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13 建設的な理論より大切な事


―――――


琥珀 マユミ


―――――


不倫を許すか許さないか。

それだけで考えれば、答えは簡単だ。許される事ではないね。

何人もの友人の結婚式を見てきたけども、不倫で別れたのは2,3人いる。


教会で永遠の愛を誓い親族や友人の前で、これから家庭を築いていくと宣言する。

歴史から見る結婚の儀式とは、家庭をしっかり持つための宣言だね。

不倫で別れた場合、式に呼ばれた親族と友人は怒る権利があるわよね。『何してんのよ、その薄汚い【ピーを】今すぐ斬れ』 と、一言くらい言ってもいいかもしれないね。


そう。

私たちは、結婚はしていない。

でも命を賭した職場、そしてほとんど同棲の状態で生活をしている。

その関係で、彼は大事な隠し事をしている。

そんな彼に命を預けられるのかと思ったけども。


でも、そこは許せたのが意外にビックリしたね。

別に、少女に対し禁忌を犯したことを怒ってるわけじゃない。

3年以上、毎日生活を共にし、部下と上司の関係でやってきた。


でも、どうして言ってくれなかったんだ!

『マユミさん、話がありまして。禁忌を犯したことを許して欲しいのです』 と、一言あれば 『君を絶対に守る』 と言うから、そのまま信頼の証として私を抱きしめてくれれば全てどうでもいいことなのに!

やましいことなんてない、信頼の確認だ。


その後に少女を一生、監禁実験施設にぶち込んで、国に騒がれることは我々の権力で全て抑えればいい。

だが、ショウタくん。そんな少女の命運に情が湧いたんだな。

信頼がそんな情に負けたと思うと、嫉妬でどうかしてしまいそうだ。


でも、怒りに任せ少女を処分すると、確実にショウタくんとの関係性に亀裂が入る。

個人の問題で終わらない。と言う事は、職場が壊れる。すなわちこの都の危機、国の危機になる。


そうね、損得を考えると不倫は知らない事にすべきなの? 隠し事を突きつけると家庭が壊れてしまう。

いやいや、不倫ではない。

様子をみてショウタくんに責任を問い詰めて、あの少女を監禁するのが一番いい。

どうみても禁忌。許される事ではないね。


影で人間が復活する、もしくは憑りつかれる。人間に擬態している恐れがある。

やってくれたわよね~。黒瀬アヤメ。

監視、そして手元に置かなければならない危険物だ。


――――


ショウタくんが帰宅した。

いいところでゲームをやめて、そろそろショウタくんのカレーでも食べようか。

それぞれ気のすむままに米を盛り、その上からスパイスの香りが漂う液体をかける。


ショウタくんの得意技、半分だけ市販のルーでベースが自作のカレー。

材料を炒めた後、電気圧力鍋で自動調理だ。待つだけで9割プロの味が出ている。

いいえ、口で崩れる高いお肉を惜しみなく使っているから、比べることができないわね。

溶けるお肉からいただきます。


そう思った時だね。

扉が勢いよく開いた。


「マユミ部長!」


舞くんが大きな声を出して入って来た。

ルリくん、ナツメくん、そして私がスプーンを持ったまま 『このタイミングっ・・・!』 と思っただろうね。


「カレーなら私も食べて行きます! いえ、星が、おそらく黒瀬アヤメが動きます! ショウタさんが女子高生とまた逢瀬をしようとしています!」


カレーの誘惑が先かこの問題の処理か。戦闘部にこの話はよくないだろう。

戦闘部の気持ちのまま動かれたら、誰かが無事では済まない。問題しか起こらないわね。

黒瀬アヤメは、領域内から耐性持ち帰還者。このカバーストーリが今は大事だ。


「ショウタさんが早く帰る理由なんて、それ以外ありませんよ! 毎日、私生活のすべてを私に話してくれて、家族関係も全て熟知して管理していますから!」


それはそれでどうなのかしら。

舞くんは、男性を自由にさせるように見えて縛るタイプだったか。知らないうちに彼氏の携帯チェックをするのは良くないクセだね。


「了解だ。彼女の昨日から今日の記録を見てみよう」


私はスプーンを置いた。

黒瀬 アヤメ、指示してある彼女の行動記録は私が見られるようになっている。

町中のカメラが撮った彼女の行動を、AIが時系列に並べてくれる。

何をしているか、だいたい把握できる。


「つまり、お兄さんが女子高校生とご飯ですか?」


ルリくんの皿が空になっている。

いつの間に食べきったのか。超人的な身体能力は、カロリーを使うから仕方ない。


「ほうほう、女子高生と食事ですか。社会を経験しているショウタさんが、その後のフォローをしてないわけがないですよ。相手は、怖い社会を知らずにこれから大人になる女子高生・・・、経験豊富な男性が何もしないハズがなく、食事だけでは済まないのが明白ですねぇ」


