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9 もしもし、人員派遣サービスですか


―――――


瀬川 舞


―――――


ルリちゃん、アカネ先輩、私で双眼鏡を覗き込みます。

窓際の可憐な少女、監視対象のアヤメさんです。

完全に私たちは不審者ですけど、これも業務ですよ。


ショウタさんが影を使って延命に成功したみたいですが、凄いことをしましたよねー。

これを世に出したら、ショウタさんの倫理を問われて現場復帰にしばらくかかりそうなので、極秘指令と言う事でしょうか。

支援部の業務が滞った瞬間に、都のデスマーチの始まりです。私たち司令部が現場投入の人海戦術を取ることになりますね。

毎日が楽しくて、流れていく日常が一瞬で壊れてしまいます。

アヤメさんにはぜひ、人間でいて欲しいです。


そんな黒髪の少女が、教室で昼食を取っていますね。

カレーでしょうか、おそらくカレーです。

手で直に食べ始めました。

女子高生がやっていい絵面ではないと思いますが。


「あれ~、本格的な作法だね。社長令嬢だったっけ。インド圏にでも留学経験あるのかな」


「思い出した。カレーは手で食べた方がおいしい。白羽さんが置いてくれている漫画 『おいしんゴ』 で読んだな」


「あの、本格的すぎませんか? 影領域の弊害ではありませんか。彼女の社会復帰にはまだ早かったのでは」


その瞬間、アヤメさんが何か気づいたように慌ててスプーンを取り出しました。

クラスメイトがめちゃくちゃ見ています。美少女が手についたカレーを舌で舐め取るシーンは、背徳的な感じがしますね。


そこへ、ショウタさんとマユミ部長が教室へ入ってきました。

アヤメさんが立ち上がり、カレーが手についたままショウタさんに抱きつきに行きます。


「おぉ~。命の恩人に会えた感動シーンですね。さすがショウタさんです」


「わぁ~、泥棒ネコちゃんだね。人の物をかすめ取ろうとするなんてね~。その身を戦闘部であずかります」


「ルリ、待て。これを現場の時に再現するんだ。私たちはまだいける、数年前まで女子高生だったしな! そして、女子高生に抱き着かれてどうだった? 気持ちよかったか? と、詰めよう」


