10 対価とリスク
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白羽 ショウタ
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商業施設のトイレに押し入り便座に座る。
プロに聞くしかないよな。
今回はさすがに〇人が出るわ。あの濃さだと斬っても簡単に復活してきてもおかしくない。
現実が侵食されている。影の言葉を借りると向こうの観測力の方が強いってことなんだろう。
もしも、うちらが負けたら勝てるチームいなくない? 他の都でもこの濃さの出現領域出るってことでしょ。
『世界がヤバイ!』 は物語の中の話だけであって欲しかったなぁ。
つまり! アヤメさんにお電話致しましょう。
ラインをいれると、すぐに電話がかかって来た。
色々と学校でのお礼とか色々今後の方針を話し、本題に入る
「で、影アヤメさん、すみません。この真っ黒な影ってなんですかね。ちょっと即死ビームみたいな物を撃ってくるんですが」
ビジネスの時は、どうも下手に出てしまう。
営業の悪い癖だ。若い女性には上から上からと友達のホストは言っていた。
知らんけど。
電話の向こうで、少し間が空いた。
「今月は公転周期が彗星、金星、月が地球に重なりますから、深層の影がでるかもしれませんね。事象のことなので、確定ではないみたいです」
世界の終わりを天気予報感覚で言われた。
それと同じで、どうしょうもないんだけど。晴れです。雨です。曇りですってか? そうか今日は週末で終末か。
「そうなんだ、どうしょうもないね。いや、どうしたらいいかな。ちょっとマズそうなんだ、弱体方法とかありません?」
「月とか金星を破壊するとかでしょうカ? えっ。私、それ無理ゲーじゃない? 他の案とかないの? えっとそうですね」
どっちが何を言っているか混乱する。
半分半分だったっけ。脳内会議は大丈夫なのだろうか。
「市民全員を睡眠薬で3日間寝かしつけて忘れれば、弱体化できるそうです・・・」
「あ~、ちょっときついかな~。頼りにしてばかりでごめんね? 他にないですかね?」
ちょっと厳しいけど、いざとなったらやるしかないか?
突入前にマユミさんに伝えよう。負けた場合、保険を掛けないといけない。
「今から私たちがこっそり領域内に入ると、薄まります。陰宇宙の領域は2つの観測は持てないですから。
人間の浅知恵の包囲を切り抜けて入って、領域を吸うと半分にはなりますね。タクシーで着くまでに少し時間がかかりますが、一般市民の女子高生の私があやしまれずに中に入るのは楽勝です」
一般市民の女子高生は領域を吸わないと思うよ。
と言う言葉は飲み込んだ。助けてもらってるわけだし。
「それは、アヤメさんに弊害とかでますか?」
「出ないです、私も影の維持費が稼げるそうです。私が強くなるのがリスクですが、もう人の枠を飛び出てるので今更だと思います」
どうするかな、やってもらうメリットの方がでかい。でも、影アヤメさんが手に負えなくなったらどうしようか。
このまま突入はリスクが高すぎる。
初手で押し切れずにビームをカスったら、戦闘部は〇ぬ。
う~ん、やってもらうしかないかな? 〇ぬよりましだ。影アヤメさんの問題は先送りにしよう。
「かかった維持費とか交通費は後で払うよ、お願いできるかな。もし危険が迫るなら即逃げて。そこから先は自分たち大人の仕事だわ。闇バイト、影バイト感覚でお願いします。今月は100万でいいかな」
「社長令嬢なのでお金に困ってません」 「そうですか、リアルが強くてニューゲームでしたか」
「でも、この体になって渇望しているものがあります。このミッションに成功したら、休日にデートしてもらっていいですか!」
「ああ、そうね。休みの日にね。そうね。歳の差とか気にしない感じ? いや、アヤメさんの年齢5億歳とんで18歳だったっけ。自分完全年下じゃん。ウケる」
影よ、すまないね。休日はないんだ。了承したとしても成立しないんだな。
電話口から彼女の笑い声が聞こえる。