ナツメくん、君は悪魔か。

ここにいる全員が、ショウタくんと付き合いたいなと思っているのを知っていての発言よね。

戦闘部、なんと言う化け物の集まりなのか。荒れる、間違いなく荒れる。

はい? このメンバー以外でそれはないですね。お兄さんがこの私たちの関係性を無視して、若い子にコロッと行くなってこと、許せますか?」


許される事ではないね。

彼はいつも私に 『ここまで私に気を持たせてどうする気かな?』 と、いつも思わせる。


「と言う事はですねぇ、肉体関係を持ったのがバレた瞬間・・・、あれ? 職場崩壊します? 人間関係がこじれすぎて仕事になりませんね? おおっ? もしかして私たちは薄氷の上のメンタルでお仕事してましたか? ああああああ!?」


職場崩壊するわね。

ナツメくんが真実にたどり着いた。


「あああああああ! 手を出すなら、私も手を出します! 許せませんね~。今日は帰ります。 お疲れ様でした~」


呼び止める間もなく、ルリくんは出ていった。

元凶は、黒瀬アヤメさんだけど、なんだかナツメくんを問い詰めないといけない気がするね。


「ルリさんの趣味、ショウタさんですしね。あ、ナツメさん。後で、ちょっといいですか」


「舞先輩、私、煽ってません。客観的事実を言ったまでですよぉ」


さて、少女アヤメの行動記録を確認してみましょうか。


―――――


白羽 ショウタ


―――――


政府の公務住宅は安全性が高いはずだが、よく考えると住所バレするよね。

彼女を迎えに行く手間が省けたと考えよう。


迎えに行く約束のハズが、家の前に黒瀬 アヤメさんが立っていた。

夕日の赤い光が、彼女の顔半分に影を落としている。


う~ん、なぜここにいるのか。深くは聞かない、こちらからする相談事がありすぎる。

急に敵が強くなったので、我々人類はどうしたらいいのか。

個室のフレンチの予約はしてあるが、まずは家に上げるべきなのだろう。


「アヤメさん、人類を助けて欲しいのですが」 「ショウタさんが望むなら」


彼女は少しだけ笑った。

とってもええ5億歳の子だ。育ちがいい。将来の成功にいくらでも手助けをしてやらなければ。

実績を積んでくれれば、絶対に君を助ける事ができる。自分の存在を賭けて政府に立ち向かおう。


そして、そのまま彼女は自分の家のドアを開け、誘う。


ガチャリ。 「ショウタさんに頼られると、嬉しいと感じます。まずは、入ってください」


「あ~、ごめん。ごめん。違くない? 人の家を君が開けるのは違くないかな? 鍵は? 待ってどうして、そもそも家の場所はどうやって、そしてどうやってきたの。そもそも、オートロックってイヤなんだよね。影対策府が好きに入れるからさ。でも、アヤメさんがどうやって開けてるのさ」


「私が覚えてました。そしてこの形がショウタさんの家の鍵です」


アヤメさんの指へ、影が集まる。

黒い水が形を変え、小さな鍵となった。


「ふぁあああああああああ! なんでもできるねぇ?! えらいでちゅねぇ!? やっぱり影と半分は危ないわ。何してんの。学習するんだろう。人間社会の常識ぐらい学んで? おまえやっぱり人類の敵対者か? いや、アヤメさんに怒っているわけじゃないからね。ごめんごめん。影が悪いの、影が」


「ショウタさん、ごめんなさい。次からチャイムを鳴らします」 「う~ん!? 何から話すか。頭がおかしくなりそうだ。今日のフレンチを食べるだけでも大冒険な気がするよ。まずは入って」


