第6話 胸の奥の声
翌朝。
「……眠い」
俺は欠伸をしながら、美園高校へ向かっていた。
昨日はなかなか眠れなかった。
理由は分かっている。
咲夜のことだ。
「……昔のことだろ」
何度、自分に言い聞かせても頭から離れない。
そんな俺の隣を、健人が歩いていた。
「夜花、昨日の夜何してた?」
「別に」
「なんか顔死んでるぞ」
「寝不足なだけ」
「ふーん」
健人はそれ以上追及しなかった。
*
昼休み。
「夜花くん、一緒に食べよ」
蜜柑が弁当を持ってやってきた。
「いいよ」
二人で席を並べる。
「そういえば」
蜜柑が箸を止めた。
「昨日の人、家まで来たんだって?」
「……なんで知ってる?」
「輝女ちゃんから聞いた」
「輝女……」
帰ったら少し話をしよう。
「それで?」
「何が?」
「どうだった?」
「何もないよ」
「本当に?」
「本当に」
蜜柑は俺の顔をじっと見つめる。
「……ならいいけど」
「何だよ」
「別に」
そう言って、蜜柑は弁当を食べ始めた。
少しだけ、不機嫌そうだった。
「……?」
俺には理由が分からなかった。
*
放課後。
帰宅すると、輝女がリビングにいた。
「おかえり」
「ただいま」
鞄を置く。
「昨日のことだけど」
「うん」
「咲夜って人」
「……ああ」
「夜花にとって、どんな人なの?」
俺は少し黙った。
「昔、一緒に剣道をやってた」
「それだけ?」
「……」
「やっぱり違うんだ」
輝女は少し笑った。
「元カノ?」
「……昔な」
「そっか」
輝女はそれ以上聞かなかった。
けれど、俺には分かった。
気を遣っている。
「輝女」
「何?」
「心配しなくていい」
「……うん」
「俺はここから離れないから」
その言葉に、輝女は少しだけ安心したように笑った。
*
夜。
俺は自分の部屋で机に向かっていた。
教科書を開いている。
けれど、頭に入ってこない。
「……咲夜」
名前を呟く。
すると。
「……また、その女のこと?」
「……っ」
俺は顔を上げた。
誰もいない。
「……今の、何だ?」
部屋を見回す。
静かだ。
聞き間違い。
そう思った。
「疲れてるんだな……」
俺は再び教科書を見る。
すると――
『本当に?』
また声がした。
今度は、はっきり聞こえた。
「……誰だ」
返事はない。
「誰なんだよ」
胸の奥がざわつく。
頭の奥に、知らない景色が浮かぶ。
赤い髪。
血。
炎。
そして――
自分とは違う誰か。
「……やめろ」
額を押さえる。
「俺は……普通に生きるんだ」
その言葉に。
胸の奥から、微かな笑い声が返ってきた。
『普通……ね』
「……」
『それ、本当にできると思ってる?』
俺は答えられなかった。
その夜。
俺の知らない場所で。
俺の中にいるもう一人が――
静かに笑っていた。
全ては過去…終わったことだ…
カコォ?!