「フフッ、わかりました。デリカシーがない発言だと思います。休日のデート、約束です!」
「はいはい、頼みました。もしも進入時に見つかったらすぐ自分の名前を出してね。パパ活でも円光相手とか何でもいいから、まず呼んでね」 「わかりました!」
電話が切れた。
女子高生に影バイトを依頼してしまった。かなり終わってる。
めんどくさいから、現金だけの関係性にしてぇなぁ。パパ活ってよく考えられたシステムじゃねーかな。
でも人類滅亡よりましだろう? たぶんね。
トイレから出て手を洗っていると、外からバタバタバタバタとヘリの音が響いて来た。
早いな、舞の人材派遣サービスがもう到着したらしい。
非日常を味わうため、保養所とか旅館にいるとよく聞くヘリのお迎えの音。
浴衣姿やタオル一枚の状態で何度さらわれたことか。
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ヘリのローターの風が 『影出現中、立ち入り禁止』 テープを激しく揺らしていて、現場職員たちが一斉に顔を上げている。
マユミさんから通信が入った。
「3人目の到着よ」 「さすが舞さんの運転ですね、拉致に手慣れています」
到着したヘリから2人の影が見える。
1人はもちろん 『瀬川 舞』 低身長で赤メッシュがサラサラと揺れている。
舞の目は 「今日の仕事は終わりですかね」 と思っている瞳だ。
自分が倒れたら、舞が中に入る事になるんだけどな。
そして、隣にいる彼女を見ると職員全員が言葉を失った。
緑色の水着に黄色いパーカーを羽織り、足はビーチサンダル。手にはまだ砂のついたビニールバック。
水色の髪は風で乱れ、肌には日焼け止めの跡が残っている。
どうみても海水浴場からそのまま連れてこられた人間だった。
場違い感が半端ない。この緊迫感の中に連れてこられていい存在では無い。
緑色の瞳が死んでいる。目が死んでいる。
休日を奪われたときの目だ。その目をよく知っている。
シンパシー、絶望のシンパシー。今、地球上で誰よりも彼女の気持ちがわかる。
もう、我慢できない。
「グハハハハ! いや~、ナツメさん! 3日ぶりじゃん? こっちこっち! ほら、こっちだよ!」
休日が無くなり絶望している彼女に向けて手を振り大歓迎する。
舞にも壮大なミッションを終えたことをねぎらわなければ。
「舞さん、ナイス! お疲れ様です!」 「えへへ、対象者を回収しましたよー!」
「おぉ、なんて優秀な舞さん! 後で食べたい物リストを送りなさい。さぁ、後は我々がやります。ゆっくり休んでください」
そして水着の女性が、死んだ目のまま笑った。
「人の不幸をしゃぶりつくす悪魔ですねぇ? この前、ヘリから出て来たのがタオル一枚で現場にきたショウタさんを爆笑したの、根に持ってるでしょう。私がこの格好で連れてこられるとは思いませんでしたね」
「ハハハッ、遠くへいくと絶対にこうなるんですよ。じゃ現場いきましょっか」
ナツメさんの案内するため現場テントへ向かいながら、2人で会話をする。
「で、休日どこいってたん? 海かな? これで海じゃなかったらどこだろうね」
「どちらかと言うと 『空』 ですねぇ! 太陽の光、南の海。少しばかりのバカンス・・・。2時間圏内の孤島で喧騒を忘れようとしたその時です! 空からUFOヘリが私をアブダクション、私とてもかわいそう!」
素晴らしい。100点の回答だ。
ナツメさんの気持ちがわかるのでしみじみと相槌を打つ。
「ああああああああ! 舞先輩がヘリで迎えに来ると思いませんよね! 着替える時間ぐらいくれると思うじゃないですか。ショウタさんがタオル1枚で現場にきた理由がわかりましたねぇ」
彼女が戦闘部3人目の風見 ナツメさん。軽いし、ネタを喋る。
この仕事でお金を貯めて、30代には仕事を休職して世界を歩き回りたいそうだ。
日本が一番いいよ? と言っても聞いてくれない。まぁ、体験してみないとわからないよな。
ウォシュレットがないトイレの世界で日本人が生きていけるわけが無い。