「「まさに悪魔的発想!!」」


束縛が強いですねー。もう少し緩い方がいいと思いますが。

そして、3人は教務室へ移動するようです。


さて、私たちは待機しながら高度な影耐性を持つアヤメさんについて語ります。

影により延命と言う点を除けば、黄金ほどに価値があります。


「う~ん、この感じだと支援部かな~。初日にお兄さんが誰の物かを教える必要があるけど」


「戦闘部に欲しいぜ、どんな能力になるかな」


「卒業後、現場の生存率を考えると司令部ではありませんか。私と仲良くラインをするのです」


しばらくして、ショウタさんとマユミ部長が出てきました。

何やら、2人で口論になっています。

距離が近く、他人の距離ではありません。


マユミ部長が振り切るように歩き出したその瞬間でした。

ショウタさんがマユミ部長の手首を掴み、校舎の壁際へ引き寄せます。


『壁ドン』 です、校舎に壁ドンです。

マユミ部長は双眼鏡の中で、顔が赤より紅く染まっています。


「うわぁ、リアル壁ドンだ。エロいね~」 「刺激が強すぎるッ! チューまでいくのか?!」


私は脳破壊されてますが。こんなのネトラレシーンじゃないですか。

でも、いいですよね。めちゃくちゃドキドキします。


「胸キュンイベントで全てが許せて、全てのことがどうでも良くなるんだよな。心は脳ではなく、心臓にあることがわかる」 「それ、わかります~」 「それ、わかりますー」


全員わかった所に、2人はこっちへ戻ってきました。

マユミ部長はニッコニコです。全てのことが許せるそんな顔をしています。

何があったか、どんなセリフを言われたのかとても聞けませんが。


さすがショウタさん、やりとげましたね。


その時です、車内の警報、そして私の端末に警報が鳴りました。

この音は出ないハズです。やわらかなチャイムが鳴らなければいけません。


影の危険度がMAXではないと鳴らないハズの警報です。

端末の表示には影濃度上昇中。

普通の人間なら5分程度しか持たない濃度ですか。このいい雰囲気がぶち壊しです。


ショウタさんが車両に乗り込んできました。


「おんやぁ~、アカネさんとルリさんいつのまに来てましたか。このやばい音初めて聞きましたよ。う~ん、今日は2人ですか? 音的にやばそうなんですが」


「お兄さん、彼女は5連休です」 「私も盆に5連休とるぜ」


「おっしゃ、現場の状況見て呼び出しましょう。後で舞さんお迎えに行ってください」


休日出勤やむなしですかねー。


そして、もう一度警報がなる。

何度聞いてもやわらかなチャイムではないです。

長い一日が始まろうとしています。


―――――


白羽 ショウタ


―――――


さて、マユミさんの信頼を取り返し、無事にアヤメさんの学校訪問を切りぬけた。


大丈夫そうだった。普通に女子高生をしていたじゃないか。

この先の進路を考えると、彼女が生き残りやすい道は影対策府に入ることかもしれない。

有用性を示し、社会に貢献し実績を積む。

そのうえで 「あの~、私実は影が入っているのですが? 影の証拠として円周率がなぜ割り切れないか証明します」 と打ち明ける。

そうすれば、全力で何とかしてくれるかもしれない。

それとも人間モルモットとして、一生飼い殺されるだろうか。でも命だけは助かるだろう。

ここに入るのは、悪い選択肢ではないな。


そんなことを考えているうちに対影スーツに着替え終え、到着しようとしていた。

外を見ると何か黒い穴みたいなのが開いている。


あかんやつや。

本能がそう言っている。

なんか、世界に穴が開いているじゃん。


「10年に1度あるかないかみたいよ」


マユミさんの声が端的なぶん、やばさが伝わる。

先ほどまで熱く議論を交わしていた状況とは違うし、切り替えが早い所はさすがだと思う。


端末片手に司令部からの過去のデータを確認する。

ゲームで言う、あれだ。LV固定の限定戦の条件が並んでいて、笑いがでた。


「めっちゃ被害でとるやん。人海戦術で戦闘不能者続出やんけ。映像記録不可、通信不可、滞在時間半減、デバフしかないんかい。記録は口頭のみ、とりあえず自分が入るしかないやつか」


「ショウタくん。15分で一度戻らなかったら、私が入って迎えにいくからね」


「了解です。無茶はしませんよ」


中が見えないのはわかっているが、黒い穴の中を見ながら外に出る。

一般市民の避難は終わっており、発生場所は繁華街の交差点が中心と思われる。


マユミさんが、現場の方針について指示を出している。

とりあえず自分が入り見てこない限り、現場は動かないだろう。

下手に色々投入して、それぞれの滞在時間を減らすことは無駄だ。


3輪バイクの横で少し尻込みしていると、紫髪のルリさんと白髪のアカネさんがこちらに来た。

髪の色で判別できる。と思うのはデリカシーがないだろうか。

今日の領域は流石に怖い。彼女たち安心感を与えなければ。


「この戦いが終わったら、故郷で待っている許嫁と結婚するんだ。挙式はピラミッドの頂点で、そのまま点火して宇宙へフライアウェイ。どうかな? 実現しそう? 後、蛍光塗料持ってきてくれないかな。あの穴を塗ってみようよ」


