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「探索不適合」と捨てられた俺にだけ、全滅ルートが見えている  作者: IRIS


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第12話 なんとなく、の精度

 班の形は維持されていた。

 ひばりが前、三枝が中、俺が後ろ。縦に3人並んでいる。形だけ見れば班だ。形だけ、というのは変わっていない。変わっていないことを確認した。確認に意味があったかどうかは別の話だ。

 通路が右に曲がった。ひばりが右に曲がった。三枝が続いた。俺が続いた。

 後ろを一度見た。暗い。何もいない。たぶん。

 「たぶん」が今日何回目か数えるのをやめた記録がある。記録があっても数えないと意味がない。意味のない記録が増えている。窓口が俺なので仕方ない。


 前方でひばりが止まった。

 端末を見ていない。プレートを見ていない。通路の先を見ている。見ながら右手がショートソードの柄に触れた。触れて、離した。触れて、離した。判断が出る前の動作だ。整列のときに見た。係員の次の位置を先に見ていた人間が、今同じ動きをしている。

 何かがある。

 三枝がひばりの横に並んだ。二人が同じ方向を見ている。俺が後ろで止まった。

 後ろを見た。

 音が変わっていた。さっきまでと混ざり方が違う。左後方、来た道の角の向こう。分岐の手前で感じた気配と、同じ形をしている。

 前方にひばりと三枝がいる。後方に何かがいる可能性がある。俺が真ん中にいる。

 真ん中は両方向に責任が発生する位置だ。引き受けた覚えがない。でも位置がそうなっている。


「行ける」

 ひばりが言った。前方を判断した声だ。

 三枝が動いた。ひばりに続いた。

 俺は後ろを向いていた。

「白城さん」

 三枝の声だった。振り返った。二人がもう3メートル先にいた。3メートルは狭い通路では遠い。後ろで何かが起きた時に前に届かない距離だ。

 届かないまま後ろに向き直そうとした。

 音が来た。

 唸りではなかった。足音だ。複数。小さい。速い。角の向こうから来ている。

「来ます」

 声に出た。出ながら鞄から傘を抜いた。

 同時に、前方でひばりの動く音がした。前にも何かいる。ひばりが対処している。俺は後ろだけ見ていればいい。分業だ。分業の取り決めをした覚えがない。でも結果として分業になっている。

 角から出てきた。

 2匹だ。茶色。大きさが犬だ。さっきの怯えていた1匹とは違う。体の面積を減らしていない。広げている。前傾になっている。来る気がある。

 来る気がある生物は、最初の一手が前足だ。重心のかかり方を見た。

 左だ。

 左前足が先に出る。出た瞬間に体が右に振れる。右に振れた軌道に乗って首が来る。

 傘の石突を左斜め前に出した。踏み込みが石突に当たった。

 縮んだ。

 継ぎ目から折りたたまれた。当たり前だ。折りたたみ傘に突く力をかけたら折りたたまれる。設計通りだ。設計通りに失敗した。

 でも重心が一瞬だけ乱れた。乱れた隙間に、縮んだ傘を斜めに差し込んだ。踏み込みの軌道に割り込ませた。軌道が逸れた。重心が崩れた。体が右に流れた。

 結果だけ見れば同じだ。経路が違う。経路に一個余分な失敗が入った。

 次からは最初から差し込む。石突は使わない。授業料が安かった。相手が小さかったからだ。大きかったら死んでいた。大きくなかったことに感謝した。感謝する相手が迷宮生物だ。変な感謝だ。

 2匹目が1匹目に引っ張られた。2匹が同じ方向に崩れた。通路の右壁に当たった。止まった。起き上がろうとした。

 俺は左壁側にいた。左側が空いている。

「通れます」

 声に出した。左壁に背をつけた。

 ひばりが来た。速い。横を抜けた。三枝が続いた。

 2匹が起き上がった。抜けた後の誰もいない方向に唸っている。

 俺も抜けた。


 3人で走った。走り終わった。

 通路が広くなった場所で止まった。ひばりが前を向いたまま立っている。三枝が鞄から小型の応急キットを出して手早く確認している。けが人がいないか確かめている。俺が後ろを確認した。来ていない。

 来ていないことが確定した。たぶんではない。今日初めて「たぶん」がない確認だ。記念した。地下記念日その2だ。

「何をした」

 ひばりが言った。振り返らずに言った。

「石突を足の起こりに当てました」

「なんでそれで止まった」

「踏み込みが崩れたので」

「なんで崩れると分かった」

 「なんとなく」と言うか「なんとなく」と言うか「なんとなく」と言うかを選んだ。

「なんとなく」

 ひばりが黙った。「なんとなく」を否定しなかった。「嘘をつくな」とも言わなかった。さっきと同じ顔だった。「なんとなく」の処理が「今掘る時間はない」に着地する人間の顔だ。

「助かった」

 三枝が応急キットをしまいながら言った。俺を見た。

 ひばりの顔とは違う顔だった。ひばりは保留した。三枝は違う。何かを計算している顔だ。計算の中身が分からない。分からないので観察した。観察しても分からなかった。

 三枝が前を向いた。

「行こう」とひばりが言った。


 3人で進んだ。

 後ろを確認した。来ていない。前を見た。ひばりが進んでいる。三枝が続いている。俺が続いている。

 班の形は維持されていた。見た目は変わっていない。

 なんか変が今日四件になった。「なんか変」四兄弟が揃った。兄弟が増えても対処法は変わらない。全員「様子見」だ。

 三枝が一度だけ振り返った。

 俺を見た。一秒も見なかった。すぐ前に向き直した。

 何かを確認した目だった。ひばりの確認とは種類が違う。ひばりの目は「後ろに何があったか」を見た。三枝の目は、後ろではなく俺を見ていた。

 俺を。

 「なんとなく」で止まれなかった目だ。

 三枝が前を向いている。何も言わない。でも目の種類が変わった。変わったことだけが分かる。変わった先が何かは、まだ分からない。

 班が進む。3人で進む。

 さっきまでと同じ形で進んでいる。でも三枝の目が変わった。

 それだけが、今のところ変わったことだ。

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