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婚約破棄された令嬢ですが、“記録を書き換える力”で全部ひっくり返します  作者: 夜空ミリア


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第11話 残されたもの

 ――口封じ。


 その言葉が、場の空気を冷やしたまま残っている。


 外部搬入口は封鎖されていた。

 兵士が数名、入口を固めている。


 その中央に、ひとり。


 倒れていた。


 逃げた文官。

 名前はまだ記録していない。


 必要がなかったからだ。

 だが、今は違う。


「……触れても?」


 私は兵士に確認する。


「は、はい。ただ、まだ意識は戻っておらず……」


 近づく。


 呼吸はある。

 脈もある。


 だが。


「眠らされていますね」


 私は静かに言った。


 ルークが眉を寄せる。


「毒ですか」

「いいえ」


 首を振る。


「もっと軽いものです。意識だけを落とす」


 そして。


「記憶にも影響する可能性があります」


 男が、後ろで低く笑う。


「便利なものですね」


「ええ」


 私は同意する。


「使う側にとっては」


 視線を落とす。


 文官の手は、強く握られていた。


 何かを持っている。


 私はゆっくりと、その手を開かせる。


 抵抗はない。


 中から、小さな紙片が落ちた。


 拾う。


 折り畳まれている。


 開く。


 中身は――


 空白だった。


「……何もない?」


 ルークが覗き込む。


「いいえ」


 私は首を振る。


 紙を、光にかざす。


 うっすらと。


 跡がある。


「書かれていました」


 消されている。


 完全に。


 だが。


「圧が残っています」


 筆圧。


 それだけは消えない。


「……読めますか」


 男が問う。


 私は少しだけ考える。


 そして。


「完全には」


 だが。


「一部は」


 紙を指でなぞる。


 凹凸を追う。


 そして、ゆっくりと。


「……数字」


 断片的に、拾う。


「三……七……」


 続かない。


 だが、それで十分だ。


「識別番号の一部です」


 確定する。


 資金の流れ。


 その先。


「……やはり」


 男が呟く。


「外部ですね」


「ええ」


 私は頷く。


 そして。


 紙を手帳に挟む。


 記録する。


【断片情報 回収】


 インクが乾く。


 それを確認して、立ち上がる。


「……運んでください」


 兵士に指示する。


「医務室へ」

「はっ」


 文官が運ばれる。


 静かに。


 誰も、声を出さない。


 そのとき。


「……リディア」


 低い声が、背後から届く。


 振り返る。


 カインだった。


 いつからいたのか。


 気配がなかった。


「状況は」


「ご覧の通りです」


 私は答える。


 彼は、倒れていた場所を見る。


 紙が落ちていた位置。

 足跡。

 兵士の配置。


 すべてを、一瞬で把握する。


「……遅いな」


 短く言う。


 評価だ。


 私は何も返さない。


「だが」


 彼が続ける。


「無駄ではない」


 視線が、こちらへ向く。


「断片は拾えている」


「はい」


「ならば」


 一歩、距離が詰まる。


「その先は?」


 試すような問い。


 私は少しだけ考える。


 答えは、すでにある。


「追います」


 短く。


「どこを」


「番号の先を」


 手帳を軽く叩く。


「資金の流れは、必ずどこかに繋がる」


「……当然だ」


 カインが小さく頷く。


 そして。


「だが、それだけでは遅い」


 視線が鋭くなる。


「相手も動く」


「ええ」


 私は同意する。


「だから」


 少しだけ、間を置く。


「もう一つ、動かします」


「何を」


「情報です」


 場が、わずかに揺れる。


 ルークがこちらを見る。


 男も、興味を強める。


「……どういう意味です」


 カインが問う。


 私は答える。


「誤った情報を流します」


 短く。


「“回収された記録”の内容を、意図的に歪める」


 理解が走る。


 早い。


 さすがに、この場の人間は頭がいい。


「……誘導か」


「ええ」


 私は頷く。


「相手が、それをどう扱うかを見る」


 そして。


「動いた先を、追う」


 カインの目が、わずかに細くなる。


 評価している。


「……いいだろう」


 短く言う。


「やれ」


 許可ではない。


 命令でもない。


 ただの合意。


 それで十分だ。


 私は頷く。


 そして。


 ふと、違和感を覚える。


 視線。


 誰かが見ている。


 振り返る。


 誰もいない。


 だが。


 確かに、あった。


「……どうしました」


 ルークが問う。


「いえ」


 首を振る。


 気のせいではない。


 だが、今は追わない。


 代わりに。


 手帳を開く。


 新しい行。


 ペンを置く。


 そして。


 書く。


【監視 継続】


 インクが染みる。


 その瞬間。


 はっきりと分かる。


 こちらが追っているだけではない。


 向こうも。


 見ている。


 静かに。


 確実に。


 そして。


 ――まだ、姿を見せていない。

少しずつ、「何が動いているのか」が見えてきました。


ですが、まだ“見えている範囲”の話です。


本当に厄介なのは、その外側にいるもの。


もし続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

次は、“仕掛けた情報”がどう動くかです。

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