12 どこまで
出動ぎりぎりまで寝ていたい、と言っていた水色の髪のナツメさんは集合場所の車両置き場にはちゃんといた。
黄色いパーカーを羽織り、眠そうな顔で片手を上げている。
「おはようございますぅ~。先日、南の島から拉致された美少女です。コンニチハ!」
「おはようございます。ツッコミどころが多すぎて、面白すぎます。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
水色はそのままルリさんがいる車両に入っていった。
正直、ちょっと面白くてくやしかった。次回、自分が拉致された時にそのネタをパクろう。
【みなさん、お疲れ様です。旅館の風呂から引き揚げられた鮮度がバツグンの人魚姫、もといサハギンです! さぁ、雷属性がききますよ! お仕事頑張りましょう!】
これは、いける。
地獄のような雰囲気に耐えられず、現場が自分と目を合わさずに下を向く様子がありありと想像できる。
彼らにもこの理不尽な現実を一緒に味わってもらいたい。
マユミさんは、ルリさんの車両に乗った。
打ち合わせがあるそうだ、もう一つ出現中の瞳の事だろう。
行くしかないけども、どうすんだろう。放置した影は日に日に領域が大きくなるし、うちの主力は療養中だぞ。
まだ、どうにかなるが10km超えると高速ヘリで狙われつつ、降下する地獄の行軍になるんじゃないの。
マジきつい。車両の出し入れを1日中、自分がやるんだろうなぁ。
アカネさんのお見舞いに出発するため舞の車両にのる。
2台で出動、例によって出現した場合の対処である。
舞は今日も変らずの赤と黒を基調としたファッションでハンドルを握っている。
「アカネ先輩大丈夫ですかね。今回、映像が無いので、詳細はショウタさんの報告書とナツメさん,
ルリさんの聞き取りだけだったんですけど。【えぇ、舞先輩、聞いて下さい。アカネ先輩が穿たれたその時、愛と勇気、復讐心に燃えた美少女の能力が開花して】 とか話の尾びれがついてきましたよ」
「ああ、ナツメさんはもうそういう病気なんだよ。感覚がにてるから気持ちがよくわかる。中身なんてないからルリさんの方を信じたほうがいいかな」
「ルリさんの方はもっと、あの~。あれでした。【半裸抱っこはエッチすぎます】 と、だけ。そそくさと帰りました」
「完結されてよかったね。聞き取りの仕事早く終わったじゃん」 「ですかね? ショウタさんの報告書が、ぎりぎり真面目で助かります!」
「ふざけていいのかな。病院の中、裸で入ってついでに1か月ぐらい入院してきていいか。間違いなく入院の診断されるぞ」
「すいません、許してください。監視カメラのデーター消すの大変なんですよ」
―――――
病院へ着くと、先に戦闘部とマユミさんが病室へ向かった。
自分は、おまけみたいなもんだ。いたら嬉しいだろう。たぶんね。
舞と自分は少し遅れて、病室の前に立った。
扉の向こうから、ナツメさんの明るい声が聞こえる。
「アカネさーん、生きてますかぁ? 昨日、半裸の変態紳士に救われた気分はいかがですかぁ?」
やめろや、病院で第一声に選ぶ言葉じゃない。空気とか読めないのか。
話が終わるまで待機してようと思ったけど、引き釣り出された。
報告書と一緒に水着で現場に舞い降りた美少女のナツメさん。あの面白映像を司令部にメールで送ったのがバレたかな。これはバレたな。
「しーっ。ナツメさん、声が大きいです。そうです、アカネさん、どうだったんですか! 胸板の感触を詳しく教えてください」
ルリさんの声も聞こえた。
自分が病室をのぞくと、アカネさんはベットの上にいた。
白い髪が枕の上に広がっている。
赤い瞳は開いているが、どこか宙を見ているようだった。
「・・・ナツメ、うるさい。ルリ、それはまた2人の時にな」
アカネさんが小さく言う。
マユミさんがベッドの横に立ち、アカネさんの顔をのぞき込んだ。
「アカネさん、体はどう?」
「全ての数値は正常だが、だるい。頭が少し変だ」 「記憶は?」
「ところどころ、抜けてる。でも、お前たちのことはちゃんと分かる」
アカネさんはゆっくり瞬きをし、視線がこちらを向いた。
赤い瞳の焦点が少し合った気がした。
