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「君を断罪する」と記録された瞬間、私はその記録を書き換えた ~婚約破棄令嬢は、従者にだけ視えている~  作者: 夜空ミリア


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第46話 見える人

 ――消える側に、回った。


 そう分かった翌朝も、朝食は用意されていた。


 一人分。


 ルークの分だ。


「おはようございます、お嬢様」


 ルークが言う。


 いつもどおりに。


「おはようございます」


 私は答える。


 答えが、返る。


 それだけのことが、今は珍しい。


「厨房から、少し多めに頂きました」


「ええ」


「お嬢様の分も、まとめて頂いております」


 一拍。


 この人は、もう仕組みを理解している。


 説明していないのに。


「ありがとうございます」


「いえ」


 卓につく。


 パン。


 汁物。


 温かい。


 温かさは、記録に関係がない。


 そこだけが、公平だった。


「……」


 ノクスが、椅子の上で膝を抱えている。


 食べない。


 食べる必要がない。


 だが、卓には座る。


「……いる」


 ノクスが言う。


「ええ」


「……三人」


「ええ」


 三人。


 帳簿には、一人。


 どちらも正しい。


 正しさが二つあるとき、社会が採るのは帳簿のほうだ。


 私はルークを見る。


 黒髪。


 剣。


 昨日と同じ立ち姿。


 この人だけが、ずっと変わらない。


 宿の主人には見えなかった。


 門番にも、記録係にも見えなかった。


 なのに。


「ルーク」


「はい」


「一つ、伺います」


「どうぞ」


 私は手を止める。


「なぜ、あなたには見えるのですか」


 問いは、短く出た。


 思っていたより、短く。


「……」


 ルークが、こちらを見る。


 まっすぐに。


 嘘をつく前の目ではない。


 考えている目だ。


 長かった。


 三拍。


 四拍。


 それから。


「分かりません」


 そう言った。


「……」


「申し訳ありません」


「謝る必要はありません」


「はい」


「本当に、分からないのですか」


「はい」


 迷いがない。


 ここで迷わないということは、隠していないということだ。


「宿の主人には、お嬢様の声が聞こえていませんでした」


「ええ」


「聞こえております」


「ええ」


「その違いが、何であるのか」


 一拍。


「説明が、できません」


 説明ができない。


 だが、見えている。


 この二つが並ぶとき、たいてい理由は本人の外側にある。


 私は考える。


 仮説は、いくつも立つ。


 立つが、どれも証拠がない。


 証拠を得る方法は、一つだけある。


 記録することだ。


 対象として、この人を書けばいい。


 書いて、観測すればいい。


 関係の線が見えるようになる。


 なぜ見えるのかも、たぶん分かる。


 私は手帳を取り出す。


 留め具を外す。


 空白のページ。


 ペンを取る。


 インクをつける。


 書ける。


 この一行だけは、たぶん、まだ書ける。


「……」


 ペン先が、紙の手前で止まる。


「お嬢様?」


「いいえ」


 私は、手帳を閉じた。


 留め具をかける。


 音が、小さく鳴る。


「何でもありません」


「はい」


 ルークは、それ以上聞かない。


 聞かないまま、皿を下げる。


 私は、自分の手を見ている。


 インクは、つけたままだ。


 乾いていく。


 理由は、書かない。


 自分の中にも、まだ言葉にしない。


 言葉にすれば、形になる。


 形になれば、記録に触れる。


 触れれば、届いてしまうかもしれない。


 だから、置く。


 置いたまま、進む。


 窓の外で、庭師が枝を切っている。


 誰の名前も呼ばれない朝だ。


 ――書かない、と決めた。

彼女に普通に話しかける人が、一人だけいます。


なぜ見えるのか。本人にも説明ができません。

書いて調べれば分かる。彼女は書けるのに、書かずに手帳を閉じました。

その理由は、まだ本人も言葉にしていません。


次話では、王宮の記録室へ向かいます。そこには、彼女の項目がありません。


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