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悪役令嬢後宮物語  作者: 涼風
にねんめ
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接触


 エドワードから〝全反撃(フルカウンター)作戦〟の詳細について説明を受けたダンは、「とんでもない策立てやがる」と半ば呆れつつドン引きし、けれど最終的に「それが一番ボウズのためになるなら」と乗ってくれた。

 彼の〝役割〟について打ち合わせた後、エドワードはダンと共に酒場を出て、案内されるままに下町の奥の奥へと進んでいく。


(この辺は確か、あまり治安の良くない倉庫街だったか……)


 エドワードはあくまでもクレスター伯爵家の嫡男であるため、実のところ王都の地理には詳しくない。王都には王都をナワバリとする稼業者が深く根を張っているため、エドワード自身が詳しくなるより、いざというときは彼らに協力要請した方が早いからだ。それでもシーズンオフには『闇』の一員として動くことも多いため、大まかには把握しているけれど、あくまで地図上で確認するくらいで、この辺りに足を踏み入れるのは初めてである。


「こっちだ」

「なーんか、いかにも怪しげだな~」

「無駄口を叩くな」


 今のエドワードは、ボブから〝儲け話〟勧誘の紙をもらい、深く考えずに金目当てでノコノコやって来た、剣闘士崩れの無頼漢設定だ。〝案内人〟であるダンは、いかにも頭の軽そうなエドワードに難色を示しつつ、その戦闘技術の高さを無視することはできずに、渋々案内してきた、ということになっている。


「この先だ。――いいか、くれぐれも失礼がないようにしろ」

「ひっでぇな、旦那。これでも、雇い主に尽くす程度の礼の持ち合わせはあるつもりだぜ?」

「そうは見えないから言っている」


 普段から民に混じる際、違和感のない〝役柄〟を演じることに慣れているエドワードはともかく、ダンも意外と芝居気がある。この分であれば、与えられた〝役割〟をそつなく全うしてくれるだろう。


 そんなことを考えつつ、倉庫街の一角に足を踏み入れた、


 ――瞬間。


(――っ!)


 首から下げていた霊具(スピルメント)が、急に熱された石の如く熱くなった。火傷するほどではないが、肌に触れていればすぐ感知できる程度には熱い。

 と、いうことはつまり。


(……〝今〟は、誰かに『読まれてる』ってことか)


 必然的に、エドワードは今、〝叛乱軍〟の本拠地への潜入を果たしたことになる。この先は、少しのミスも許されない。


「なー、旦那。ホントにこんな辺鄙なトコに、金払いの良い雇い主サマがいるのかよ? ここまで来て〝騙された〟なんつーことになったら、オンコーな俺も黙ってねぇぜ?」

「……嘘だと思うなら今からでも帰れ。俺はお前を気に入って連れて来たわけじゃない」


 ダンには、『千里眼』のような術を使う特殊能力者が〝敵〟の一味で、〝叛乱軍〟は絶えず監視されている可能性を、予め伝えてある。術を察知する霊具(スピルメント)のことも伝え、反応があった際は合言葉〝騙された〟で知らせるとも決めてあったため、すぐに意図を察してくれたようだ。ますます不機嫌な様相で、ダンは歩を進めていく。


「おー、ダンじゃん」


 そう歩くこともなく、倉庫街の一角から声が掛けられた。ダンは立ち止まり、ギロリとそちらを睨む。


「ボブか。何してる、こんな時間まで」

「何って、新武器の練習に決まってんだろー? 俺、こういう飛び道具はあんまり使ったことねぇからよ」

「そうか。――ちょうど良かった、お前には言いたいことがある」

「あん? 何だよ、急に」

「よくもまぁ、こんな面倒な奴を誘いやがったな。おかげで、やりたくもない案内をする羽目になった」

「は? 誘うって……うわ、お前!!」


 ダン越しに対面した男は、下町での情報収集の際、エドワードに例の勧誘紙を渡した男。そのときは名を聞かなかったが、どうやらボブで確定らしい。


「その節はどうも。えっと、ボブ?」

「おー! 来たんだな! お前ならダンの陰湿な面接にもめげねぇと思ってたよ!!」

「へー。旦那、誰にでもあぁなんだ?」

「リッキーが勧誘の頃は仲間がどんどん増えてたのに、ダンになってから人の集まりが悪くなってさぁ。聞けば、『途中で逃げ出さない根性のある奴だけ連れてきてる』って言うじゃん? 確かにリッキーが連れて来た奴は逃げるのも多かったけど、だからってなぁ……」

