14 黒瀬 アヤメ
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黒瀬 アヤメ
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「ルリさん、違うんだ。彼女とは友人だ」
ショウタさんが、私をかばうように前へ出てくれた。
その言葉に胸が少し疼く。
友人と言ってくれたけど、私には恩人だ。
私は人を超える力を得たと言うのに、この人の背中を見ているだけで安心してしまう。
『昨日見た、ドラマの浮気男のセリフだナ』
もう1人の私が、脳内で呟く。
『次のシーンは修羅場になって、サクッと刺されてしまうのか。
アヤメ、思い人現るダ。ど、どど、どうしよう。ショウタの家の中では女性と同棲したり、付き合っている証拠は何ひとつ出てこなかったのニ』
どどど、どうしよう。私のドラマ視聴時間を減らさないと。
私に完全に悪影響を与えていると思うの。私の影の部分が彼の家を漁ってしまった。
私の感覚がギャラクシーで宇宙基準になっている。謎の本能が抑えきれない。
でもこれはたぶん、仲のいい女友達と思っている男子との距離だ。思い人のリアクションとは少し違う。
・・・違うと思いたい。思春期の観察眼は、正しいと思うの。
「ご一緒してもいいですよね?」 「ええ、はい」
私は、この人を知っている。
この前お会いしている。ショウタさんの仕事仲間で、影対策府の最強切り札 【紫剣のルリ】 さんだ。
1人であの影領域を制圧する人。
そしてネットにも彼女のファンが多く写真やファンアートがゴロゴロ転がっている。めちゃくちゃ美人でスタイルが良く、インタビューではどこか退屈しているような、そんな印象を受けた。
つまり、私の天敵だと思うの。
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案内された個室はとても静かで、白いクロス、透明なグラス、何本も用意されたフォーク。
私は、姿勢を正す。
大丈夫だ、社長の娘としてこういう場には何度も連れてこられた。
もしもの場合、マナー関係は宇宙AIの私がいるし完璧だ。
『フォークは、並べられた外側から使う。パスタ受けはスプーンでまとめるんだ。それと、今日はもう時間が無いぞ、代わるか?』
いや、まだ私が出る。
対影の人の前で、もう1人の私がでるのは危険な感じがする。
『フィンガーボールない。どうやって手を洗えばいいんダ。肉料理は手で食べた方がおいしい』
中世のテーブルマナー? 歴史に詳しすぎるよ。
もう手を使う時代じゃない、バナナですらナイフとフォークで食べるのがマナーだよ、手洗いはそこに湿ったおしぼりがあるでしょ。
『湿った布、理解した。だが、アヤメ。蛮族差別主義にも程があるぞ、道具を使うから時代にあった文明人だと? 手の方が効率的だ。そもそも人類という存在は・・・』
脳内で騒いでいる私を放っておいて、食事が始まる。
さっそく2人はワインを頼んだが、私は未成年と言うことでお水をもらった。
前菜が出てくる。
私の所作を完璧に、人間らしく振る舞う。
じっとショウタさんを見ると一本のフォークを使っている。
前菜も、魚も。
思わず 「フォークは、端から使うのがマナーみたいです」 と、言ってしまった。
「ええ、わかってはいるんですけど、どうも豪奢に振る舞うことが気恥ずかしくて。今日はこの1本で行きたいと思います」
『ショウタ、素敵ダ。アヤメの感情で言う所の尊いダ』
尊いのは、わかるけど。大人の男性と言うのはそういうものなのかな。
反対側のルリさんを見ると、普通に気品あふれて食べていた。
雰囲気に危険な魅力がある。
でも、やっぱり、普通ではないかもしれない。
貝の殻ごとサクッとフォークで刺して持ち上げ、中身をちゅるりと食べている。
絶対に強い。私たちでは勝てなさそうだ。
そして、入って来たウエイターの人に 「タコをワサビで和えたものを・・・」 とオーダーをしていた。
話は、本題に入っていく。
「で、ルリさん。わざわざって言ったら怒ります? わざわざドレスアップして来るとは。あ、でも似合ってますよ。この前の政府の会食の時のやつですね。ネットでポチる前に見せられたやつだわ。後、貝の殻ごとスパッといくのは、謎のギャップがあっていいですよね」
「ありがとうございます」
ルリさんは機嫌が良くなったように見えた。
ショウタさんがすぐに話を繋ぐ。
「で、あの会議どうでしたか」 「お兄さんがいないので退屈してましたね~」
インタビューの時と声が甘く、別人だ。
一体これは・・・?
