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4 影という存在



「ショウタ、会いたかったゾ」


アヤメの黒い瞳と顔半分を覆う影が、自分を覗き込んでいた。

禁忌を犯した結果が、胸をしめつける。


「やってくれたよなぁ。

この状況が、法を超越した罪ってやつはわかるんだわ。どう考えても、おまえは処分だな。

自分は、甘く見ても二度と外には出されないだろうな。条件を満たすと、影が人間を乗っ取るんだぜ? 学会で発表後世界はパニックになる。もうおしまいだよ」


そして自分は処罰。確実に処罰。自分だったら、キメラを作ったやつを吊るすと思う。

銅の錬金術師の話も禁忌には厳しい結末が待っていたんじゃい。


あ~、やめるには惜しい職場だったな。

365日働く代わりに、自由と飽きない生活があった気がする。王様みたいなものだったなぁ。

これから楽しい監禁生活かな。こうなる前に海外逃亡用のクルーザーでも買っておくべきだった。


「安心して欲しい。アヤメの脳で学習した。君の社会的立場を脅かしたくない。ワタシたちも処分されたくない。

ワタシは人類の敵なのだろう? でも、まだ何もしてなイ。どちらかと言えば少女を救った良い影ダ」


「いや、オマエが出現しなかったらこうはなってないよね? ぜんぜん良くない。マッチポンプで良い事をしているように見えているだけでしょうよ」


「ワタシがいなければアヤメは〇ぬ。アヤメがいなければ私は消える。と言うことはダ、ショウタは2人の命を救ったことになる。なので、半分のアヤメと一緒にまっとうな生活を送りたいと思っていル」


影がニヤリと笑って気がする。

こいつ、弁が立つな。人間心理の学習スピードが早すぎんか。


「あっ、あの。禁忌を犯したんです。あなたも人類の敵に決まってます。ねっ、秘密の方がいいと思います。ショウタさんも生活があるし、今まで培ってきた信用とか実績があるのではありませんか?」


「うん? アヤメさん? いや影か?」 


「私、絶対処分されますもん。禁忌中の禁忌です。生きていて良い存在じゃないって。感覚でわかります。こんなことで終わらせたくない。せっかく生き返ったのです。お願いします。あなたは共犯ですよ。ショウタ、後でライン教えテ」


わぁ、脅してきた? これ影か? アヤメさんか? ダブルで命乞いの算段をしてきたのか?

これ2人、打ち合わせてたな。マジに必死だな。

そりゃそうか、お互い命かかっているもんな。処分は免れないし、どうみても影判定だし。


「影は黙ってて。イヤ、ダメだ。君はアヤメを救ったんだ。アヤメも喜んでいただろう?

ヌッ・・・。もしも私達がばれたら、処分される前に色々言います! れーぷされそうだったとか、パパ活相手だったとか、合意なしにホテルに連れ込まれたとか、影と人を合成するサイコ〇ス、あああっ!」


少女は糸が切れたように倒れた。

小娘が脅してきた。社会的抹殺やめろや。命の恩人に最低すぎるだろ。


そして次の瞬間、アヤメはすっと上体を起こした。


「ショウタ、見たか? アヤメは半分も出てこれない。ワタシが支えなければ、保つことができなイ。かわいそうにナ。同情ものだろう。君が助けた健気な少女を終わらせていいのカ?」


安っぽい同情まで誘ってきた。

影が俗っぽい感じがする。女子高校生の脳で学ぶとこんなところだろうか。


う~ん、このまま秘密にしたとしても、こいつらを世にはなしていいのか。

確かに、ばれなければ問題なさそうに見えるが。


「このまま秘密にするのは、危険だと思っているのだろう? だが、表に出せば処分され、私も消されル。そしてショウタ、君も終わる。秘密にすれば誰もが自由だ」


その通りだ。 「自由ねぇ・・・」


思わず口に出てしまった。


「ショウタ、迷惑はかけない。了解したなら、手を握って欲しい。共犯者ヨ」


何をやっても人は後悔する生き物である。

正しい行動で、人が誰も幸せにならないなら。それは正解ではない。

社会に出たら嫌でも教えられる。営業職を舐めんなよ。


一歩、近づく。

この状況に頭が回っている自分はおかしいのだろうか。

何をやっても昨日やったことから逃げられないならば、いっそのこと・・・。


「ほら、もう少しダ。ほらもう少し。握手、シェイクハンド。会話も聞かれない方がいいのだろう。ほらもっと近くに。アヤメもよく雄にこう誘われていたようだが違うのカ?」


男子高校生は無敵だな。社会に出たら捕まるやつやぞ。


アヤメの細く白い指が伸びて来る。

自分はその手を取った。

その手は温かい。生きている人間の体温だ。


「「ファアア~」」 影アヤメが謎の声を漏らす。


「これが宇宙の真理だったとハ。陰と陽が触れているこの境界こそが・・・。君が陰宇宙にくればカオスに戻る必要なんてないのに。君を誰が害すことがあろうか。ワタシの最高の推しヨ、これで協力関係だな。ライン教えテ」


