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11 影バイトの対価


――――


白羽 ショウタ


――――


「あっ」


人生において、聞きたくないセリフ。

「あっ」 の後は、惨事の結果が待ち受けている。

大体、何かこぼすよなぁ!? お使いのPCは大丈夫ですか?!


空から人が、親方空から人が! と、言っても今の20代には通じないのはわかっている。

アカネさんの白い髪が、黒い宇宙の中でふわりと広がった。


「うおおおおおっ!」 叫びながら走る。

上半身の対影スーツはほとんど残っていない。

誰かの水着姿を爆笑した行いは身に返ってくるのか。


「攻撃をそのままで! アカネさんと離脱します!」


ここで攻撃の手を休めることはできない。今、止めを刺さないと次はないんじゃないかな。

即死ビームは難易度が狂っている。


聞こえてるかわからないが、叫ぶしかない。

ルリさんとナツメさんが武器を振り上げバシバシ影を殴っているのが、アカネさんを受け止める瞬間見えた。

衝撃がズシッと腰にくる。腕の中のアカネさんは、あり得ない程に冷えていた。


「もーしもしもし、白神アカネさん 25歳。下に兄弟が2人。休日は筋トレと鍛錬してる方が安心するんだっけ。小物を集めてるの知ってるけど、ちいかわぁの何が面白いのかわかりません。もっと面白いの一緒に見ようよ。『蛍の墓標』 なんてどうかな?」


「おおっ!? 白羽さん。・・・私はどうしてここにいるんだったか。・・・ふふっ、ほぼ裸じゃん。おお、夢に温度がある。肌が温かい。私、あれ・・・?」


赤い瞳の焦点が揺れている。これはヤバイ、自我が戻ってきていない。

影に被弾すると削られるものに個人差がある、アカネさんは記憶が消えていた。


自分は急いで彼女の腕を取り、腕時計を確認する。

残り3分を切っていた。

抱きかかえながら、出口の方へ走る。


動け動け、呼吸は後でいい。寿命なんぞ今、使ってしまえ。

未来に受ける喪失に比べれば安い。


「白羽さん。私、戦えていたか?」


「もちろん、誰かのために刃を振っていましたよ。今は、自分の心臓の音をBGMにして声だけ聞いて下さい。体勢はこのままで、目をつぶって、何も心配はいらないですよ。おやすみなさい」


「そうか・・・」 「そうです、帰りましょう。後で続きを説明します」


予備の3輪バイクが見えた。3輪のダサさが今はとてもたくましく見える。

マユミさんが放り込んでくれたのだ。

アカネさんを抱きかかえ、ハンドルを握る。白い髪が腕に垂れた。

顔はまだひどく冷たい。


アクセル全開、黒い宇宙を駆け抜ける。

境界を抜けた瞬間、空気が肺に入った。


ギャリギャリと音をたてバイクを止める。

アカネさんを抱えたまま 「医療班! はよ!」 と叫んだ。


腕の中でアカネさんが小さく息を吐いていた。

間に合ったのだ。 「白羽さん・・・」 とギュッと腕を握られた。

よかったよかった。生きてる生きてる。ギュッと握り返した。


マユミさんが駆けつけて来て、アカネさんが担架に乗せられた。

安心している暇がない、すぐに戻んねーと。中で被弾してた場合はえらい事になる。

考えたくもないし、すぐにアクセルをふかす。


「ショウタくん、状況はわかった。スーツも着る暇もないのね」


ご名答でございます。 「バイクで一命を取り止めました。ありがとうございました」

一言だけ言い残し、領域へ入る。


内部は、宇宙が無くなっていた。黒い空間は薄れて、銀河の渦も消えかけている。

中心には、ルリさんとナツメさんが立っていた。

足元には影の残骸があり、2人はまだ肩で息をしていた。


「お疲れ様です」 「アカネさんは?」


「外に出してきました。生きています、意識もありました」


ルリさん、ナツメさんの肩から力が抜ける。


「よかった。仲間を失うとか、重すぎますよぉ」


足元の残骸は、もう形を留めていなかった。


すっとルリさんとナツメさんの腕を取り時間を確認する。

残り5分でギリギリだ。


「被弾はしてないですね、さすがです」


「はい、半裸のお兄さん。刺激が強すぎます」 「やはりショウタさんが伝説になりましたね! 腕を取られていい感じかと思いきや、そこには裸の変態紳士がいたのです! と、司令部に報告します」