「やかましい。〝雇い主〟の許可は得てる」

「お前に紙渡すちょっと前、勧誘がダンになったんだよ。そん時は、コイツがここまで陰湿な面接するなんて知らなかったから、ちょっと気になってたんだよな~。お前、腕は超一流っぽかったし、意外と度胸もある感じだったし、本気で金稼ぐつもりなら来るだろと思ってたから、余計に」

「あー……旦那の睨みはエグかったけど、こっちも明日のおまんまかかってっから。王都まで来たからには、稼ぐならがっぽり稼いで、あちこち遊んで周りてぇし?」

「わっかるわ~! やっぱ王都まで来たからには、有名どころの娼館の一つや二つ、行っときたいよなぁ?」

「おっ、その言い方はリサーチ済みか? 後で話そうぜ」

「おう!」


 エドワードとボブの会話を頭痛が痛んでいるような顔で聞いていたダンは、会話が途切れたタイミングで盛大なため息を吐き出した。


「中身のない会話は聞くに耐えん。――お前も、すでに雇われたような顔で話してるが、雇い主との最終面接はこれからだということを忘れるな」

「ソイツ、旦那より怖ぇの?」

「最低限の礼儀を持てと言っただろ! ったく、お前のように頭の軽い輩、戦闘能力がずば抜けて無ければ連れてなど来なかったものを」


「――へぇ? 聞き捨てならねぇな、その言葉」


 突如、通路の奥から第三者の声がした。――まぁぶっちゃければ、少し前からこちらを伺う気配はしていたのだが、この場の誰も言及していなかったので、エドワードも合わせて知らないフリを貫いていたのだ。

 カツカツと、この場の誰よりも上等な靴の音を響かせて(ダンとボブはともかく、剣闘士崩れを装っているエドワードより良い靴を履いている時点で、金持ちとの繋がりを隠す気はなさそうだ)、その第三者は近づいてきた。


「どーいうことだぁ、ダン? 雇い主は兵士の数は多けりゃ多いほど良いってお望みなのに、テメェ、勝手に選別してやがるのかよ?」

「……リッキー」


 暗がりから出てきた第三者は、靴だけでなく、明らかに一介の傭兵が自前で揃えるには無理がある、高価な防具を身につけていた。見た目こそダンやボブのものとそう変わらないが、曲がりなりにも貴族として良いものを見る目を養ってきたエドワードには、彼の持ち物が相当な高級品だと分かる。王都の闘技場でトップの成績を誇る超人気剣闘士ならいざ知らず、平均クラスの実力しかない剣闘士では到底買えないし、そこから崩れた傭兵にはもっと手の届かない代物だ。なのに、見た目だけ、よくある量販モノに寄せているのが、何ともセコい。


(……コイツが〝リッキー〟か)


 ダンが「個人的に信用できない」と評していたように、防具一つ取っても、信の置けない人物と分かる。エドワードは敢えて目を合わせず、ダンに「誰こいつ?」と問う視線を向ける、新入りムーブをかました。

 当然、ダンは〝頭の足りない面接希望者〟に構うことなく、絡んできたリッキーと真正面から応戦する。


「雇い主のご意向を勝手に代弁するな。確かに兵を増やすことを望んではいるが、あくまでもその前には〝使える〟がつく。お前はろくな選別もせず無計画に人を集めていたが、そのうちの何人が逃げ、何人が雇い主を軽んじて追い出された? 出来の悪い連中を集めるくらいなら、最初から逃げず、雇い主に忠実で、かつ戦闘能力の高いヤツをある程度選別してから連れてきた方が、結果として戦力強化に繋がるだろ」

「後入り組が偉そうに。随分と雇い主に気に入られたみてぇだが、だからって代弁者でも気取ってるつもりか?」

「お前じゃあるまいし。希望者をある程度ふるいにかけることは、雇い主の希望を聞いた上で俺が提案し、許可を得た上でやってることだ。お前みたく、テメェの意見をさも雇い主が言ってるみたいに話したことはねぇよ」

「……あぁ言えばこういう、賢しらなヤツめ。お前だって所詮は単なる駒ってこと、忘れんなよ」

「ご忠告どうも。お互い、駒は駒らしく、せいぜい雇い主に尽くそうぜ」


 どうにかしてダンを煽ろうとするリッキーだが、残念ながら役者が違い過ぎる。何を言われても自分のペースを乱すことなく、時に真正面から反論し、時には飄々と躱すダンと、いちゃもんをつけることしか頭になさそうなリッキーとでは、勝負にすらならない。

 リッキーも、話せば話すほど分が悪くなりそうな気配を察したのか、ダンとの会話を切り上げ、視線をエドワードへ向けてきた。


「――で? ソイツが、お前の認めた〝使える奴〟だって?」

「見た目通り、頭は軽いがな。純粋な戦闘能力だけ見れば、おそらく集まった奴らの中でもトップクラスだ」

「へぇ……」


 聞いた割に興味のなさそうな相槌を打ったリッキーは、無造作にこちらへ近寄ってきて。


 キィンッ!!