「で、今日のコレは司令部がカメラを見たの? それともルリさんが司令部を脅したのかい?」
「舞さんが、絶対にコレと言うことでした。女子高生に手を出すかもしれないからですね」
「あ~、舞さんか」 ショウタさんが上を向いてライトを見つめながら言葉を続けた。
「なら、アヤメさん。安心だ。彼女は信用できる。ルリさんは仕事で信頼しているパートナーみたいなものだから」
笑顔だ。ルリさんの危険な感じがなくなり、笑顔を見せている。
でも少しだけ心が重くなった。この人は、いつもショウタさんの近くにいる人なんだ。
あの影領域の中の信頼できる仲間で私より、過ごした時間がずっと長いのだろう。
私は、影のことでしかショウタさんに頼ってもらえないのだろうか。
『アヤメ、大丈夫だ。それが強みダ。影のことでしかではない。影のことで秘密を持っているのダ。これからも2人で秘密をもてばいいじゃないカ!』
私の前向きなメンタルケアがすごいね。私の少女漫画のセリフだよね。
そして、ショウタさんがこちらをチラリと見た。
「で、ルリさん。大事な話があるんだけど、いいかな。助けて欲しいんだけど」
「はい。もちろん助けますが、〇しの依頼はダメです」 「誰を〇してと、言うと思ったんだい? そこは興味がある」
秘密を打ち明けられる関係性か。
いいなぁ~。私は親にも打ち明けられないと言うのにね。
「アヤメさん、少しだけ話してもいいかな。彼女なら信頼できる。味方についてもらいたいんだ」
「はい、ショウタさんがそう思われるなら。でも私から言います」
ここからは私がやらなければならない。
もう子供じゃないんだ、私がやらないといけない。
でも、全部は話したくない。ショウタさんとの秘密がある。
私はルリさんに向き直る。
私の有用性を話せばいい。不思議と恐怖の感覚がなくなっていた。
チラリとショウタさんを見ると手を前で握っていて、ハラハラしているのが丸わかりだ。
「私の中に、影があります」
ルリさんの持っていたフォークが高速で回転する。「ルリさんマナーとかご存じ? テーブルは食べ物じゃないよ」
と、言われるとピタッと止まった。
怖いことなんてない。今、私は何かのプライドを賭けていると思うの。
「昨日、私は影領域に干渉しました。もう1人の私が、相手の影を薄めるように動いてくれました」
「えぇ~? あっ! あれ、あなたなの? ショウタさん、その能力すごくないですか」
「はい、私は影領域に干渉できて影の能力を半減できます。昨日はできました」
数秒間だけ、訪れる沈黙。
ショウタさんは、私の目とルリさんの目を交互に見ている。
『アヤメ、いいぞ。さっきの貝の様にサクッと刺されることはなさそうだダ』
怖い怖い。生々しいと思うの。
「お~? 攻撃以外の覚醒は珍しいですね。相反する人類の力でしたか~? 影の力もあるって事ですか。人類初ですね」
危なく光るフォークがテーブルに置かれ、ルリさんは腕を組んで頷いた。
「私も能力が覚醒した時を思い出しますね。被弾した時、悔しくて恥ずかしくて。ショウタさんの腕の中で、いきなり紫剣を出した時の 『うおっ!? 危ねぇ!?』 『きゃああ!? サクッといっちゃう!?』 と、2人の反応が今でも思い出して笑えます」
反応が軽いっ! 「影の力、〇さなきゃ」 と言われるかと思った。
「ちょっと、覚醒の仕方が人類初の影よりで引っかかるかもなんだけど、これなら対策府就職ができると思うんだ。ルリさんお願い、邪魔されないように味方になってくれないかな」
「はい。私はいつも味方です」 「助かる」
ショウタさんは、何度も頷いた。
これなら有用性を示していけば、ばれても処分されることはなさそう。
私は人間ですし。
でも、肝心な所でウソをついた。
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食事も終わり、帰宅する手前。
「ルリさん、ちょっとこの後、家に寄ってくれるかな」
「はい? はい。は~い・・・」
瞬時に空間を巻き込む謎の 【よっしゃ!】 のポーズ。
ルリさんの表情がパッと明るい。
「よっしゃああああ!」
「よっしゃあああああ! って何? ああ! あ~、そういうこと。いや、何度もそう思ったけど、職場の関係性を考えると手を出せなくない? そこまでやっちゃうともう、ぐちゃぐちゃになりそう。明日、〇ぬかもしれない職場で慰め、慰められるたびに関係性を持つってことじゃん? 絶対、長く続かずに崩壊すると思うんだ」
うわっ。超ノンデリ発言だ。
デリカシーの通知はお気持ちを表明する前に3秒だけ迷うことだと思うの。
ジェネレーションギャップだ。
でも、何かドキッとする。そういう関係もいい気がする。
「みんなに手を出せばいいじゃないですか! だって・・・いつもそうじゃないですか!」
「そうですよ! ルリさんの言う通りだと思います!」
思わず言ってしまった。
ショウタさんとルリさんが、同時にこちらを見る。
私も驚いた。
今のは、私が言ったのだろうか。いや、言わされた。 【言ってないナ】 うるさい。
もしもショウタさんに彼女がいた場合、そうなってもらわないと困る。