そして、ナツメさんは遠くの黒い球体をちらりと見た。
顔から感情も消えた。
「うわ~い。真っ黒。無理無理、お疲れ様でした! ヘリで報告聞きましたけど、つまり人類は滅びるってことですね。終わりの瞬間まで、南の島でくらしましょう!」 「ダメです。高い給料をもらってて 『ハイさよなら』 はできないでしょう」
ナツメさんは肩を落とした。
「ショウタさん、真面目ですよねぇ。命より大切な物ってあるんですかね」
ない・・・。たぶん。
でも、戦になると人は逃げない。〇ぬより怖い物がある。
「まぁ、ほら着替えてよ。中で2人が待ってるよ」
女性陣だけの設営テントの中に入るわけにはいかないので、入り口まで見送る。
「お帰りなさい、ナツメさん。後でヘリが来た時の感想を聞かせてください」
「その格好・・・、ウケる。今まで何をしていたかありありとわかるぜ。タオル一枚の白羽さんの前で大爆笑した業が返って来たな」
「泣きながら、今までの話を語りますね。お聞きください、タイトルはヘリから見える舞先輩の邪悪な笑顔です」
そんな、女子トークが聞こえた気がする。
もっと、小動物キャラみたいなので、きゃわわとか言っているような。そんな感じの会話を日常系アニメで見ていたが、現実は違うね。
あとは、マユミさんと連絡し作戦を伝える。
「自分が突っ込み、影の攻撃を誘発し。3人で叩く」 一度だけ有効だろう。
これで決まらなかった場合、総力戦となることを伝える。
「本当に危ない作戦だね。10分経過で回収しに中に入るわよ。予備バイクを3台ぐらい、中に入れておくわね」
「了解、頼みます」
さて、先ほどアヤメさんから聞いた、睡眠薬で市民ぐっすり作戦をどう伝えようかと思案していた所、ラインの通知音が鳴った。
内容はアヤメさんから一言だけ 【いきます】 だけだった。
その直後、現場が騒がしくなった。
「影濃度、低下中!」 司令部の職員が叫び続ける。
「黒が薄まっています!」 全員が黒い球体を見る。
確かに、真っ黒から、光を反射する黒ぐらいに落ち着いている。
輪郭も少しだけぼやけ始めていた。
アヤメさんがやってくれたのか。正確には、アヤメさんの影か。
あの少女に自分たちの行く末を任すことになるとは。
よくやってくれた。何としても彼女の存在を影対策府に認めさせないとな。
影の再生能力の大幅な低下が見込める。
黒が深すぎれば、すぐ再生するからだ。
つまり、ダメージが通りやすい。
耳のインカムを押さえ、マユミさんと戦闘部に伝える。
「マユミさん、何かチャンスです。出ますわ」 「これ、私が着替え終わる前に始まるやつですか?」
ナツメさん、はよ、せぇや。
「もう、水着でいきましょう。伝説になりますよ」 「伝説になりたくないですねぇ」
しかし! 素晴らしい仕事だ。アヤメさんに対価を支払わねば。
影対策府の支援部に来てもらおう。すごく有能な力だ。
さてと、地獄のドライブだ。
力を込めて三輪バイクのハンドルを握った。
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すぐにスーツに着替えた、アカネさん、ルリさん、ナツメさんが無理やりバイクに飛び乗る。
ズシッとバイクが沈む。 『体重的に3人はちょっと重い』 と、言ったら暴行を加えられるだろう。
体重とかあんまり気にしないんだけどな。
さて、人が〇ぬかもしれない現場に入りますかね。
「出ます」 と、返事を待たずにハンドルを握る。
すでに紫の剣を握るルリさん、アカネさんは薙刀を担ぎ、ナツメさんは両手の指先から細い光の糸を垂らしていた。ナツメさんはワイヤーを出す。
「こちら白羽、突入します。後は頼みました」
インカムに告げる。
3人にも作戦を伝えてある。
影を補足、戦闘部は散開し、自分に確実に極太なビームが来る。
バイクは耐えられないと思う。その後、学習した瞳型の影は物理をともなった攻撃に切り替えるだろう。
全力で逃げている間、戦闘部が叩く。
火力で押し切れば、勝てると思う。
司令部、戦闘部も作戦に異を唱えない。もう少し心配してくれてもいいのよ?
