7 共犯者たち
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「お邪魔します」 「お邪魔するぜ」
うん。本当に邪魔だよね。
玄関を突破された。
彼女たちを止めることは、すべての国民の利を減らすに等しい。
個々の権利より、彼女たちが優先される。
誰が日々広がりゆく影を処理していると思っているのか、という思いと実績で職権乱用する無法者である。
もしも影の存在がバレたらこの2人か、もう1人の戦闘部がアヤメの首を狩りに来るのだろうか。
「「パパ活現場はここですか」」
「ソレ言われると思ったわ。現場状況だけ見るとそう見えるよなぁ。ねぇ、合意があって援助したら男がわるいの? ねぇ、援助された方が悪いよね? ねぇ、男女平等なんでしょ? 一方的に男性が悪いとかおかしいよね?」
彼女たちは、一瞬だけ足を止めるも無言でリビングに突撃してきた。
大丈夫だよな、アヤメさんは切り抜けれる。
アヤメさんはクッションの上で正座していた。
「あ、あの・・・、すみません。勝手に来てしまって」
顔を青くしながら頭を下げた。
完璧な女子高生で品が感じられるセリフだ。
「あ~! 報告で見た。昨日の少女ね。そういうことですか~」
「そういうことか」
何が? どう見てもパパ活現場じゃん。
そういうことかってどういうこと? 女子高生を家に連れ込む理由ってそれ以外あんの?
「ねぇ、影耐性者なんでしょ?」
ルリさんの顔が妙に優しく見える。相変わらず瞳に光は無いが。
「すべてが終わると思った時、お兄さんに助けられ囁きかけられたんですね? わかります。脳が焼けましたね? ですが、私が先です」
「そういうことか! パパ活かと思ったな。わかる、脳が焼けるよな。主要成分が油だってことがよく分かる。救われた瞬間、ジュウウウウと音がするんだよな。ルリ、私が先だぞ」
ストックホルム症候群とか吊り橋効果とか名前が付くんだっけか。
恐怖と暴力の後、優しくされると依存するアレだ。
「めちゃくちゃ不純じゃない? もっと良い恋見つけたら? この仕事してたら、職場恋愛は無理でしょ」
「いや~、これ以上を見つけるのが難しくて」 「ない。と言い切れる。他に経験もないぜ」
青春、終わっとるな。
「あの、えっと? その私は・・・」
ああ、そうだった。
アヤメさんという鶴がですね。助けられた恩返しに来たんですよ。
なぜ知り合いなのか、打ち合わせ通りお願いします。
「昨日、助けて頂いて、その、ちゃんとお礼を言いたくて。病院ではうまく話せなかったので、どうしても直接お礼を言いたくて、身体が動いていました」
よーしよしよし、いい子だ。
影が言ってると思うと、人類は影に知性で敗北する日が近い。
命の恩人に会いに来た女子高生だ、完璧じゃないか。
「なるほど、お兄さんに助けられたらそうなりますね」
「わかるぜ、わかる。だが男の家にこんな時間に来るのは、よくないな」 「!! 本当にその通りです。お兄さんは信用できますが、世間は信用できません!?」
どういうことよ。
まぁ、収まったな。無事帰宅してもらいましょう。
2人と2ハーフにね。
「さてと。信用してもらえて何よりですわ。で、何しに来たの?」
2人がバツの悪そうな顔をして見合わせている。
「歓迎はするけども、これ、報告するよ? 職権乱用してカメラ乱用しましたね? たぶんね、押しかけられてれーぷされそうになったと、司令部に言えば通るよ? いや、よいよい。よく来てくれた。今日は話したいことがあるんだ、夜も遅いし泊まっていこうか」
自分は笑顔で話を続ける。
詰めれる時に詰めるぞ。こんなチャンスは中々ない。
「君たちを止める事は出来ないかもしれないが、もう少し品格を持って欲しいな。日本の守護者としてさ、未成年の女子の前に酒気帯びで押しかけて暴行を加えようとしたわけだ」
2人は同時に1歩下がる。
「「大変お邪魔致しました!」」
風の様に消えた瞬間、ドアがバタンと閉まる。
やっと静かになった。
「なんだったんですか、今のは。どちらの方もニュースで見たことがあります」
「あれが、日本の守護者です。はい、あれが日本を守っている筆頭です。終わってますね。
でも、社会の枠を飛び出るのは職業病なんですよ。影の中で働く人たちってのはねどうしても、メンタルがやられる。そこを理解しないと大変なことになるんですね」
『アレに負けたのカ。我々はか弱いな』 「よく言うわ」
お前たちのせいで、こうなっているんだぞ。
明日にでも、おまえたちについて詳しく聞くからな。
まぁ、でも今日は帰ってくれ。
「さぁ、今日は帰ってくれ。送ろうか?」
「お願いします。家までお願いしまス。不安なので隣に座って手を握ってください」
う~ん。アヤメさんの声だが。
今日ぐらいそこまで面倒をみるとしようか。
「わかった、送るよ」
そういうと、ほっとした様にアヤメさんが息を吐いた。
間違いなく、彼女のものだ。
