12 ふわふわ綿あめ機と戦争『モンテ・アルヴォ山の山小屋主 ジョヴァンニの日記』
『デイリー・センティネル』 AE1238年12月5日 (夕刊・特報版)
【見出し】
合衆国、ヴァルデン帝国に宣戦布告!
グラント大統領、ノウストラル解放を宣言
――プラザを埋める十数万の市民、熱狂の渦に
【本文】
本日、アネニス合衆国の首都イーグルトンにシャドウシーズンの終幕が訪れた。しかし、今年の影光を切り裂いたのは来るべき勝利への確信に満ちた合衆国の巨大な咆哮であった。
夜明けより首都の西の空からより悠然と進み来た天柱雲の巨大な影を迎え、イーグルトン市民も次々と家々の電飾や窓辺の灯りを点していく。
やがて天柱雲の影がホワイトプラザに達した瞬間、大統領府を囲む大型投光器が一斉に点灯し、無数の光の筋が冬の空へと立ち上った。合衆国の工業力と技術力を体現するグランドシャドウの演出に、広場を埋め尽くした十数万の市民から地鳴りのような歓声が上がった。
無数の光の筋が交差する大演壇の中心に、トーマス・A・グラント大統領が静かに歩み出た。熱狂に沸く群衆が水を打ったように静まり返る中、大統領の力強い声が拡声器を通じて首都の空に響き渡った。
「今この瞬間、神の御照覧のもと、私は全合衆国国民に申し上げる。ヴァルデン帝国によるノウストラル大陸を我が物にせんとする試みは同大陸の平和を脅かすのみならず、自由を愛するすべての民への直接的な挑戦である。我々は、強欲なる帝国による資源の簒奪を断じて許さない。力による弱者の搾取を許さない。自由と正義が損なわれることをこれ以上見過ごすことはできない。アネニス合衆国はここに、ヴァルデン帝国に対し宣戦を布告する!」
大統領の言葉が終わると同時にプラザは割れんばかりの歓声に包まれた。国民はすでに知っていた。この日が来ることを。この宣言を待っていた。
本紙の世論調査では市民の82%が開戦を支持している。これはもはや政府の決断ではなく、合衆国国民全体の意志である。
ヴァルデン帝国は昨年よりノウストラル大陸北部沿岸に港湾施設を建設し、周辺海域を航行する他国商船に対して検問と航行妨害を繰り返してきた。未開地開発に関するタバス条約に違反する行いであるが、合衆国及びイルミアの抗議に対し帝国側は「ノウストラル大陸における帝国の活動はすべて正当な開発行為であり、いかなる国際法にも抵触しない」との声明を繰り返すばかりであった。
『モンテ・アルヴォ山の山小屋主 ジョヴァンニの日記 AE1240年4月7日』
朝方、トムスの叔父貴が新聞をもってかけこんできた。
アネニスとヴァルデンのいざこざにタルキアも参戦だと。マルコーニの馬鹿め。
来月は聖影被りの大祭だというのに。今年はわざわざ綿あめ機を新調したんだぞ。出来上がりが天柱雲の形になるって最新の機種だってのに。
戦争になれば、ガイド料も宿泊料も全部パアだ。モンテ・アルヴォに客が来るなんてこの時期だけだ。それ以外の季節なんか一日に数人来ればいい方だ。
ヴェラータのある一ヶ月で一年分を稼ぐんだ。親父もその親父もそうしてきた。俺もそうしてきた。
天柱雲はそのためにこの山にお越しになるってのに。
それが戦争だと。そんなもんが始まったら誰がこんな国の端っこの険しい山に来る。そりゃ教会の敬虔な信徒はくるだろうが、あいつらはたかが20ルフの綿あめすら買い渋るんだ。
今年は買い替えた分で25ルフにしなきゃならんと思っていたのに。戦争になったら砂糖だって値上がりする。今だって1袋で400ルフもするんだ。あの強欲商人どもなら3000ルフにしたっておかしくない。
移民上がりとヴァル公が勝手に争っているのを、なんでタルキアが首を突っ込む必要がある。勝手にやらせておけばいい。
ああ、神よ。どうかあいつらに神雷を落とされんことを。マルコーニにも。
叔父貴が持ってきたリグ豆でマリアがスープを作ってくれた。うまかった。それだけが今日の救いだ。




