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婚約破棄された令嬢ですが、“記録を書き換える力”で全部ひっくり返します  作者: 夜空ミリア


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第15話 記録されないもの

 ――この記録は、裏切る。


 その感覚は、確信に近かった。


 カインの部屋を出たとき、王宮の空気は少しだけ変わっていた。


 静かだ。


 だが。


 先ほどまでの“慌ただしさ”とは違う。


 押し殺された動き。


 それが、あちこちに見える。


「……変わりましたね」


 ルークが、低く言う。


 いつの間にか戻ってきていた。


「ええ」


 私は頷く。


「見えない部分が、動いています」


 記録に残らない動き。


 それが、増えている。


「追えますか」


「いいえ」


 即答する。


「今のままでは」


 だから。


 必要になる。


「……誘い出しますか」


 ルークが言う。


 少しだけ、先を読んだ声。


 私はわずかに目を細める。


「ええ」


 同意する。


「“記録されないもの”は、記録の中には出てこない」


 だから。


「記録の外に出させる」


 それしかない。


 黒服の男が、後ろで小さく笑った。


「大胆ですね」


「そうでしょうか」


「ええ」


 彼は肩をすくめる。


「普通は、逆を考えます」


 記録の中を探す。


 それが常識だ。


「常識では、追えません」


 私は答える。


 短く。


 そして。


 そのまま歩き出す。


「どちらへ」


 ルークが問う。


「医務室へ」


 答える。


「……あの文官ですか」


「ええ」


 あれは。


 まだ終わっていない。


 ――


 医務室は、静かだった。


 薬の匂い。

 白い布。


 そして。


 横たわる男。


 逃げた文官。


 意識は、まだ戻っていない。


「……変化は」


「ありません」


 医官が答える。


「外傷はなく、ただ眠っている状態です」


 予想通り。


「記憶は」


「……保証できません」


 曖昧な答え。


 だが、それで十分だ。


 私はベッドの横に立つ。


 文官の顔を見る。


 穏やかだ。


 何も知らないような顔。


 だが。


 その裏に。


 確実に、何かがある。


「……起きますか」


 ルークが問う。


「起きます」


 私は答える。


「ただし」


 一拍。


「そのままでは、意味がありません」


 沈黙。


 黒服の男が、少しだけ前に出る。


「……なるほど」


 理解したような声。


「使うのですね」


「ええ」


 私は頷く。


「“餌”にします」


 医官が、わずかに息を呑む。


 だが、何も言わない。


 言えない。


「目を覚ましたとき」


 私は続ける。


「彼に、“誤った情報”を与えます」


「どのような」


 ルークが問う。


「“記録がすでに完全に回収された”と」


 それは、嘘だ。


 だが。


 半分は真実でもある。


「……それで」


「彼は動きます」


 確信している。


「自分が無力化された理由を、理解するために」


 そして。


「接触する」


 外部と。


 それが狙いだ。


「……危険では」


 医官が、初めて口を開く。


「再び狙われる可能性が」


「あります」


 私は即答する。


 否定しない。


 だが。


「それでも」


 視線を外さない。


「今は必要です」


 沈黙。


 誰も反論しない。


 できない。


 それが、最適だと分かっているから。


「準備を」


 私は言う。


 医官が頷く。


 動き出す。


 静かに。


 正確に。


 そのときだった。


 ふと。


 違和感。


 私は視線をずらす。


 部屋の隅。


 誰もいないはずの場所。


 だが。


 “何か”がいる。


「……」


 目を細める。


 確かに、見える。


 少女。


 ノア。


 壁にもたれて、こちらを見ている。


 誰にも気づかれていない。


「……ねえ」


 小さな声。


 だが、はっきりと聞こえる。


「それ、ほんとうに残るの?」


 同じ問い。


 以前と。


 私は、少しだけ考える。


 そして。


「残すつもりです」


 答える。


 ノアが、首を傾げる。


「でも」


 小さく笑う。


「それ、消えるよ」


 その言葉に。


 一瞬だけ、空気が止まる。


 私は視線を外さない。


「……どういう意味ですか」


 問い返す。


 ノアは、少しだけ考える。


 そして。


「もう、書き換わってるから」


 あっさりと、言った。


 背筋が、わずかに冷える。


「何が」


「さっきの」


 指を指す。


 私の手帳。


「それ」


 反射的に、開く。


 ページをめくる。


 先ほど書いたはずの行。


【情報統括 協働】


 ――ない。


 代わりに。


【情報統括 単独】


 書き換わっている。


 誰にも触れられていないはずの記録が。


 静かに。


 確実に。


「……」


 私は何も言わない。


 だが。


 理解する。


 これは。


 “改竄”ではない。


 もっと、根本的な。


「……記録が」


 小さく呟く。


「変わっている」


 ノアが、嬉しそうに笑う。


「でしょ?」


 その笑顔は、無邪気だ。


 だが。


 決定的だった。


 私はゆっくりと手帳を閉じる。


 そして。


 はっきりと理解する。


 この戦いは。


 記録の中では完結しない。


 その外。


 そこに。


 “本当の敵”がいる。

ここで、一番大きな“ズレ”が出ました。


今まで信じていたものが、

そのままでは通用しない。


ここからは、ルールそのものが揺れます。


もしここまで楽しんでいただけていたら、

ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次は、“記録の外側”に踏み込みます。

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