問題は片付けていく。仕事と一緒よ。
徐々に、日常を取り戻していくぞ。
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黒瀬 アヤメ
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自動運転のタクシーの中は、とても静かだ。
高鳴る胸の鼓動を押さえるために窓の外を眺めると、星だけが瞬いている。
隣にはショウタさんが座っていて、私たちの望み通りに手を握ってもらっている。
でも、冷静に考えるとかなり恥ずかしい。めっちゃハズい。
もう高校を卒業する。子供ではない、もう少しで大人になる。
それなのに夜のタクシーで、恩人の男の人に手を握ってもらっている。
何をやっているのか、私は本当に私なのか。
やばいほどに、めっちゃ安心する。
先ほどの守護者たちは脳が焼けると言っていたけど、グツグツと煮えているのがわかる。
『アヤメ、意識を代わって欲しい。私たちは一心同体。十分だが、そこを代わって欲しい。もう今日の意識は家に帰ったらなくなるゾ。両親の話し相手は私がすることになる、いいのカ』
「うるさい。このぬくもり効果、絶対に君の何かだよね。普通こうならないと思うの。超アガ↑ってるよ」
家に帰ったら、お父さんとお母さんがいる。
ショウタさんは、私をアヤメと言っていた。外から見る私は、私なのだろう。
大丈夫のはずだ。
「うん、大丈夫? 何か言った?」
勝手に口が動いた。
『ショウタの分かるように言うと、陰子は陽子と繋がって安定体となる。陰極に存在する私が触れている状態こそ完璧な形だ』
「う~ん、大丈夫な方かな」 「全然、わかりません。ダメだと思います」
そして、ショウタさんの手が少し強く握られた。
この状況と裏腹に、すべての見える物が輝いて、瞬いて・・・。
「で、色々と考えたんだけどさ。明日からより良い方法を考えよう。大丈夫、アヤメさんは人だよ」
その言葉に胸が詰まる。
「影領域を展開して地上に地獄を顕現するわけでもないし、地面から影槍の山を築くわけでもないし。ブロックを砕き、自分をひき肉にしてくるわけでもない。自称、真理の門がくっついているだけで、アヤメさんはただ助かっただけだ」
「ただ、助かっただけ・・・」
「そうそう、ついてるオプションが最悪なだけで命が助かった。そこから考えましょう。徐々に何かしらうまくいく方法を探す。即処分されないぐらいに、話を聞いてもらえるように進めて行こう」
どうして。
どうして、そこまでいってくれるんですか。
他人の私を切り捨てれば、ショウタさんに迷惑がかかることもないのに。
そう聞きたかった。
でもその答えがやさしさではなかったら。今輝いて見える世界は、消えてしまうのだろうか。
怖くて聞けるわけがない。
『考えるに、ショウタにも社会的不利益がある。彼は影対策府の人間ダ。社会的立場も高イ。その中で、ワタシがアヤメに宿っていることは禁忌なのだろウ。捨てない理由は、善意だけではない』
と、脳内でAIチャピーより優秀な回答が脳に直接ながれてくる。
もう一人の私が言うことが正しいのかもしれないけど、今その回答は求めているわけではないのを気づいて?
私は、手を握る力を少しだけ強めた。
「ありがとうございます。でもショウタさん、私、でも怖いです」 「でしょうね~。明日から慣れるまでやっていきましょう」
「はい」
この時、私は救われた気がした。
でも、これが現実だといやほど気づかされるセリフがすぐ投げかけられる。
「で、お前たち影ってなんなの?」
冷たい視線に胸が痛む。
先ほどまで、全てを与えてくれた存在では無くなっていた。
思わずデリカシーという言葉が出そうになった。
「毎回、喋るタイプに真理の門とか言われて、そのまま消されるのがオチなんだけど。なんなの?」
あまりの辛さに耐えかねて、私の意識が入れ替わった。
「陰宇宙の存在です。この次元は入れ子状態のハート形の宇宙で、陰と陽が重なる場所が私たち影として現れるのです」
「ゴメン、格ゲーの陰陽師しかやったことないから。陰陽とかわかりません。もう少しわかりやすくお願いできますか」
「はい。ショウタさんの言葉で近いものをさすなら、階層が違えども宇宙が重なり合う部分で影として現れます。宇宙が重なった場合、観測者がいると私たち影が確定してしまいます。影として出た以上、観測者を消さなければならない・・・、いえ、消さなくていいです。いま、この状態が正しい形です」
「なるほど? ぜんぜんわからん。で、影を出さなくするにはなんとかならんのか? 偉い人が色々やっているけどダメっぽいんだわ」
「観測する人がいなくなれば、出なくなりますネ」
「そうなんだ。どうしょうもないね。あ、人の居ないとこには出現しないんだったな。でも、どうしょうもないか」
『ショウタさん、軽く人類詰んでません?』
人がいる限り、影が出るってことかな?