1人だけのものになってしまったら、私はもう近くにいられないかもしれない。
1人だけのものになってしまったら、私は、私は、ただ、ただ・・・。
生かされ損だ。
禁忌を犯してまで助けてもらったのに、ただ一つの望みすら願わないなら。
なんて世界は酷い形なの。
「ほら、ルリさん。女子高生のアヤメさんが見てるしやめよう。どうだろう。つまり1人に縛られなくてオッケーって話じゃん? 浮気や不倫の話でしょ。モラル的によくなくない?」
「グヌヌヌ!」
ルリさんが本当に悔しそうな声を出した。
私は少しだけ笑いそうになる。
「人類史ですと、富と力があるものがより多くの妻を持ちます。世界規模で見ると人の本能と大きく違わないと思います。この倫理観は海外で暮らせばいいだけの話ですよね」
「!? 最近の女子高生は、道徳が進んでますね~。ショウタさん、そう言うことです」
「今の若い子たちはAIにより進んだ知識を持っても、行きつく先は倫理観の破壊とは、自分は悲しいです」
あれ、私、そろそろ時間切れかも。
代わらないといけない。
「アヤメさん、安心して。ちょっと打ち合わせがあるだけなんだ」
ショウタさんが、私に向き直る。
「絶対に君を救う」
私は、ただ頷いた。
本当は、何も分かっていない。影のことも。人類のことも。
ショウタさんの周りにいる人たちのことも。
でも、ひとつだけ分かる。
私は、もう待っているだけではいけない。
怖くても前に進まないと。
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白羽 ショウタ
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アヤメさんをタクシーに乗せて帰宅させた。
そして、ルリさんと2人で公務住宅に戻った。
彼女をソファーに座らせると、黒を基調としたドレスが官能的に見えて仕方がない。
雰囲気的にギリギリのラインだ。酔いが足りない。
飲み過ぎれば本能が紛れる。
「せっかくだから、最後にもう一杯どう?」 と、高いウィスキーのふたをポンッと開ける。
高いウィスキーは、超甘く感じる日がある。体がアルコールを毒物と認識しないのだ。
「ありがとうございます。でも、今日はお酒はもう大丈夫です。ちょうどよく楽しいラインですから。で、お兄さん。大事な話って何ですか?」
あれ? 疑問を投げかけているのに紫の目が期待に満ちている。
いや、ないってないない。ない。
頼むぞ、理性。それかアルコールに頼むか。
ロックアイスに少しだけ琥珀色の液体を注ぎ、隣に座った。
一口含んで、本題に入る。
「もしも、自分が人を殺したらルリさんはどう思います?」 「相手によるんじゃないですかね~」
そうね。敵兵を沢山〇せば英雄だった。
そうじゃなくて。
「シーンで言うと、あれです。無詠唱でファイヤーボールを撃つと褒められるク〇みたいな 『なってみよう小説』 を書いているようなク〇な感じで、道端や戦争とかで子供が倒れていたら助けますよね? なにせ、当人は助けられる力と金がありますし」
「はい、そうですね~。助けますね」
「でも、余計な事を! とか、怒られたりしますよね。もしかしたら、危険な存在かもしれないし。で、そんなことがあり、その子を助けたなら、次に大人は何をしますかね」
「助け続けるんじゃないですか? お兄さんは、そうしますね。逆にポイッてします? 私たちポイッとされたことないですけど。困ったことに命の危険を感じても人を優先しますね」
・・・おう。回答がでたな。
今日は助けられた。与えて欲しい性格のくせにやるやん。
小娘に言われてばかりでは、なんか悔しい。
「ふぅ~ん? 理想の大人であり続けろって? 中々、ひどいこというじゃん」
ウィスキーを一気に飲み干し、床に置いた。
ルリさんの手をグイッと引く。
ずーっと一緒にいるからか、その紫の瞳は驚きより、期待に満ちているのがわかる。
「ずーっと、こんな関係性でさ。みんなで不安と恐怖を上書きするかのように、お互いドキドキで心の隙間を埋めながら、みんな辛抱強くない? 戸惑ったら、誰か〇んじゃう職場だよ」
「私は待ってます。だから押し倒してくれていいですよ」
彼女をそのまま、腕に収める。
そのアゴの下に指を入れ、クィッと持ち上げる。
「残念ながら、人生の6割が仕事だそうですよ。残りはたったの4割。仕事の方が人生みたいなものです。そう考えるとどうしても先に進めないことがあるんです。そういう言い訳ですね。許して欲しい、君が欲しくないわけじゃなく、あなたが大切だからこそです」
息が止まっている。じーっと目を見つめられている。
それから、最高に満足そうな顔をした。
「今日は、十分です」 「そうね、ルリさんに押し倒されて抵抗したら、自分は血袋になってしまうしね」
すっと、彼女は立ち上がると 「明日も頑張ります」 とだけ、残して玄関へ向かっていった。
さてと明日から影領域に入らないと。
アカネさんが治るまで偵察と、アヤメさんと一緒に影領域に入り弱体の力がどんなもんか確認しないとな。
ようやく、マユミさんに謝れそうだ。
いつもありがとうございます。