「白羽さん・・・、来てくれたのか」
「来ますよ。で、ビームで脱がされた自分の胸板の感触をおしえぐえっ」
舞に足を踏まれた。合法的なセクハラのチャンスを逃してたまるか。
「で、自分の胸板の感触をおしえてぐええええええ!」
足が超、痛い。さすが能力覚醒者、身体能力も上がっている。
「おおっ。舞先輩、私も踏んでいいですか? 加減が難しそうですよね、私たちだとポキッと・・・」 「ナツメさん」
ルリさんが止めてくれた。そして、舞が一歩前に出た。
「アカネ先輩、大丈夫ですか。国が心配してますよ。大げさじゃないです。武神が倒れたって、けっこう大騒ぎです」
そして、マユミさんがベッドの近くに立った。
「今は、しっかり休んで」
そこで一度、言葉を切ると病室の空気が少し変わった。
「言いにくいことだが・・・、他の都であの瞳を討ち漏らしたの。ここともう一つに出現したのよ」
「二つ・・・」
「ええ。現地の戦闘部は半壊だ。再編には時間がかかるわ」
アカネさんは、ベッドの上で手を握った。
「なら、行くしかないな」 「アカネさん」
自分は思わず声を出した。
「やるぜ」
アカネさんはそう言った。
その勢いは、いつもの白神アカネさんだった。
だけど、わかる。1週間ぐらいは、会話を続けて色々と思い出さないと記憶は戻ってこない。
あの状態で戻らなかった場合は回復が遅い。何か大きく記憶がないはずだ。
「はい、気持ちは分かります。まだ、記憶か思い出、戻ってないでしょう? その状態で次の被弾で存在が〇ぬと思います。自分は欠落したことがないですが、具合の良し悪しは、いつもあなたたちを見て来たのでわかります」
「大丈夫だ。記憶も完璧で、体も動く」
ルリさんも、ナツメさんも、舞さんも、マユミさんも、何も言わなかった。
不安に思いながら数値が大丈夫なら、大丈夫に感じるのだろう。
自分は息を吐いた。
もしもし、最初に記憶が抜けてるって言ったじゃん? 今、記憶が完璧になったんか。
ここは止めなきゃいけなくない? 数値は正常かもしれないが、アカネさんの存在を失うかもしれないんだぞ。
影滞在の数値で全てがわかるなら、自分の存在はなんだっていうんだよ。神か?
ただ、3人いないと勝てないとは思うけども。でも世界の事より、自分のまわりのことが大切だと思うよ。
「少しだけ、二人にしてもらっていいですか」
マユミさんがこちらを見る。
「ショウタくん」 「大丈夫です。確認したいことがあるだけです」
いい歳なんだから、喧嘩なんてしないよ。
アカネさんは言葉が強いから対立しそうにみえるけど、2人になれば可愛いもんなんだ。
ルリさんが不安そうにアカネさんを見る。
ナツメさんは何か言いかけたが、やめた。
「わかった、廊下にいるわよ」
マユミさんがそう言い、全員を促す。
病室から一人、また一人と出ていく。
最後にルリさんが振り返った。
「お兄さん・・・」 「大丈夫です」
そう言うと、ルリさんは小さく頷いて扉を閉めた。
病室に、自分とアカネさんだけが残った。
アカネさんは、しばらく黙っていた。
そして、視線を少しだけ下げる。
「白羽さん」 「はい」
「正直に言う」 「はい」
「記憶が、かなりあやふやだ」
でしょうね。
体や数値は回復してるかもしれないが、昨日の状態を見る限り。
しばらくは、無理そうだ。
アカネさんは、自分の手を見つめた。
「ルリやナツメのことは分かる。マユミ部長のことも、舞のことも分かる。でも、思い出が抜けている。昨日、自分が何をしたのか。どう戦ったのか。どうしてここにいるのか。ところどころ、霧がかかっているみたいだ」
自分は黙って聞いた。25歳、成人しているとは言え精神的にまだまだこれからよな。
よくやってると思う。自分がその歳の時、「仕事したくねーなぁ」 しか思ってなかったし。
そんな彼女たちが国を守っているんだ。
「でも」
アカネさんが、こちらを見る。
「白羽さんのことだけは、はっきりしている。白羽さんが休みなしで働いている理由がわかったんだ。戦ってこその白神 アカネだってことがさ。心配して止めても無駄だぞ、私は出る。白羽さんに止めれないハズだ」
いいこというじゃん。立場を理解した職業意識、かっこいいじゃん?