「はい、初手の戦闘ダメージで脱がされましたね。あと、マジ時間ないから帰ってくんない。疲れてたらバイク使っていいよ」


「今日は、借りていきます」 「お疲れ様でした~」


2人がバイクに飛び乗り帰って行った所、見送った所で自分も倒れるように地面に転がる。

薄れていく空間と地面が冷たくて気持ちいい。今日はめちゃくちゃ疲れた。


影領域の内部が消えるまで、少し寝た。

薄れていく頃、外のサイレンが聞こえただろうか。


――――


昨日の夜は提出物を始末していた。

国が聞きたいのは遠回しに 【武神と呼ばれる白神 アカネさんがカスっただけで、記憶へダメージを受けたのに。君に直撃してスーツが吹き飛んでどうして無事なの?】 だ。


自分も残り時間の998分になったと報告。【自分も〇ぬんだわ】 と返信。


色々報告して、後はマユミさんのお仕事となる。


「ショウタくんも影からダメージを受けるんだね・・・。ここの対策府に激震が走ったわよ」


「自分でもびっくりです。影耐性がスキルじゃない事が証明されましたね。そう、まだ目覚めてないだけ」


「いいえ。影耐性ですね。でもお兄さん、影のダメージ食らうんですね!? 物理の飛び石で大けがするのは知ってますけど」


そう、シューティングの自機なみに脆い存在です。

戦闘部の肉体は、銃弾ぐらいはじきそうだけど。


黄色い髪をまとめブラウスを着こなしデスクに座っているマユミさんとは対照的に、紫の髪を緩く結び白いブラウスを羽織っているルリさんは、昨日の惨殺現場と比較できないぐらい可愛く見える。


