11 聖域『万国子午線会議 決議記録』
『万国子午線会議 決議記録』
決議日付:AE 1301年6月9日
会議場:イルミア国・首都中央議事堂
本会議は万国を構成する文明諸国の代表たる14ヶ国の全権代表者が一月に渡る審議の末、以下の決議を採択した。
第一決議【基準子午線の採択】
本会議はすべての参加国が、今後の海図および天体暦において基準として共有すべき“本初子午線”を採択することを決議する。
第二決議【経度の指定】
本会議は本初子午線として天柱雲が赤道上の大洋中央において9月4日に行われる海水の揚水に伴う24時間の完全停止地点を採用する。
これを経度0と指定する。
並びに公称として『静止点』を採択する。
第三決議【経度の計算】
経度は上記の本初子午線より起算し、東回りおよび西回りの双方へ180度まで計測されるものとする。
第四決議【航行の安全と非武装化】
静止点直下の流砂上海域を含む半径50セクの海域は、全人類の聖地とし、いかなる国家も同海域における軍事的航行、ならびに排他的な占有権を主張しないことを参加各国は合意する。
『ヴァルデン帝国参謀本部・第三諜報局 極秘報告書 No.1914-G』
本文書は最高機密に属す。閲覧権限は局長以上に限定される。
第一項 静止地点調査の現況
静止地点への第9次アプローチは失敗に終わった。投入した無人観測艇2隻、および本作戦のために2年の歳月と帝国技術院の総力を費やして開発した有人潜水艇タウゼント号はいずれも流砂状海域の境界付近で沈没、回収不能となった。乗組員2名は現在も消息不明であり、生存は絶望的。
しかし今次作戦において「N0°00'~N2°00'、E0°00'~E2°30'」の範囲における海底地形データの取得に初めて成功した。これは本局の4年にわたる調査の中で最大の成果である。
データが示す結論は明確である。静止地点の海底には人工的な構造物の残骸が存在する。
かつてそこに島があったことはほぼ確実であり、本来あったはずの島の上部地形には広範囲にわたりフルグライト状の岩石が確認されることから、何らかの極めて短時間に発生した異常高熱によって溶融・消失したと思われる。
熱源の性質については現時点で断定を避けるが、既知のいかなる自然現象とも合致しない。火山活動による可能性はマグマ痕跡の不在から事実上排除されている。
なお当海域では以前よりコンパスの異常偏差および局所的な水温低下(周辺比マイナス8度)が継続して観測されているが、今次調査において天柱雲の通過時刻との相関が初めて確認された。
天柱雲が当該座標の真上を通過する前後12時間において、異常偏差の振れ幅が通常時の2.7倍に達することが観測されている。海底の残骸と天柱雲の間に何らかの応答関係が存在することはもはや疑いようがない。
しかしながら今後のアプローチには重大な障害が生じた。アネニスが先月、静止地点から最も近い陸地であるカルタ島(N2°12'・E3°22')の無主地先占を宣言した。本件については帝国を含む複数国が異議を唱えたが、現下の国際情勢を鑑み各国とも正式な抗議には至らず、事実上の既成事実として受け入れざるを得ない状況となっている。
これにより同島への帝国艦船の寄港は事実上不可能となり、補給線の確保が極めて困難な状況にある。第10次以降の直接調査は当面凍結せざるを得ない。
2. 代替プラン
アスキナ独立運動団体『クレール船団』から入手した報告書を添付する。
彼らの最新報告によれば、天柱雲の補機と目される飛行構造物「ロンブル」は、AE1年からAE7年の間に天空宮との間で何らかの異常事態が発生した後、制御不能に陥ったか、あるいは意図的に離脱したものと推測される。その後ロンブルは惑星を半周する形で飛行を続け、ノウストラル大陸中央の砂漠地帯に墜落した可能性が濃厚とのことである。
根拠として同大陸の先住民族が保有する紐文字記録の解読結果が添付されている。要約すれば『はるかな昔に祖先は空を飛ぶ巨大な岩に住んでいたが、争いがおきて二つに割れて一枚は砂漠の只中に、一枚はウオルとなり祖先はこの地に移りすむことになった』である。
ウオルは大陸西部にある巨大な一枚岩のことであり、これ自体は自然的な産物であるがその形状は他地域で表されるロンブルと共通点が見られる。原住民がこのウオルをロンブルに模して伝承したと結論している。
クレール船団はこれを相当程度信憑性ありと判断し、砂漠横断のための装甲車両および航空支援を含む調査資材の提供を要請してきている。
天賜遺物調査院が保有する"レンガ"の出所としてノウストラル大陸が有力候補の一つである以上、本要請は検討に値すると本局は考える。
ただし一点注意を要する。クレール船団を後援する東方貿易教会は近年アネニスとの繋がりを強めている。本報告書の内容がアネニス側に漏洩している可能性を排除できない。情報の取り扱いには十分な注意を求める。
なお本件についてはすでに帝国資源開発局がノウストラル大陸の地下資源に注目し独自の調査を進めている。ロンブルの残骸回収という観点からも同局との連携が有効と考えられる。詳細については資源開発局との協議に委ねる。
帝国に栄光あれ。
(AE1235年12月3日)




