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「君を断罪する」と記録された瞬間、私はその記録を書き換えた ~婚約破棄令嬢は、従者にだけ視えている~  作者: 夜空ミリア


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第45話 接続は、無い

 ――薄い。


 その一行を見た夜。


 手帳を開く。


 書くつもりは、なかった。


「……」


 寝台の脇。


 燭台の光。


 空白のページに、銀の文字が浮かぶ。


 私が書いたものではない。


【接続 無】


 それだけ。


 いつもの形で。


 いつもの静けさで。


「……」


 息が、少しだけ浅くなる。


 負荷ではない。


 負荷なら、分かる。


 これは、違う。


 私はペンを取る。


 インクをつける。


 その上に、線を引く。


 消す。


 消えた。


 ページが、白くなる。


「……」


 一拍。


 浮かぶ。


 同じ場所に。


 同じ形で。


【接続 無】


 もう一度、線を引く。


 もう一度、浮かぶ。


 三度目で、やめた。


 これは、上書きされているのではない。


 否定されているのでもない。


 ただ、事実が書かれている。


 事実は、消しても戻る。


 私は椅子に座り直す。


 思い出していた。


 あのとき、自分で辿り着いた言葉を。


「……記録は、単体では成立しない」


 前後関係。


 証人。


 経路。


 それらがあって、初めて“存在する”。


 そう言ったのは、私だ。


 そして、あの男が肯定した。


 レイヴン。


 情報統括補佐。


 拘束される前の、丁寧語のまま崩れない声。


「“孤立した記録”は、消える」


 あのときは、脅しだと思っていた。


 半分は、そうだった。


 残りの半分は、この世界の構造の説明だった。


 私は、上位存在から自分を切り離した。


 観測されないことを選んだ。


 観測されないということは。


 誰にも、記録されないということだ。


 誰にも記録されないということは。


 前後関係が無い。


 証人が無い。


 経路が無い。


 ――“孤立した記録”は、消える。


「……」


 私の番が、来ただけだ。


 順番として、正しい。


 正しさに、腹は立たない。


 立たないことにしている。


「……お嬢様」


 扉の向こうから、声。


「起きています」


「明かりが」


「はい」


「……何かありましたか」


 一拍。


 私は手帳を見る。


 文字は、まだそこにある。


「いいえ」


「かしこまりました」


 足音が、去らない。


 少しの間、そこにある。


 それから、去る。


 嘘は、たぶん通じていない。


 通じていないまま、引いてくれた。


 そういう人だ。


 私は手帳をもう一度開く。


 試しに、書いてみる。


【対象 私】


【状態 存在確定】


 インクが、染みない。


 紙の上に乗っているだけだ。


 沈まない。


 効かない。


 当然だ。


 私の存在を確定させる証人が、記録の側にいない。


 書ける手はある。


 書かれる場所が、無い。


 記録官が、記録に載れない。


 これは無力とは少し違う。


 道具はある。


 置き場所だけが消えた。


 燭台の火が、揺れる。


 私はページを閉じる。


 閉じてから、開く。


 やはり、ある。


【接続 無】


 消えるのが、嫌だったから。


 いつか、そう言ったことがある。


 一度だけ。


 あのときの私は、消えることを恐れていた。


 そして今、私は、自分で選んだ手で、そこへ歩いている。


 勝ったと思っていた。


 勝ってはいた。


 勝ち方が、こうだっただけだ。


 私は燭台の火を消す。


 暗くなる。


 闇の中でも、文字は薄く光っている。


 ――消える側に、回った。

手帳に【接続 無】が浮かびました。


消しても、戻ります。上書きではなく、事実だからです。

「“孤立した記録”は、消える」――第22話でレイヴンが言い残したルールが、今度は彼女に適用されます。

観測されない自由の代金が、ここで初めて姿を見せました。


次話では、それでも普通に話しかけてくる人が一人だけいます。


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