世界最古の小説の題材の一つはソレだよ。
帝国の将軍まで上り詰めた男がかつての生まれ故郷と戦争をする。かつての師、友、親兄弟。見知った顔が敵陣にいた。進めば故郷の村を焼くことにもなるだろう。
【戦神よ、私はどうしたら】 【はい、戦神です。今まで、将軍や戦士としての立場を享受しておいて、ここで戦わないとかマジで言ってんの? 戦え】
名言よな。人間は社会的動物だってことがよくわかる。
でも甘い。
今は違うけど、人の意思をひっくり返さないと営業なんて勤まんないのよ。
そっと、アカネさんのベットに腰を下ろす。
顔がのぞき込める位置に。
「!? ちょ、ちょっと」
アカネさんの手が顔を覆うようなしぐさを見せる。
が、その手をそっと握る。
ビクッとしたその手を、彼女の横顔へそっと添える。
そのまま逃げ道を塞ぐようにのぞき込む。
「近い近い、白羽さん。病室だ、ここは病室だぞ!? 壁ドン、いや、ベットドンか!?」
「ここで、心配だから少し休んで欲しいと懇願したらどうします? 仕事関係なしに、あなたに消えて欲しくないのですが」
彼女は耳まで赤い、赤い瞳より紅い。
握った彼女の手の鼓動は、早鐘を打っている。
と、言葉の話術より気持ちを素直に伝えるのが何事も一番よね。
「反則だろ・・・」 と、耳元で聞こえたような気がした。
―――――
「アカネさんが2、3日休みたいそうです」
「それがいいね、数値は正常でもメンタルだけは計れない所があるからね。瞳の影なら1週間ぐらいならまだ対処できると思うわよ」
病室から戻ってそう伝えると、マユミさん、ルリさん、ナツメさんも頷く。
「総括司令が毎日笑顔で、戦闘部と支援部に張り付くと思いますよ。解決するまで1時間おきに政府からお問い合わせのお電話がきますからね」
舞の言うことも、ごもっともだ。
自分が司令だったらそうする。なんとしてもやってもらうしかないもんな。
「それはそうだろう。でも、一応言葉には出しておいた方がいいよな。うちらの仕事外だしなぁ~。ここの都と他の都、両方やれってか? コラ。
アカネさんは行くとは言うけど、エクストラステージみたいなもんじゃん。ここで、無理してルリさん、ナツメさんに負担を強いろと? やらないとは言わないけど。ちょっと、時間くれない? と、マユミさん、舞さん、すまない。やわらかーく、そう司令にお伝えください」
「そうよね」 「そうですよねー」
そして、戦闘部の2人に向き合う。
「万全でいきましょう。自分はあなたたちに帰ってきて欲しい。代わりなんていない大切な人だと思っています」
「お兄さん、そういうのズルいですよね~。好意を逆手に取って反論を言わせないのは、よくない男性ですよ」
「うわぁ。ショウタさん! ちょっとグッときました。届け私の恋心! さて、今日はさすがにアラーム鳴りませんねぇ、帰ったら格ゲーのゲルティギアしましょうよ」
そうね、鳴らないね。
格ゲー祭りにするか、でも大事な仕事があるんだよな。
そして昼頃に帰り、ピザと寿司を注文した。
アラームが鳴らない、濃い影を倒せば翌日は湧かないとかあったか。
そういう現象があって欲しい。アヤメさんに聞きたい。
みんなで格ゲーをやりながら、自分は夜の料理の仕込みを終わらせておく。
