア、その宇宙聖地へ思念を届かせる思念伝達器の素材であろう。天空宮がアストラルエリアから人類の精神的進化を促すために送り込まれていることは読者諸兄ならばもちろん理解していよう。ならば彼らがアストラルエリアに我々の準備が整いし時を伝えようとするとき、当然それは光速の限界を越える思念の力を用いた物にならざるを得ないのだから。
そのとき人類全体の思念を集合させ、遠きアストラルエリアに放つならば巨大なパラボラアンテナが必要になろう。羽根のごとき軽さと天柱雲にリンクする思念感応体である羽鉄はまさにその素材である。
残念ながらこの推測を裏付ける証拠を提示することはできない。この難破事故に関する調書はタルキアに残されていないからだ。
だが手がかりは残っている。
ノルトヴィント号は3号クラスであったというのだ。つまり貨物はもっと積まれていたと考えるのが自然である。その木箱は船が嵐に直撃した沖合いの底に眠っている可能性があるのだ。
むろん小誌はこの可能性を逃すつもりはない。いずれ機会と資金が都合つけばさらなる調査に赴く予定である。
読者諸兄の応援を乞う。送金口座は「ALB58869-753」
次回予告!
好評に答えて次号も零れ種を大特集。
極東の島国ヤシロに眠る「龍玉」の謎を追う!