――――


リビングのソファーに座らせ、お茶を出す。

仕事着を脱ぎ、白いシャツとジャケットを着直した。

ビジネスと私服の中間あたりが清潔感を出すのだ。まぁ、無難よな。


アヤメさんも社長令嬢だけあり、フレンチの経験があるのか。

クリーム色のワンピースに、黒のショートジャケット。髪には小さな銀色の髪飾り。

きちんと大人びて見えるように選んだのがわかる。

アヤメさん本人の方が頑張ったのだろう。


ああ、彼女を褒めるのを忘れていた。

男ってのは、そういう所は無頓着でなんとなく可愛いで済ます生き物だからな。

リビングに戻ると、彼女はテーブルに座っていた。


「素敵な服装ですね、似合ってますよ。人類の正装を理解して頂いているようで何よりです」


「ありがとうございます。もう1人の私が人類の正装をプッシュしてくるので全力で阻止しました」


影が考える人類の正装とは、一体どんなのだろうか。

アメリカの女優さんがレッドカーペットで着る、ほぼ紐みたいな服の事かな。


「変ですか・・・?」 「いえ、似合ってます。すごく」


自分は、向かい席に座った。

フレンチの予約時間まで、まだ少しある。

だが、聞きたいことは山ほどあった。

でもね、身体が覚えている。仕事の話なんて5分から10分で結論を話し、後の10分は世間話とかを話すのが一番いい感じで関係性を作れる。

そういうのが嫌いな人もいるけどね。

まぁ、始めようか。


「昨日はありがとうございました。まさか影の領域に干渉する能力があるなんて。アヤメさんが人類に味方して頂いて何よりです。そんな素敵な能力があるなら、必ずいけます。自分は全力であなたの人権を確保するように努めます」


頭を下げた。

身バレするリスクを上手く回避してくれて、彼女は人類側についてくれたのだ。


「ありがとうございます。ショウタさんのため、そして私の幸せのため、動かなければと思いました」


そう言ったか、彼女は手を出してきた。


「手を握ってもらってもいいですか」


よくやってくれた、握ってやるわい。

その手を握ると、少し冷たい。

彼女の指に力が入ったように感じる。


「これからも人類のため協力して頂けるなら。影対策府で自由に働けるように全力でサポートしますのでよろしくお願いします。もし、次も弱体化を図って頂けるなら自分の存在をかけて上に訴えます。影対策府で働くことになってしまいますが。自由を得る事ができると思いますよ」


「はい。ショウタさんが、そう言ってくれるなら」


「で、人類はどうしたらいいんでしょうか。影は強くなるんですか? 人類はどうしょうも【ピーッ!】」


おっと、ピーッと無人タクシーが来た合図が携帯に鳴る。


「ああ、長くなりそうですね。続きは、食べながらでも。そろそろ行きましょう」


「はい」


アヤメさんは頷いた。

手を握ったまま。


――――


無人タクシーを降り、アヤメさん側のドアを開けて手を差し出した。

彼女は嬉しそうに、そして貪欲にガシッと手を握ってきた。


それでは、いけませんね。レディ台無しです。


「エスコート、最高だと思うのです。日本文化で接触は良くないことになってますよね。日本はもう少し、接触しないから少子化が進み・・・、アッ」 めんどくさいので、グイッと引っ張る。


はよ入ろうか。


そして、店の入口で見知った顔と目があった。

紫のドレス姿のルリさんだわ。


何してるの? と、思うより 『どうしてここに!』 が先だった。


ドレスアップしたルリさんがこちらへ歩いてくる。

ツカツカツカツカとね。姿勢が良い、磨かれた肉体はスタイルに繋がっている。

あと怖い、目がイッちゃってる時の目だ。戦闘の時の目を日常でする必要があるのか。

常に一緒にいる、彼女の事はよく知っている。


でも、いったい何しにここへ? ご飯は用意してきたし、そもそもご飯を食べたいならこういうアプローチはしてこない。

「フレンチ食べたいな~」 と 「はい」 と言うまで抱き着いて拘束してくるはずだ。


何もやましいことはしていない、していない。

なのに、詰められている気がする。


まさか処分しにきたか? いや、違う。わざわざドレスアップする必要がない。

自分はアヤメさんをかばうように前へ出た。


「ルリさん、違うんだ。彼女とは友人だ。今後のことで話があるから食事をしながら話でもしようと思ってたんだ。ほら、影対策府に勤めてもらった方が、みんな助かるでしょう」


なんか、浮気男が言い訳するセリフみたいだね。

口に出てしまった。


ルリさんは、その紫の瞳で自分と背後のアヤメさんを見比べる。

値踏みするような視線だ。女性がファーストコンタクトでよくするのを知っている。

圧がすげぇ。なんか謝ってしまいそうだ。


「あ、あの。もしかしてショウタさんとお付き合いしている方だったりしますか。す、すみません」


その言葉でルリさんは頷き、目に光が戻る。

いくぶんか、納得したようにも見えた。


いや、付き合ってないよ。


「お兄さん、ご一緒してもいいですよね?」


彼女はニッコリと笑う。目は笑ってないけどね。


「どういうことか話してもらわないといけません」


「どういうことって、何がですかね。いえ、はい。ご一緒しましょう」


これは、込み入った話ができねーな。

せっかくの人類のためのフレンチレストランだったのに。

どうせ、予約人数は増えているのだろう。


もう、ルリさんに話すか? 危ないかな。

【邪悪な影、〇さなきゃ】 と、直情的に処分しにくるかな。


もう少し、小出しにしながらやっていこうか。

でも、敵が手に余り出している。彼女に助けてもらうしかないんだよ。





いつもありがとうございます。


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