宇宙に人はいらなかったって、エモくないと思うの。
「そのぶん、抗う力に目覚める観測者が出てくる。まぁ、せいぜい頑張りたまエ・・・」
私の言い方が煽っていて品がない! 私の命の源の影にイラっとする!
「どうしたもんかな、この邪悪な影。どうしたら祓えるのか」
イラッとしたショウタさんが両手で私の腕を掴んできた。
ちょ、ちょっとあたらないで、私だけど私じゃない!
・・・ううん、もっと掴んで。ああああああああああああああ!
あ~~~、いけません、いけません。いけませ~ん。強く掴んではいけません!
女子高生にそんな行動はいけません。社会的問題です。あ~~!! 最高です!
脳内はブラックフライデー。花火が上がっている。そして私が学習している。
『煽ろう』 と、この男を煽り。また、掴んでもらう事こそが命題だと思っている。
自動音声が到着を告げる。
脳内がお祭り中なのに、タクシーが家へ着いてしまった。
ドアの外には現実が待っている。
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白羽 ショウタ
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翌朝。
いつも通り朝起きて支援部につくと、すでにマユミさんがデスクに座っていた。
黄色い髪は綺麗に整えられ、薄いお化粧も済んでいる。
「おはようございます。今日は早いですね。今、朝食を準備しますね。ベーコン強めに焼き入れます」
デスクの上で指を組み、こちらを見ている。
表情はとても晴れやかでいつも通りお美しい。
まさに先進女性の鏡だ。品性とは余裕ある振る舞いのことかもしれないな。
「ああ、ありがとう。そうだね、お願いするわ」
キッチンに立ち、卵とベーコンを取り出す。すると、あまりキッチンに立たないマユミさんがスーッと寄ってきた。
琥珀色の瞳が、こちらを目を覗き込んでくる。
朝が早いからお腹が空いているのだろうか。
「目玉焼き2つでいいですよね。後、玉ねぎをぶちこんだチーズ入りのホットサンドにしますね」
「今日は軽めの1つで大丈夫よ。この後、食べたら少し同行してほしくてね」
「おや、現場ですか」 「現場ではないかな、今日は私についてきてくれないか。行くところがあるんだ」
上司の頼み事は、ハイかイエスか、承知致しました。
営業はそういうふうに体ができている。
「承知いたしました」 「例の影耐性の少女、黒瀬アヤメさんともう一度ゆっくりと話したくてね。影の活動時間に入る前に、彼女の家と学校を回ろう」
思わず、卵の投入がズレてしまい、じゅううううううううと油が跳ねた。
うなじもチリチリする。この感覚は影に補足されている時にチリチリする信号に似ている。
「おや、どうしたんだい。シャツの袖に油が跳ねてしまったじゃないか。拭かないと大変なことになるわよ」
自分が台拭きを取るより早く、マユミさんが背後から身を寄せるように、台拭きで自分の袖を押さえてくれた。
「少しこのままの方がいいな」
密着の距離、大人の女性の体温を感じる。
だが。なんだろう、チリチリする。
こんな風情ある共同生活の料理風景のハズなのに、影に狙われている時のような危険信号が鳴りやまない。
大丈夫だ。落ち着け。
アヤメさんの事はバレる事はないし、今更言える訳もない。大惨事になる。
何より話せば、上司の大恩あるマユミさんに迷惑がかかってしまう。
誰も知らなければ、平和を守り抜くことができるはずだ
マユミさんの体温を感じながら、油が跳ねる音だけが鳴った。
そして、何事も無かったように少し離れた。
「舞くんにも連絡してある。一緒なら、有事の際も大丈夫だね。対策府としても確保しない理由がない。今後学校への段取りと検査を早めに通しておく必要があるのよ」
こういうケースか。当然だよな、影領域からの帰還者。耐性者に間違いないもんな。
困った事にアヤメさんと打ち合わせが足りない。今日も仕事終わったらどっかで連絡しなければ。
「承知致しました。すぐに用意致します」
「ありがとう」
マユミさんの方を向き直ると彼女は笑顔で微笑んでいた。
その笑顔を見ると少し安心した。
彼女は人と接する時の表情を知っている。
自分の民間営業よりも、エリート官僚と言うサバイバルを生き抜いてきている方だ。
身のこなしを見ると、洗練されているもんね。
さて、どう立ち回るか。
いつもありがとうございます。