「さすがですね~。この緊張感の中、そんなハッピーなこと考えてたんですか。面白過ぎて少しくやしいかも」


「穴の中に蛍光塗料投入は面白すぎだぜ。少し発光してヌルヌルするだけか。邪魔すぎるな。白羽さん、この戦いが終わったら結婚してくれないか」


「いえ、人生の大事な結婚と言う決断を勢いに流されて返事をすると大変なことになるので、お断りします」


「いけずですね。そういうの考えたらだめですよ」 「うちの母親は勢いで結婚したと言ってた」


緊張した顔を崩して、2人は笑う。

会話はおっけーかな。打ち合わせるか。


「しかしまぁ~、ろくなデータがないので、自分が入ってきて情報を集めます。

15分で必ず出てきます。出てこなかった場合、マユミさんが入ります。あ、フラグじゃないですからね。

舞さんは2人のために最後の最後まで残しておきます」


「「とりあえずはお兄さんの帰還待ち、了解です」」


そうなるよな。

現場は領域内の情報待ちだ。


そう決まった直後に、2人が近寄って来た。

そして小さく耳に囁いてくる。


「ごめんなさい。フラグにみえますけど、ちょっとめてもらっていいですか」


「私も正面からギュッとたのむぜ」


わかるわ。軽口をたたいても怖いもんはこえーよ。自分はホラーとか1人で見れない人間だぞ。

自分もちょっと誰かにギュッとしてもらいたいわ。

これマジやべーもん。


そのまま車両の裏に隠れる。


「どうぞ」 


アカネさんに向けて手を大きく広げた。

白くぼさぼさした髪が風に揺れている。

遠慮がちにハグをしてきたが、どうも動きがぎこちない。

体幹のバランスが経験の無さを露呈している。


違う。ハグとはこういうものだ。

背中に腕を回し背骨のあたりを支え首筋近くを押さえる。

もう片方で、腰に手を回し軽く引き寄せる。


どうだ、これが大人のハグだ。

セクハラだろうがなんだろうが、倫理観がこの漆黒のブラックカーボンの穴をどうにかしてくれるのかね。

今が大事なんだ。


「ぐっはっ!」 アカネさんが照れたように体を離そうとしたので、もう一度強く抱き寄せる。

相手の震えが、胸に伝わるぐらいに。

しばらくすると、身体から力が抜けていくのがわかる。


ここで離す。


「いける、いけるぞ! うおおおおおおおおお!」


「お兄さん、私も」


ルリさんが飛び込んできた。


「あっはぁ~!」


ハグの終わり際にもう一度抱き着かれたが、軽く背中を叩いてことなきを得る。


「ありがとうございます。いけます」


「こちらこそありがとうございます。では行ってきます」


いける。自分にも謎の勇気が湧いてくる。

恋愛が脳のバグなら、本能もバグらせれるってことだ。

それとも、怖くても誰かのために動けるような尊い機能を使ったのか。


どっちでもいいか。

バイクに飛び乗り黒い球体に突っ込んだ。


―――――


あ~、これはいかんね。


中は宇宙の様だった。

真っ暗な空間に、星のような光が散っている。

銀河の様な光の渦が遠くで回っているように見える。


綺麗すぎて最高にやばい。ここは地球じゃねーわ。

現実の建物の構造があやふやで、浸食されてる。


通信は使えないし、ボディカメラも無を映している。

不思議なノートのあれだ 『ヌル』 だ。

そして、腕時計の測定器は999分の滞在可能を示している。


この濃度でもMAXかよ、少しは半減してくんねーかな、減ってるの見たことねーぞ。

しかしどうしたものか。バイクを走らせ、赤のビーコンを置いてみるが地面の宇宙空間の底へ沈んでいく。

前回、これ本当に何とかしたんか? 人間ってものはすげーな。


感覚を頼りに中心部にいくと、大玉くらいの黒い瞳が1つだけ浮いていた。

影の観測はできた。どんな規模の攻撃をしてくるのか見当もつかないね。

攻撃方法の誘発だけは確認しないと、意味がない。


恐怖よりも思い出すのは、さっきのハグの感覚がまだ残っていた。

さすが戦闘部の知恵だと思った。これは効く。

絶対に帰れると言う感覚の方が強い。

バイクをフルスロットルで黒い瞳に突撃する。


「こんにちは、アドレナリンの奴隷です。フォオオオオオ!」


距離を詰めると瞳が開いた。

その瞬間、黒い光が空間を焼くように走り、地面の銀河が裂けた。


ビーム、了解。

反射でバイクを倒しこみ、逆走する。


そして、これ以上は無理!

直線型で、予備動作は瞳の見開き!

影の状態も確認致しました、戦線離脱します!


全力で後ろを見ながら走ると、瞳は再びこちらを見ている。

瞳が収縮する。


当然、2発目でしょうねぇ! 

外まで、あと200メートルぐらいか!? ビームきたぁああああああ!!


黒いビームがバイクの後部をかすめた。

カスった空間ごと消えとる。

カスった自分はなぜ生きているのかわからん。


光が見えた。

青い空、灰色の雲。


バイクが火花を上げてアスファルトを滑る。

空気が旨い! 現実世界に出れたんだ。


「ショウタくん!」 マユミさんの声が聞こえた。


マユミさんがダッシュで抱きしめてくれた。

これが、戦闘部の気持ちか。

最高に尊い。


そして、抱きしめ返す。

ギュッとだ。


「はうっ!」


「マユミさん。映像は取れませんし、ビーコンも用を足しません。宇宙空間のようで、現実の建物構造が浸食されてます。影は中心部に瞳として鎮座。攻撃は直線的なビームですが、避けないと終わります」


マユミさんは、ハグの状態から肩を掴んできた。


「了解よ。攻撃の射線誘導と、回避ルートを作る必要があるね。これは総力戦だね。休みの人間全員叩き出す。大事を取って戦闘部の3人目が来るまで一度待機ね」


「了解です。あと、一つだけ」 「ええ」


「トイレ行ってきます」


―――――


こりゃあかんわ。カスったら〇ぬわ。


商業施設のトイレに押し入り、便座に座る。

もうさ、プロに聞くしかないよな。

これどうなっとるん? 人類詰むぞ。


【もしもし、アヤメ様。お電話して宜しいでしょうか】


アヤメさんにラインを入れるとすぐに電話がかかってきた。


「もしもしアヤメさん。さっきはありがとね。色々と上手く行ったんじゃない。

うん。これから、人類に役立つ方向で行こうよ。うちらのメンツに顔出していけば、最悪のケースの処分は免れると思うよ。上手くやっていこう。で、ごめん、ちょっといいかな」


すぐに返しの言葉がくる。


「はい、ショウタさん。ありがとうございました。トレースした女子高生上手くできてただロ。

でも、文化の取り込みが上手くいかなくて、えっと、急に私が手でカレーを食べ始めて、知識がネットだと思うの!

ネットは害悪ってこのことだっ 『ごめんごめん、ちょっとどっちが何言ってるか影が出て急いでて、ごめん影アヤメさんの方いるかな?』


「はい、どうぞ」 「真っ黒な影が出たけど、コレ何? 影アヤメさんの時と違って即死のビーム撃ってくるんだけど、ルナティックモードなの?」





いつもありがとうございます。



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