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終章 雪の街

葬送の鐘が鳴っていた。


低く。


静かに。


雪に覆われた街の上を、ゆっくり転がっていくような音だった。


老人の亡骸は、その日の昼前に教会へ運ばれていった。


娘は何度も頭を下げ、最後にモニカへ小さく笑った。


「父に触れてくれて、ありがとうございました」


その言葉に、モニカは少しだけ目を伏せた。


触れる。


その言葉が、胸の奥へ静かに残る。


女主人はぶっきらぼうに鼻を鳴らした。


「まったく、厄介なのを拾ってきたもんだよ」


けれどその声は、最初より少しだけ柔らかかった。


暖炉には新しい薪がくべられている。


窓の外では、雪がまだ静かに降っていた。


モニカは外套を羽織り、ひとりで街へ出る。


石畳は白く染まり、人々の足跡だけが細く続いている。


パン屋からは焼きたての匂いが流れ、広場では子どもたちが雪を踏みながら笑っていた。


何も変わらない街だった。


人が死んでも。


朝が来れば、パンは焼かれ、鐘は鳴り、人は生きていく。


モニカはゆっくり息を吐いた。


白い吐息が空へ溶ける。


その時だった。


広場の片隅で、小さく咳き込む音が聞こえた。


反射みたいに、モニカの足が止まる。


痩せた少年が、壁にもたれながら苦しそうに肩を揺らしていた。


濡れた呼吸音。


浅い息。


モニカの胸の奥で、何かが静かに疼く。


暗い病室。


夜明け前の窓。


誰かの声。


『先生』


モニカはしばらく動かなかった。


雪が静かに降り積もっていく。


やがて。


彼女はゆっくりと、少年の方へ歩き出した。

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