協力の握手がかるーい。


「これから連絡を取り合い、やっていこうじゃないカ。これからアヤメの日常生活に戻るだけダ。誰もが普通の日常を送れるんだぞ。もっと、上げて行こうヨ。アヤメはこれで細やかな連絡を取っていたゾ」


ラインとか教えたくないけども、マジにどうしようか。

仕方がないか。連絡手段がない方が怖い。

もしも影がバレたらできるだけ知らないふりで切り抜けれるだろうか。

海外逃亡手段は作っておいた方がいいな。


「わかった」 「よかった。アヤメ、ひとまず助かったゾ」


影アヤメはすでにスマホを取り出して準備していた。

学習が早い、これなら上手く日々をすごせるかもしれない。


自分も端末機器を出し、ピッとした音を出した。

ちょうどその時、やわらかなチャイムが鳴った。


続いてインカムに舞の声が入る。


「ショウタさん影の出現です! 近隣A117ブロックに中規模反応! かなりの濃度みたいです。すぐショウタさんの確保に向かいます!」  「今向かう。すぐ乗るから来なくていい、待機してて」


仕事は待ってくれない。悲しい事に仕事あっての自分のようだ。


「行くのか」 「仕事だ、大人しくしてろよ。暴れたりするんじゃないぞ。人間社会に溶け込むしかないからな」 


「今後ともヨロシク」 「ソレ、悪魔のセリフやぞ。ピッタリだな」


悪魔に魅入られた者はこのセリフを聞くのだろう。

誰もが仮面をかぶっている。それがペルソーナ。社会にでると誰もが仮面をかぶる。


ひとまず病室を出る。

完全に信用したわけではない。後で、監視しなければいけないな。

自分の権限でどこまでできるか。


「ショウタさん、ありがとうございます・・・」


と、後ろから聞こえたような気がした。


――――


舞が運転する現場車両で着替えながら、先ほどの事を思い出す。

なぜだか、不思議と心が晴れている。


バレなきゃ罪になんねーよ、ってか。

人が話すグレーな武勇伝はそんな属性があるものだ。

「中学の頃、3階の音楽室からピアノごと落とした。今考えると、バレたらえらいことになっていたなぁ」 と、そんなサイコな彼が今は普通の生活を送っている。

人間とはなんて自分勝手な生き物だろう。


着替え終わり助手席に座る。

端末に表示された情報を見ると、規模こそ中規模だが影濃度がだいぶ濃い。

最近、敵が強くなっている気がする。

この時間から1件目なら今日は2件はありそうだと感覚が言っていた。


「舞さん、今日の戦闘部は2人出勤かい?」


「アカネ先輩とルリちゃんですね~。あの2人なら濃度が高い影でも、ショウタさんが補足してくれれば、先制攻撃で瞬殺だと思いますよ。マユミ部長は、もう現場対応に入っています」


