第27話 繋がらないという選択
――まだ、繋がっていない。
その一行が、妙に重く感じられた。
【対象 ノクス】
【状態 未接続】
存在している。
だが。
どこにも属していない。
「……」
私は手帳を閉じる。
思考は、すでに次へ進んでいる。
戻ったはずの王宮の空気。
だが、完全には戻っていない。
“向こう側”の気配が、まだ薄く残っている。
「……お嬢様」
ルークが声を落とす。
「本当に、あれを置いてきてよかったのですか」
「ええ」
私は答える。
迷いなく。
「今は、あれでいい」
繋がっていない。
だからこそ。
まだ安全だ。
「……安全、ですか」
黒服の男が、わずかに笑う。
「随分と楽観的だ」
「いいえ」
私は首を振る。
「逆です」
一拍。
「あれは、こちらを選んでいない」
沈黙。
その意味が、ゆっくりと広がる。
「……つまり」
ルークが言う。
「敵にも味方にもなっていない」
「ええ」
私は頷く。
「だからこそ、まだ均衡が保たれている」
どちらかに傾けば。
それは、即座に崩れる。
「……」
ルークが息を吐く。
理解した。
だが。
納得はしていない。
それでいい。
「……選ぶ、と言っていましたね」
黒服の男が言う。
「繋がるかどうかを」
「ええ」
私は答える。
「つまり、あれには意思がある」
それが、最大の問題だ。
「……なら」
男が続ける。
「こちらが選ばれるとは限らない」
「ええ」
私は再び頷く。
当然だ。
だから。
「こちらが“選ばれる理由”を作る必要があります」
その一言で。
空気が変わる。
「……理由?」
ルークが問う。
「ええ」
私は視線を上げる。
「関係です」
ただ存在するだけでは足りない。
ただ名前を与えただけでも足りない。
「繋がるには、“意味”が必要です」
沈黙。
そして。
そのとき。
「……それ」
声がする。
軽く。
どこか呆れたように。
振り返る。
ノアが、壁にもたれている。
いつの間にか。
「めんどくさいことしてるね」
笑っている。
「必要ですから」
私は答える。
短く。
「必要?」
ノアが首を傾げる。
「そんなの、いらないよ」
その言葉。
それだけで。
空気が変わる。
「……どういう意味ですか」
「そのまま」
ノアは言う。
「繋ぐとか、選ぶとか」
「そういうの」
一拍。
「全部、“こっちのルール”でしょ」
沈黙。
鋭い指摘。
「……」
私は何も言わない。
だが。
理解する。
確かに。
今やっているのは。
“記録側”の論理だ。
「でもさ」
ノアが続ける。
「向こうには、関係ないよ」
軽く言う。
当たり前のように。
「……なら」
私は問う。
「どうすればいいのですか」
ノアが笑う。
少しだけ、楽しそうに。
「簡単だよ」
一歩、近づく。
距離が近い。
妙に。
「繋がるんじゃなくて」
顔を覗き込む。
「“一緒にいる”だけでいい」
その言葉。
それが意味するもの。
「……それでは」
私は言う。
「不安定です」
「うん」
ノアは頷く。
「不安定だよ」
あっさりと。
「でもね」
一拍。
「それが普通」
沈黙。
価値観が、違う。
完全に。
「……」
私は目を細める。
考える。
そして。
理解する。
これは。
方法の違いだ。
「……」
そのとき。
手帳が、わずかに震える。
視線を落とす。
新しい文字。
浮かんでいる。
【対象 ノクス】
【状態 接近】
「……」
私は何も言わない。
だが。
ゆっくりと顔を上げる。
廊下の先。
誰もいないはずの場所。
そこに。
“いる”。
「……来ましたね」
黒服の男が、静かに言う。
楽しそうに。
「ええ」
私は答える。
短く。
確実に。
ノクスが。
こちらへ。
来ている。
繋がっていないまま。
それでも。
近づいてくる。
「……」
ルークが、剣に手をかける。
「どうします」
私は、少しだけ考える。
そして。
答える。
「……何もしません」
その一言。
それだけで。
全員が動きを止める。
「……お嬢様?」
「選ばせます」
短く。
はっきりと。
そして。
静かに。
確信する。
――これは、“選択”の話だ。
ついに、“繋がるかどうか”の段階に入りました。
ただし、それは一方的に決められるものではありません。
向こうにも、選択がある。
ここからは、“関係”の話になります。
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次は、“選ばれるかどうか”です。