ビーム1発なら食らっても大丈夫と思われているのだろう。
たぶん、大丈夫だ。たぶんね。
境界を超えると内部は宇宙で星が散り、遠くでは銀河が回っていて美しく見える。
ラスボス手前ってこんな感じだよな。最初の突入と違い、人工物の建物の輪郭がはっきりとわかる。
ならば、このままぶっ叩いてくれ。
バイクを飛ばし1分程、大玉ほどの黒い瞳が浮いていた。
前回と同じ場所、瞳が最初からこちらを見ている点以外では同じだ。
「あ~、ビームきますわ。散開お願いします。あ、あと皆さまの事が好きです。これが終わったら正式におつき・・・、では、頼みましたよ」
「ク〇見たいな、フラグだぜ」 「5割本当かな~」 「私たち相思相愛でしたか、ペッ!」
ありがとう、優しさに涙がでるわ。
〇ソみたいなフラグを立てた直後、黒い瞳が見開かれ黒い閃光が走った。
ハンドルを切り、身体も地面スレスレでギャリギャリと回避する。
が、三輪バイクの後輪が黒い光に飲まれると、車体の半分が消えた。
コントロールを失いドンと宙に投げ出され、空に見える星々がクルクル回っている。
衝撃と共に地面にぶち当たると、視界がシェイクされる。スーツのおかげでまだ動ける感じがある。
視界がゆれながら、戦闘部が斬りかかるのが見える。
でも黒い瞳は、視線をはずしていない。瞳と自分の目が合った。
もう一度収縮し極太ビームを飛ばしてきた。
「おい!執拗だな! 絶対に〇すマンじゃねーか」
【光と影、時はそれをまた1つに還ス】 と、瞳から声が脳内に響いた。
逃げらんねーわ。〇ぬかもしれんし、超怖ぇえええええ!
視界が消え、音も消え、熱くもない。ただ空間が消えた。
スーツが吹き飛び、破け、視界が戻る。
すぐに腕の端末を見ると、残りが998分になっていた。たった1分だが、自分の限界が見えた証拠だ。
「さすがにか」
すぐに立ち上がり、戦闘に巻き込まれない所に走る。
替えのバイクは入って来た所のどこかにあるはずだが、戦闘状況を見る。
ルリさんの紫の剣が黒い瞳を裂き、アカネさんの長巻が裂け目を広げる。
ナツメさんの黄色いワイヤーが瞳を絡め取り、締め上げて細かく刻んだ。
さすが、都を3人で守る猛者。
少数精鋭の守護者たちだ。
だが、黒い影が集まり、再生を試みようとする。
ここを止めれば終わりだと思う。
インカムが消し飛んでいる、今は叫ぶしかない。
「ほら、自分は生きてますよ! やっちゃってください!」
3人は聞こえたのか、斬る、薙ぐ、裂く。影が形を取り戻す前に何度も叩き潰す。
黒い瞳が砕けていく。
勝ったな。
そう思った瞬間だ。慢心がフラグを呼び寄せるのか。
最後のあがきか、砕けた瞳が収縮した。
黒い光線が走る。
ルリさんは飛び、ナツメさんはワイヤーで体を逃がし、アカネさんも避けた、はずだった。
黒い光が脇腹をかすめた。
「あっ」 と、聞こえた。
力が抜けたアカネさんが落ちて来る。
やばい、本当にやばい。
いつもありがとうございます。