「了解~」


今日は余裕やな。

現最強と元最強ペアだ。


ルリさんは才能がイカれている。

大幅な身体能力強化とビームソードの顕現で敵をみじん切りにする。

そもそも、領域内で無から有を作り出すのがやばい。

普通はアカネさんのように、武器を持ち込み、観測力か何かの力で敵を切るのが基本だ。


アカネさんはルリさんが来るまで日本最強の象徴だった。

長刀で敵と懸命に戦う姿は、全ての人間の心を打ったはずだ。知らない人はいない。

だがルリさんの才能は飛びぬけていた。

それを見せられるたびに、飲み会で何度もアカネさんの相談に乗っている。

営業で例えるなら、仕事を覚えた3年ぐらいで才能を開花させ、先輩や上司の数字を天元突破していくモンスター。もちろん、人間性を犠牲にして得た邪悪な力だ。

どこにでもそんな話はある。

見せつけられるたび、対抗心は湧く。諦めるにはまだ早いと心が叫んでくる。


でも、なんだろう。

ルリさんのあれは努力でどうにかなる強さではない。

アカネさんは、それが認められないのだろう。常に鍛錬にいそしんでいる。

若いよな~。若さっていいよな~。

夢中になれるってことが、かけがえのない強さだとアラサーになって気づかされる。


現場車両が速度を落とす。


「到着します。本日もよろしくお願いします! 今日はこれ終わったら終業じゃないですか? 残業なしの定時帰宅ですね。タイムカード刻印に5分前に待機します」


「いや、たぶん今日2回目ありそうだわ。昼飯は携帯食になりそうだわ」

「はい、マジですか。ショウタさんのソレ、当たりますからね~・・・」


出来たら今日は、早く帰りたい。もうすでに、チーム影アヤメが心配だ。

今日、明日退院だったはずだ。


そして現場に着くと、すぐルリさんに捕まった。


「お兄さん。今日の出現は早いですね。時間が余るので後は、もう一度、超・竹取物語をみましょう。途中まで見ちゃいましたけど、もう一度最初から見ますので大丈夫です」


「同じ大作なら、終わりなきブルーレットにしましょうよ。きついと言われる作品ほど、人と見ると楽しいですよ」


「なるほど、そうしましょう。苦行を消化しましょう」 「大作を消化って言った?」 「言ってません」


ルリさんを後にしてバイクに飛び乗り、マユミさんに指揮の確認を取ろうとしたところ、白い長髪をゆらしながらアカネさんがこちらに走ってきた。


「あいかわらず、すげぇなぁ。毎日、影の中に休みなしで入るとか。こっちが心配になってくるぞ」


「ありがとうございます。心配していただけるとは優しいですね。休みのことに関しては司令部の総括にもっと言ってやってください」


白神アカネ。

白くぼさぼさのロングヘアで赤い目。背中には長巻型の対影武器。

彼女は強い。日本で2番目に強いと思う。


「アカネさん、今日もよろしくお願いします。頼みますよ~。アカネさんしかルリさんの癖を止められないんですから~。キリングマシーンのサポートを・・・『誰が、キリングマシーンですか?』」


いつの間にか、ルリさんが隣にいる。

こわい。 「これは失礼、もっと可愛いほうの2回攻撃のメタルハンター、倒しても仲間にならないタイプでした」 「あ、なんかそれわかるぜ」


雑談はここまでで、中の様子を探りに行かなければ。


「お二人とも本日もよろしくお願いします。マユミさんの指示の元、先行してきます。データが行き次第、司令部のゴーの指示待ちで」


「「承知~」」


よし、ではいきますか。 

インカムに確認を入れる。

「では、マユミさん突入してきます」

「了解。ショウタくん、気をつけて。今日は、これで終わりではなさそうな気がするね」


この予感のような感覚は、外れてくれればいいのだが。

バイクのスロットルを握り、影領域へ突っ込んだ。


――――


音が消える。

住宅街の色が黒く沈み、奥の見えない窓ガラスがこちらを見ているかのようだ。


ブロックを駆け抜け、ビーコンを落とす。

影との遭遇もない。

影を補足しないと、戦闘部が先制攻撃を食らった場合、昇天するの可能性がある。

事前準備が必要である。


交差点で獣型の影を見つけた。


犬か鹿か捕食獣か、形が定まっていない。

影が濃く、足元から触手が地面に潜っている。

これは、強そうだ。


出現確認と影の補足。

動画にも取れたし、十分だ。戻ろう。

バイクを横に倒し、ビーコンを目標に飛ばす。


こっちも補足されたようだ。

地面から一斉に黒い触手が生えてくる。

触手が一斉に襲ってきた。


とうぜん、フルスロットルで触手の中を通り抜ける。

自分には影の接触攻撃は効かないからな。


影の濃度で知能が違う。

精神攻撃が無理と分かればすぐに物理に切り替える。

触手が地面を砕きその破片が直撃すれば自分は〇ぬ。

電柱を振り回されても、避けれないので〇ぬ。家屋の倒壊に巻き込まれても〇ぬ。

肉体は普通の人間ですから? 強化スキルとかないですし? クリムゾンフレアのスキル覚醒はまだか。


命がけで敵攻撃パターンも取れたので全力で逃げないと。

アスファルトの破片が頭部をかすめながら領域内を抜けた。


「帰還しました! 情報を全部送ります。 敵は獣型1体、中心は住宅街交差点。作戦データ確認後、戦闘部同行まで待機します」


すぐにインカムからマユミさんの返信がくる。


『了解。データ分析し、すぐに落とし込んだものが転送される。ショウタくん、影内の負担を強いてゴメンね。いつでもかわるから言ってね』 「大丈夫でーす」


すぐに長刀を担いだアカネさんとルリさんが3輪バイクのステップに乗ってきた。


「いつでもいけるぜ!」 「今日は早く終わらせたいな~。一緒に映画見たいし~」


2人を乗せ、再度影内部に突撃する。







いつもありがとうございます。

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