今日は、アヤメさんと話し合いがしたい。
寿司を食べながら、ワイワイから〇し合いに変化していくのが、格ゲーってもんだ。
絶対に〇す。
この気持ちが、上達へ導いてくれるんだよね。
さて、スマホでアヤメさんに連絡を入れないと。
聞きたい事なんて山ほどあるし、昨日のお礼と今後の方針を決めないといけない。
キッチンで、玉ねぎを刻みつつ連絡をこっそり入れる。
【昨日はありがとう。今日、早く帰れそうなんだ。今日ご飯でもどうだろう? 今後の話があるんだ。もちろん親御さんが心配しないように早く帰すから】
返信は、秒で来た。
【もう高校生じゃないですから! いきます!】
5億歳かもしんないけど。来週の卒業まで高校生じゃろ。
【了解、じゃ終わったら連絡するね、6時ごろになると思う。フレンチ予約取っておくよ】
【はい、待ってます】 と、エジプトのラーの目のスタンプが送られてきた。
影は学のチョイスが凄いな。ただいま人類の歴史を学習中なのだろうか。
夕方になるとリビングでは、マユミさん、ルリさん、ナツメさんがマリカーをしていた。
今日は、定時で帰る事を伝えなければ。
「今日は定時で帰りますね。カレー出来てますから、よかったら食べてください」
「ショウタくん、了解。ナツメくん、順位関係なしに、人の後ろで永遠と赤甲羅を当てるのはサイコパ〇と言われても仕方ないわね」
「勝つことより妨害が面白いゲームじゃないですか。今日はショウタさんのカレーでしたか。玉ねぎの匂いで豚汁かと思いきや。激辛スパイス置いておいてください」
ゲームに夢中で生返事が返って来た。
だが、ルリさんがこちらを見て目を細める。
「お兄さん、珍しく定時で帰るんですか?」 「はい、今日は用事があります」
「夜ご飯ですか?」 「はい?」
なんだ、おい。エスパータイプかよ。
この問い詰められてる感はなんだ。
何もしてないが。いや、してるか。影の女子高生とデートだね。
まだ、バレたら処分されるので、されないための打ち合わせだ。
「いえ、用事があって」 「そうですか」
ルリさんは、それ以上は聞かなかった。
そんなこんなで6時のチャイムがなる。
「おつかれっした~」 と、ドアを開け帰ろうとすると、舞も定時ダッシュしていたところに、はちあわせた。
「あ、ショウタさん。お疲れ様です。さすがに今日は早いですね。どうせなら送っていきましょうか?」
「いや、今日は自分の運転で車両で帰ろうかな。ちょっと急ぎたいんだ」
「なるほど? 急ぎたい用事ですか。私忘れ物したので、ちょっと戻ります。お疲れ様でしたー」
――――
さて。
公務住宅に戻って着替えてアヤメさんと連絡を取り、無人タクシーで迎えに行く。
そういう段取りを立てていたのだが。
家の前に彼女がいた。
黒瀬 アヤメさん。 玄関前でこちらを見て立っている。
まだ、家についた連絡も入れてない。
早い、早すぎる。
自分は車両から降り、彼女の前に走る。
「何をどこから、ツッコんで聞けばいいかな。いや、もうそれはいいか。まずは中へどうぞ。人類を助けて欲しいんですけど」
アヤメさんは、少しだけ笑った気がする。
ちょうど日が落ちる。その最後の赤い光が、彼女の顔半分に濃い影を落す。
その瞳は夜の星の様だった。
いつもありがとうございます。