「――っ、ちぃっ!!」

「ククリ刀かー。変わったモン使ってんな」


 自身の武器の間合い近くから一気に踏み込み、首筋を狙ってきた太刀筋を、愛用の双剣で防いで弾き飛ばし、そのまま流れるようにリッキーの頸動脈へピタリと刃先を当てる。不意打ちを狙ったつもりなのかもしれないが、殺気がまるで隠せてなかったし、それ以上に踏み込みからの動きがあからさま過ぎて、うっかりでもやられようがなかった。不意打ち暗殺がお家芸の稼業者から見れば、リッキーの仕掛け方はお粗末にも程がある。舐めてんのかとキレても許されるレベルだ。


(ま、今の俺は剣闘士崩れの求職中無頼漢って設定だから言わねぇけど)


 自身の設定に基づき、エドワードはへらりと笑って剣を引く。


「やっぱ王都は色んなやつがいるんだな。俺は双剣使いだからククリ刀の話も聞いたことあったけど、実際見たのは初めてだよ。リッキーさんだっけ? アンタ、どこの出?」

「……聞いてどうする」

「ククリ刀が手に馴染む剣闘士の出身地なら、双剣使いも多いんじゃないかと思うんだよなー。俺のいたトコじゃ、基本スタイル剣と盾で、俺みたいな双剣使いは珍しかったんだよ。せっかくなら、自分のスタイルに近いヤツともっと闘ってみてぇだろ?」

「……ダン。コレは頭が軽いとは言わねぇ。ネジがぶっ飛んでるっつーんだよ」

「珍しく意見が合ったな。確かにコイツのネジは行方不明だ。――だからこそ、戦場では〝使える〟と判断した。前任者のご感想は?」

「……チッ。会わせるならとっとと連れてけ」

「そうしよう」


 剣闘士は〝魅せる戦闘〟の玄人(プロフェッショナル)だ。であれば当然、戦闘への研鑽は欠かさないはず。

 そう考えて発した言葉は、どうやら単なる戦闘狂なヤバい奴のヤバい思考として受け取られたらしい。エドワードを見るリッキーの目は、「戦いに使えるなら確保するしかないが、なるべくコイツとは関わらないでおこう」と雄弁に語っていた。


(……怪しまれなかったなら結果オーライ、ってことにしとくか)


 立場上はダンやボブと同じ傭兵でありながら、彼らより格段に値の張る防具と武具を身につけて、しかし見た目にはそうと分からないよう装っている。

 この傭兵集団が立ち上がった最初期からいて、人集めを任され、ときに〝雇い主〟を下に見るような振る舞いをしていた。

 人集めの役目がダンに変わったことを不服に思い、〝雇い主〟から遠ざけられつつあることに、焦燥感を抱いている――。


 これらの情報を総合するに、このリッキーこそ、〝敵〟が送り込んできた監視、及び計画調整役で間違いない。監視役が一人とは限らないが、少なくともリッキーは最大級に警戒すべき相手と言える。


(そのリッキーから戦闘狂いと思われたんだとしたら、そういう設定で行くのが無難か……?)


 エドワードとしては普通に、〝戦闘〟という己の職務を全うすべく研鑽を重ねている剣闘士、のつもりだったのだが。変に戦闘狂(バーサーカー)を意識した方が、キャラブレしてしまいそうだ。やることなすこと超解釈されるのはクレスター家の常でもあるし、深く考えず、とりあえずは初期の設定のまま、行けるところまで行こう。

 ――そんなことをつらつら考えているうちに、いつの間にか倉庫街の最奥まで進んでいた。ダンが足を止めたその前には、ここへ来るまでに並んでいた巨大な倉庫ではなく、一般の民家サイズの建物が鎮座している。中からはうっすら灯りが漏れているので、誰かがいるのは確かだろう。