忙しくならない内に、今日はアカネさんのお見舞いへ行くことになった。

朝食を食べて休むことに徹していると言っても過言では無い。

ただ、まだ時間があるためゴロゴロする事となった。ナツメさんは出動ギリギリまで寝ていたいそうで家にいるのだろう。


一応、昨日の立役者であるアヤメさんにもメッセージを送った。

影領域の弱体ができる有能すぎて5億歳とんで18歳の大先輩に見えてくる少女だ。


【昨日はありがとうございました。本当に助かりました】


秒で返信が来た。


【次のお休みはいつですか?】


う~ん、アヤメさんに影対策府の現実を教えていいものか。未来の君はここで働くんだよ。

そもそも休みなんてないよ? 人類を守る力がある者は365日働くんだってさ? 狂ってるよね。

あれ、なんで人類なんて守っているのだろう。人がいない世界、それがパーフェクトワールドじゃないかな。

と、喉元まで出てしまった。

でも、権力と自由がある。きっと人は力があるなら、見て見ないふりはできない。

たぶんね。


そっと携帯を伏せてリビングを見ると、ルリさんがゴロンと横になり、メダルスケート漫画を読んでいる。

全巻ポチッたやつである。面白いよね。自分、昔フィギュアやってたけど、4回転はできないよ。

漫画なら後半6回転ぐらいやってもよかったのかな。


ルリさんに 「鍛錬とかしなくていいんですか?」 とか聞こうとしたけど、やめた。

昨日は自分たちは頑張った。アカネさんが被弾する中、振り返らずにやる事をやってくれた。

今日はメンタルケアの方が大事だよね。

自分も働きたくないし、人に優しくしないと優しさは帰ってこない。


「ルリさん、呼ばれるまで何かします? それ3周目の読破では?」


「超、心が満たされました。いい作品に出会うと頑張ろうと思いますよね。読み物は満足です。ゲームしませんか」


そこへ、デスクからマユミさんがこっちに手を振る。


「私も、もう少しで終わるわ。時間まで、ぽよぽよVSトトリスをやらないか?」


にこやかで平和な提案に見えるだろう。

しかし、自分とルリさんは黙った。

勝負になるなら、やりたい。3連鎖組んだら勝ちならば。

だが、虐殺される。2連鎖がいいところの我々は虐殺される。

古代魔法、ビックバンを飛ばして来る魔女に画面ごと吹き飛ばされる。

実力差がありすぎて、ゲームにならない。


「血を見るために我々は生きているのでは・・・、いえ、3人なら大陰湿スマッシュ兄弟にしませんか」


「お兄さん、ソレ昨日リアルでやりましたよ。ストレスブラザーズはまたの機会がいいな~」


にこやかな拒否。

自分は、相手が女性だからって手加減するほど落ちぶれていない。

有名な 【スモブラで女性をボコボコにしてはいけない】 と言う名言は聞いたことがあるが。


「あのぽよぽよの圧勝が楽しいのに、仕方ない」


マユミさんの虐殺も拒否したし、今日は上手く調整できない様子。


「積んである超・竹取物語でもみますか」 「了解です」 「賛成」


そんなこんなで、リビングに映画が流れ始めた。

月と言う単語で思い出した。


月と金星と火星の公転周期で影の強化。

もしも、アヤメさんの言う通りで今後も連続で続くなら、どうしょうもない。

人海戦術の戦争になる。多くの〇者が出ながらの戦いになるかもな。

この先、彼女がキーマンになるのでは、と言う想像が頭をよぎる。


さて、1,5倍速の力は偉大で見終わりそうだ。

隣の2人は泣いている。男性との感性の違いと言うのは、難しいよね。

そして、そろそろお見舞いの時間だ。


その時、舞が支援部の扉から入って来た。

お見舞いにも、舞が来てくれる。影の出現時、全員一緒に確保したほうが仕事が楽なのはよくわかる。


その後ろには、総括司令がいた。めずらしいな。

マユミさん、自分、ルリさんの前によく顔を出せたよな。

マジかよ、吊るしあげられるぞ。今日は、司令を吊るしていいのか?


支援部の休みは? 司令部だけ労働環境いいよね? 戦闘部は使い捨てか? 人員の補充は?

よくここに顔をだせたな、〇にたいらしいな。

だが、瀬川 舞さんと言う、うちのバディの手前だ。吊るすのは勘弁してやるが。


「お休みの所、大変すまない」


司令が、頭を下げに来た。

おう、知ってるぞ。休んでる所に来る人間は、休ませる気がないんだよね。

民間営業の時に学んだ真理である。


部長のマユミさんを見ると目をつぶりながら、上を見ている。

案件が、ヤバそうだな。


「昨日、他の都で発生した超黒領域の討伐に漏れがでた」


うわ~。うちらでギリギリだったもんな。

漏れるよな。その対策府の現場は地獄だっただろう。

アヤメさんによる影弱体ができなければ時間内に討伐できたか怪しかった。


「聞きたくないけど、その都の損害の規模を教えてくれるかな。司令」


空気がヒエヒエ。舞も目を伏せて今にも泣きそうだ。

君が泣くことではない。それともこれからのミッションに申し訳なく思ってる?

だったら、笑顔で旅行先に拉致にくるのは申し訳なく思ってないって事か? おい。


「その都にもう一つの領域。黒い瞳がでたのだ。同じ瞳で現地の戦闘部と司令、支援、戦闘部は半壊。再編には時間がかかる。戦闘不能者が・・・、多数だ」


半壊、昨日のアカネさんの冷たい身体を思い出した。

それは、グロいな。


「こちらに救助要請ですか」


「そうだ。君たちが昨日、討伐した実績はすでに都へ共有されている。ここで恩を売りたいのもあるが、この国の危機だ。領域が拡大するほど、手の打ちようがなくなる」


そうよな。

中心までたどり着く時間が短ければ短い程、戦う時間が増えるから。

でも、リスクが高すぎる。

この珠玉の戦闘部の負傷だけでも大変な損害になるぞ。

現に今、大変だもん。


思わず「正直、いきたくないですね」 と、言葉が出てしまった。


誰も何も言わなかった。だって、その通りだ。

全員わかっているだろう。あの瞳を1回で倒せないと、マジヤバイのは。

そして、ここまでくると勝てるのはうちらしかいない。

なにより1人は、入院中だぞ。


「とりあえず、アカネさんのお見舞いへ行ってきます」


総括司令は、すぐに頷いた。


「もちろんだ。好きにして構わない。もしも、僕に力があればすぐに現場に行きたいのだが、現実は甘くない。君たちが最大限働けるように手配するのが仕事だ」 


いいこと言うよな。

まぁ、わがままをいつも押し付けている借りぐらい払ってやろうと思うが。


戦闘部に参加は酷だよなぁ~。

もう一度、携帯を見ると10件ぐらいのスタックがある。


【次、いつお休みですか?】


が、病んだ感じで並べられていた。

彼女にサービスをしなければならない、今日はフレンチの予約でも取ろう。

話をしなければならない。


「マユミさん、ルリさん、ナツメさんを起こしてとりあえずお見舞いに行きましょう。ああ、舞さん、司令に盾にされたのわかる? 全員で吊るすか? 吊るさなくてもいいなら病院までお願い」


「はい! ショウタさん、吊るさなくて大丈夫ですよ。向かいましょう!」


舞は、なにかに期待している目だな。この案件、頷くしかねーと思うよ。

経験者がやらないと多くが〇ぬでしょ。

マユミさんもわかっている。

でも、入院しているアカネさんの体調次第だけどね。




いつもありがとうございます。

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