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第7話 違和感

翌日。


「おはよう、夜花くん」


「おはよう、蜜柑」


教室に入ると、いつものように蜜柑が声をかけてきた。


「昨日の絵、ちゃんと描いた?」


「一応な」


俺は鞄からスケッチブックを取り出した。


「見せて」


「笑うなよ」


「笑わないって」


蜜柑がページを開く。


「……あれ?」


「どうした?」


「昨日より上手くなってる」


「本当か?」


「うん。ちゃんと人物っぽくなってる」


「そりゃよかった」


俺は少し安心した。


絵は苦手だ。


だから、少しでも上達しているなら嬉しい。


「じゃあ、今日はこれ描いてみようか」


蜜柑が別の紙を取り出す。


「また?」


「だって美園高校なんだから、絵くらい描けないと」


「耳が痛いな……」


俺たちは笑った。


いつもの学校生活。


こういう時間が続けばいい。


そう思っていた。


*


昼休み。


弁当を食べ終えた俺は、窓の外を眺めていた。


「夜花くん」


「ん?」


「何見てるの?」


「別に」


校門の方を見る。


誰かが立っているような気がした。


赤い髪。


けれど、瞬きをすると姿はなかった。


「……気のせいか」


「?」


「なんでもない」


俺は視線を戻した。


*


放課後。


美術室。


蜜柑から教えてもらった人物画を一人で練習していた。


「……難しい」


輪郭を描いて、目を描く。


「……ん?」


気づけば、人物の目を赤く塗っていた。


「……?」


手が止まる。


「俺、赤なんて使ったっけ?」


絵の具を見る。


赤。


筆を見る。


確かに自分が持っている。


「……まあ、いいか」


そのまま描き続けた。


やがて完成する。


そこには、赤い瞳をした人物が描かれていた。


「……なんだ、この絵」


妙に見覚えがある。


でも、誰を描いたのか分からない。


「……俺、こんな顔の人知ってたっけ?」


しばらく絵を見つめる。


すると――


突然、頭の奥が痛んだ。


「……っ」


目の前が一瞬だけ暗くなる。


炎。


赤く染まった夜。


燃え上がる建物。


そして、血。


「……!」


俺は机に手をついた。


「……まただ」


最近、昔のことを思い出すことが増えた。


特に――


咲夜と再会してから。


「……忘れたかったのにな」


俺は目を閉じる。


けれど、その瞬間。


自分が知らないはずの光景が、一瞬だけ脳裏をよぎった。


長い赤い髪。


自分と同じ顔。


そして――


血に濡れた手。


「……誰だ」


呟いても、答えはない。


しばらくして頭痛が治まる。


俺は深く息を吐いた。


「……疲れてるだけだ」


そう自分に言い聞かせる。


描きかけの絵を片付け、鞄を持つ。


そのまま美術室を出た。


*


誰もいなくなった美術室。


机の上には、さっきの人物画だけが残っていた。


赤い瞳。


長い赤い髪。


夜花自身が描いたはずなのに――


本人には、その人物を描いた記憶が曖昧だった。


夕日が沈む。


絵の中の赤い瞳だけが、暗い美術室に残った。


そして夜花はまだ知らない。


自分の中に眠る、もう一つの人格の存在を。

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