「ここか?」

「そうだ。この先に〝雇い主〟がいる。……いいか? くれぐれも」

「失礼のないように、だろ? 散々聞かされて、もう腹一杯だよ」


 軽い調子で答えたエドワードに眉間の皺を深くしつつ、ダンは一度ため息を吐いてから扉に近づき、ノッカーを叩いた。


「ダンだ。入隊希望者を連れてきた」

「はーい、どうぞ」


 内側から聞こえてきた返事は、不自然なほど明るい。

 顔を覆うストールに不備がないかもう一度確認し、エドワードはダンに続いて扉の奥へと足を踏み入れた。


「――こんばんは。君が入隊希望の人?」


 雑然とした室内が仄かな室内灯に照らされる中、奥の机で人影が動く。椅子から立ち上がったらしい人物へ近づくダンの後ろをついて行けば、すぐにその全貌が分かるようになった。


 微かな光でもその艶やかさが分かる、薄茶色の髪と。

 薄暗いからこそより鮮明な印象を与える、橄欖石(ペリドット)の瞳。

 こんな下町のさらに端、荒くれ者が行き交う倉庫街には到底不釣り合いなほど美しい少年が、その美貌に不相応な暗い笑みを浮かべ、エドワードを見据えていた。

 ……言葉を交わしたことこそないが、この目立つ容貌は、今年に入って社交の場で二度、見かけたことがある。


(間違いないな。ルドルフ・クロケット本人だ)


 今年の王宮夜会では、図らずも衆目を集める役をディアナとジュークが果たしてくれたため、クレスター家一同は基本的に気配を殺し、怪しい動きをしている貴族の把握に務めていた。故にルドルフはこちらを認識していないだろうけれど、エドワードはしっかり、彼の顔と名前を把握できている。


 ――もちろん、だからといってそれを気取らせるような真似はしないが。


「あ……アンタが、〝雇い主〟……?」

「そうだよ?」

「――ガキじゃねぇか。どういうこったよ?」

「おい!」


 ダンが振り返って肩を掴んできたが、〝何も知らない〟求職中無頼漢として、言うべきことは言わねばならない。


「旦那よぉ、これはねぇぜ? こんなガキが〝雇い主〟って、ホントにちゃんと金貰えんのかよ?」

「嘘は言わないと言ったはずだ。少なくともこれまで、報酬や必要経費を出し渋られたことはない」

「ふぅん? 金持ちのボンボンっつーことか。羨ましいこって」


 ダンの手をやや乱暴に振り払い、エドワードはつかつかと、ルドルフへ歩み寄り、机越しに対峙した。


「坊ちゃんよぉ。俺は闘技場で闘うより実入りの良い仕事があるって誘われて来た。酒場で一緒に飲んだヤツから、この〝紙〟もらってな」


 バン、と音を立て、エドワードは机に、ボブからもらった勧誘の紙を叩きつける。


「俺ら剣闘士は闘って金もらうのが仕事だ。お前がホンモノの〝雇い主〟なら、その命令に従って闘うことに文句はねぇが、その代わりきっちり、出すモンは出してもらうぜ?」

「……っ」

「どっからどう見てもガキの分際で、一丁前に傭兵集めて粋がってんだ。テメェの親父さんはさぞご立派なスネをお持ちなんだろうが、万一齧れなくなっても、金出せなくなったとか抜かすんじゃねぇぞ――?」


 うっすら殺気を滲ませて問えば、エドワードの叩きつけた紙を驚いて見つめていたルドルフの顔が青ざめ、小刻みに震え出した。

 言葉より雄弁に〝ガキのお遊びなら付き合う気はない〟と態度で示すエドワードの肩を、もう一度ダンが掴んでくる。


「ガキだと言うなら大人げなく凄むんじゃねぇ。お前の殺気に充てられちゃ、大の大人でも竦み上がっちまうだろうが」

「うるせぇよ。俺は金が稼げるって聞いたから来たんだ。〝雇い主〟の支払い能力を確かめとくのは当たり前だろ」

「確かめるのはともかく、必要以上の威嚇をするなと言ってる」


 ダンに注意され、エドワードは渋々、本当に渋々、殺気を引っ込める。

 何度か深呼吸を繰り返したルドルフは、しかし未だに青い顔のまま、震える唇をこじ開けるように言葉を捻り出してきた。


「……なるほど。とても優秀な人材らしい、な」

「そりゃどーも。坊ちゃんのお目に適ったようで?」

「君さえ良ければ、ぜひウチで力を発揮してくれ。……支払いのことなら、心配しなくて良い。これでも俺は成人済みで、個人的に事業で増やした金もある。ウチで働く限り、充分な報酬を約束するよ」

