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婚約破棄された令嬢ですが、“記録を書き換える力”で全部ひっくり返します  作者: 夜空ミリア


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第14話 記録は、裏切る

 ――物語は、ここからだ。


 その言葉が、現実に追いついたのは。


 扉が閉じた瞬間だった。


 重い音。


 外の空気が、完全に遮断される。


 そこは、王宮の奥。

 通常の文官ですら立ち入れない、情報統括室。


 カインの領域。


「入れ」


 短く言われる。


 私は迷わず足を踏み入れた。


 室内は、静かだった。


 広い。

 だが、無駄がない。


 机が一つ。

 椅子が三つ。


 壁際には、書架。

 だが、書類はほとんど置かれていない。


 ここは、保管の場所ではない。


 選別の場所だ。


「座れ」


 カインが示す。


 私は従う。


 黒服の男も、自然に席を取る。


 三人。


 それで、十分だ。


「……さて」


 カインが、ゆっくりと口を開く。


「どこまで、見えている」


 問いは、前と同じ。


 だが。


 意味が違う。


 ここは、外ではない。


 誤魔化しは、通らない。


 私は少しだけ考える。


 そして。


「資金の流れ」


 まず、一つ。


「それを隠すための記録操作」


 二つ。


「内部に関与者が複数」


 三つ。


 そこで、止める。


 全部は言わない。


 必要な分だけ。


 カインは、しばらく黙っていた。


 やがて。


「……悪くない」


 小さく言う。


 評価だ。


「だが、足りない」


 当然だ。


 私は何も言わない。


「問題は、その先だ」


 カインが続ける。


「なぜ、資金を隠す必要があったのか」


 核心。


 だが。


 まだ、答えは出ていない。


「推測はあります」


 私は答える。


「聞こう」


「外部への流出」


 短く。


「それも、単発ではなく、継続的な」


 カインの目が、わずかに細くなる。


「根拠は」


「消し方です」


 私は言う。


「完全に消していない」


 そこが重要だ。


「追えなくするための操作」


「……つまり」


 カインが低く言う。


「追われる前提で動いている」


「はい」


 私は頷く。


「隠すのではなく、“遅らせる”」


 沈黙。


 理解が共有される。


 黒服の男が、小さく笑った。


「面白い」


 その声は、軽い。


 だが。


 内容は重い。


「つまり、時間稼ぎですね」


「ええ」


 私は同意する。


「何かが、進行している」


 それを隠すためではない。


 間に合わせるため。


「……何がだ」


 カインの声が、わずかに低くなる。


 初めてだ。


 感情が混じる。


 ほんの少しだけ。


 私は答えない。


 答えられない。


 まだ、見えていない。


 だが。


「一つ、確認したいことがあります」


 代わりに、問いを返す。


 カインは、わずかに眉を動かす。


「何だ」


「情報統括は、どこまで把握していますか」


 真正面から。


 逃げない。


 カインは、しばらくこちらを見ていた。


 そして。


「……七割だ」


 答える。


 即答。


 迷いがない。


「残り三割は」


「意図的に見せていないか、まだ出ていない」


 正直だ。


 そして。


 それはつまり。


「内部の完全掌握はできていない」


「そうだ」


 あっさり認める。


 その時点で、分かる。


 この男は、隠さない。


 必要なことは。


 私は小さく頷く。


 そして。


「では、もう一つ」


 続ける。


「“記録に残らない動き”は、把握していますか」


 一瞬。


 空気が止まる。


 黒服の男が、わずかに視線を上げる。


 カインの目が、細くなる。


「……どういう意味だ」


 低い声。


 警戒。


 私は答える。


「存在しないはずの記録」


 ノアのことだ。


 直接は言わない。


 だが。


 十分に通じる。


「……」


 カインが、黙る。


 初めてだ。


 言葉が止まる。


 それが答えだ。


 把握していない。


 私は、ゆっくりと息を吐く。


 確定する。


「……なるほど」


 黒服の男が、小さく呟く。


「そこが、ズレているわけですか」


「ええ」


 私は頷く。


「記録されるものと、されないもの」


 その境界。


「そこに、意図がある」


 カインが、ゆっくりと立ち上がる。


 机に手をつく。


 わずかに、前傾する。


「……面白い」


 低く言う。


 だが。


 その目は、明らかに変わっていた。


 興味ではない。


 これは。


 警戒だ。


「そこまで見えるか」


「一部だけです」


 私は答える。


 正直に。


 だが。


 十分だ。


「……いいだろう」


 カインが、ゆっくりと息を吐く。


「ならば、その三割を埋める」


 宣言。


 空気が、さらに引き締まる。


「方法は」


「こちらで用意する」


 短く。


 断定的に。


 そして。


 こちらを見る。


「君は、記録を続けろ」


 命令。


 今度は、明確だ。


 私は頷く。


 拒否はしない。


 する理由もない。


 だが。


「一つ、条件があります」


 言う。


 カインの目が、わずかに動く。


「何だ」


「記録は、すべて残します」


 逃げ道を作らない。


「都合の悪いものも」


 一拍。


「含めて」


 沈黙。


 長くはない。


 だが、重い。


 カインは、しばらくこちらを見ていた。


 そして。


 小さく笑う。


「……いいだろう」


 承認。


 その瞬間。


 関係が、変わる。


 協力ではない。


 契約だ。


 私は頷く。


 手帳を開く。


 新しい行。


 ペンを置く。


 そして。


 書く。


【情報統括 協働】


 インクが染みる。


 その文字を見て。


 はっきりと分かる。


 これは。


 ただの追跡ではない。


 ただの断罪でもない。


 もっと、大きい。


 構造そのもの。


 そして。


 その外側。


 私は手帳を閉じる。


 視線を上げる。


 カインを見る。


 そして。


 静かに、確信する。


 ――この記録は、裏切る。


 誰の予想も。


 誰の計画も。

ここで、もう一段階、世界の見え方が変わりました。


見えているものだけでは、足りない。


その外側に、何かがある。


もし続きを楽しみにしていただけたなら、

ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次は、“記録されないもの”に踏み込みます。

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