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婚約破棄された令嬢ですが、“記録を書き換える力”で全部ひっくり返します  作者: 夜空ミリア


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第23話 消えないための代償

 ――「存在しない」。


 その一言が、これほど現実を侵食するとは思わなかった。


 目の前にいる。


 触れられる。


 話せる。


 それでも。


 【対象 存在】は、また揺れていた。


 さっき安定したはずの文字が、今度は細かく震えている。


「……保てませんか」


 ルークが低く言う。


「時間の問題です」


 私は答える。


 視線は手帳のまま。


「接続が、足りない」


 それが結論だ。


 証言を二つ重ねた。


 それでも足りない。


 つまり。


「……もっと“重い”接続が必要です」


「重い?」


 アルヴェルトが問う。


 私はゆっくりと顔を上げる。


「責任です」


 一言。


 それだけで、空気が変わる。


「……どういう意味だ」


「誰かが、“この存在を保証する責任”を負う必要があります」


 ただの確認では足りない。


 ただの目撃でも足りない。


「“関係性”が必要です」


 私は続ける。


「この人物が、何であるか」


「どこに属するか」


「誰と繋がっているか」


 それらがあって初めて。


 存在は固定される。


「……」


 アルヴェルトが黙る。


 理解している。


 そして。


 避けようとしている。


「殿下」


 私は静かに言う。


「この件の責任は」


 一拍。


「あなたにあります」


 空気が、凍る。


 完全に。


「……」


 誰も動かない。


 誰も息をしない。


「……そうだ」


 アルヴェルトが、低く答える。


 逃げない。


 今度は。


「ならば」


 私は続ける。


「あなたが、繋いでください」


 沈黙。


 長い。


 重い。


 だが。


 逃げ場はない。


「……」


 アルヴェルトが、ゆっくりと前に出る。


 レイヴンの前へ。


 そして。


 見下ろす。


「レイヴン」


 名を呼ぶ。


「お前は、王宮所属の補佐官である」


 一拍。


「私の命により、ここにいる」


 その言葉。


 それは。


 ただの確認ではない。


 責任の宣言だ。


 私は書く。


【所属 王宮】


【責任者 王太子】


 インクが、強く染みる。


 その瞬間。


 揺れが、止まる。


 完全に。


「……」


 ルークが、息を吐く。


「固定されました」


「ええ」


 私は頷く。


 成功だ。


 だが。


 それで終わりではない。


「……なるほど」


 レイヴンが、静かに言う。


 初めて。


 余裕が、わずかに削れている。


「そこまでしますか」


「必要ですから」


 私は答える。


 短く。


 そして。


 視線を外さない。


「……」


 レイヴンが、しばらくこちらを見ていた。


 やがて。


 小さく笑う。


「では」


 その瞬間。


 何かが、変わる。


 空気ではない。


 もっと、根本的な。


 手帳が、熱を持つ。


「……?」


 視線を落とす。


 文字が。


 増えている。


 誰も書いていないのに。


【対象 分割】


 その下に。


 さらに。


【一部 保持】


【一部 移動】


「……」


 私は何も言わない。


 だが。


 理解する。


 これは。


 “代償”だ。


「……分かりましたか」


 レイヴンが言う。


 その声は、少しだけ低い。


「繋いだ時点で」


 一拍。


「すべては、こちらのものではなくなる」


 その言葉。


 それが、答えだった。


「……」


 私は目を細める。


 そして。


 視線を動かす。


 部屋の奥。


 通路。


 そこに。


 “何か”がいる。


 見えない。


 だが。


 確実に。


 気配がある。


「……来ていますね」


 黒服の男が、楽しげに言う。


「ええ」


 私は頷く。


 理解している。


 これは。


 レイヴン一人の問題ではない。


 繋いだことで。


 引き寄せた。


 その先を。


「……お嬢様」


 ルークが、低く言う。


「ええ」


 私は答える。


 そして。


 はっきりと言う。


「これが、“代償”です」


 存在を固定する。


 その代わりに。


 より大きなものと、繋がる。


 そして。


 そのとき。


 声がした。


「やっと、見えた」


 振り返る。


 ノア。


 いつの間にか、そこにいる。


 笑っている。


 楽しそうに。


「それだよ」


 彼女が言う。


「そこから先」


 指をさす。


 通路の奥。


 そして。


「やっと、こっちに来たね」


 その言葉。


 それが意味するもの。


 私は。


 静かに理解する。


 ――境界を、越えた。

一つ、存在を“繋ぎ止めました”。


ですが、その代償は小さくありません。


むしろ――ここからが本番です。


もしここまで楽しんでいただけたなら、

ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次は、“境界の向こう側”に踏み込みます。

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