「ヘェ……事業、ね」

「断っとくが、怪しいモノじゃない。真っ当な、表の世界の商売だからね」


 ジロリと睨むエドワードを前に、青ざめて震えながらもどうにか言葉を返すルドルフ。

 そのままゆっくり十を数えてから、エドワードは力を抜き、机に乗り出していた体勢を戻した。


「……嘘はついてないみてぇだな。金さえ払ってくれるなら文句はねぇよ。差し当たって何すりゃ良い?」

「……細かいことは、ダンに聞いてくれ。こちらで用意している武器があるんだけど、最低限、それは使えるようになって欲しい」

「武器ねぇ。そんな特殊なやつなのか?」


 最後の質問はダンへ投げる。受け取った彼は、疲れ切った様子で頷いた。


「この国ではあまり見ない種類の武器ではあるな。剣以上に適性が分かれそうでもある」

「へぇ。双剣使いにも扱えそうな武器か?」

「やってみないと確かなことは言えん。いずれにせよ、今日はもう遅い。試すのは明日以降だな」

「へいへい」


 ダンの〝指示〟に頷き、部屋から出るべく踵を返す。

 扉へ向かいかけたところで、背後から声が掛けられた。


「……そういえば、まだ、あなたの名前を聞いてなかった」

「あぁ、そうだったな」


 上半身だけで振り向き、エドワードは一瞬だけ、ルドルフへ視線を流して。


「俺はエド。よろしく頼むぜ、〝雇い主〟サマ?」

「……エド、か。こちらこそ、良い働きを期待している」

「報酬分は働くさ。そういう話だろ?」


 そう言って手を振り、エドワードは今度こそ、扉を開けて外へ出た。

 そのまま歩いていると、背後から駆け足の足音が響いてくる。


「おい待て。どこへ行く気だ?」

「あぁ? 仕事は明日以降なんだろ? じゃあ、明日まで暇なんだから、俺がどこで何しようが勝手じゃねぇか」

「何処かにねぐらでも構えてるのか?」

「……ねぐらってほど立派なモンでもないが、寝る場所くらいは確保してる」

「なら、一緒に来い。雨漏りしない屋根と壁に囲まれた寝台(ベッド)くらいは用意してある」

「ふぅん? 高待遇じゃん」

「最初から言ってるだろ。待遇は良いと」


 そう言って、ダンは先ほど入った方ではなく、ルドルフと会った建物を正面に見て垂直に曲がる道を進み、別の出口から倉庫街を抜け出した。地理的には、おそらく王都の端も端、末端位置だ。

 ダンに案内されるまま倉庫街を抜け、しばらく歩いて。


「……この辺はどうやら、監視されてないみたいだな」

「〝術〟とやらを感知する道具が反応してないってことか?」

「あぁ」


 エドワードの言葉に、ダンはホッとした様子で肩の力を抜いた。ずっと自然体を装ってはくれていたが、奇妙な〝術〟でどこからか見られていると分かってなお、平常心を保つのは至難の業だ。

 労いを込め、エドワードはダンの肩を叩く。


「完璧なフォローだったよ。おかげで、考えうる限り、最も自然な形で接触できた」

「……上手くいったと思うか?」

「ルドルフが本気でナーシャ嬢を想っているなら、死ぬ気で乗り切るだろ。これですぐ〝敵〟方に接触したり、一発でバレるほど言動がおかしくなるなら、そもそも見込みのない男ってことだ。妹にはスッパリ諦めるよう伝えるさ」


〝雇い主〟の幼さに怒った体で机に叩きつけた〝勧誘紙〟には、ルドルフだけが読めるよう霊術(スピリエ)にて設定した文章が書かれていた。


『お前の姉からの手紙を預かっている。受け取りたくば、明日、お前に接触してきた人物の案内に従って動け。なお、お前の行動は逐一、遠くを見る不思議な術によって監視されている。不自然な動きをすれば、姉に危険が及ぶことを、くれぐれも忘れるな』


 ソラに術を施してもらい、ルドルフしか読めないようにしてはもらったが(書いた張本人のエドワードですら、ソラが術を掛けた後はメッセージを書き入れる前と同じ空白に見えた)、読んだ本人が何を思い、考え、どう行動するかを確実に読み切ることはできない。一応、メッセージの内容はクロード、アベルと一緒に推敲を重ねたけれど。


(……賭けは苦手だが、ルドルフの動きだけは、アイツのナーシャ嬢を想う気持ちに賭けるしかないんだよな)


 願わくは、関係者全員にとって最良の〝明日〟が訪れるよう、夜空に浮かぶ三日月へ、エドワードはそっと祈るのであった。


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