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5 ライフラインの繁忙期とは

――――


3輪バイクの後部ステップには、アカネさんとルリさん。

豪華すぎる戦闘力だ。


この2人を乗せている時点で、勝ち確定演出です。

最近勝ち確演出のアニメが無くなった気がする、でも、一番の問題は自分が普通の人間というところだね。

影に押された時点で、引かないと自分は〇にます。


「捕捉されたらすぐ地面から触手が来ます。相当やる影です。もし被弾したら、いったん引いて再突入ですからね」


誰とは言わないが念押しする。

戦闘部の影滞在時間を削られるのは、デスマーチの始まりである。

与えられたタスクは、その日のうちにこなさないと広がる。

影領域が広がれば、さらなるデスマーチを呼ぶ。

どの仕事もそんなものだろう。


「アカネさん、お願いします。ルリさんを頼みます。マジ頼みますよ。戦えない自分が言うのも気が引けますが、影パンチを食らう癖があるように見受けられますので、マジに頼みます。いえ、立場を超えたセリフ、失礼しました」


「いや~、癖じゃないですね~。なんですかね~?」


この黒い異空間の中、ルリさんが後ろで楽しそうに笑う。


「被弾か。あれは恐怖だが、その後が、癖になるんだよな・・・、不純だな・・・。了解、できるだけ頼まれた」


アカネさんも苦笑しているが、笑うところあったか?

戦闘部はネジが外れているからな。毎日、命を賭けて戦っているのだ。

どこか欠けていてもなんら不思議ではない。


そんな会話をしていると赤色のビーコンが見えてくる。

会敵までもう少しだ。


「来ますよ、本日もよろしくお願いします!」


次の瞬間、地面が膨らみ、黒い触手がアスファルトを突き破って吹き上がる。

影が学習してやがる、これ以上前に行ったら自分はヒキガエルの末路を辿ってしまう。


その瞬間、アカネさんが 「ここまでだ。下がってろ」 と、白い長髪が自分を追い越す。

得物の長巻の一閃。地面から出た触手がまとめて切り飛ばされる。


では、戦闘圏外に逃げるとしましょう。

ボディカメラでの状況撮影は今日は厳しいかもしれん。頭がいいぶん、影の自分への殺意が高い。


バイクを飛ばし後ろを振り返ると、住宅の屋根より高く、黒い空に跳躍しているルリさん。

手には創造されたビームソード。無から有を作り出す、意味の分からない才能。


剣の光が紫の髪を照らす。紫の目も闇夜に映え、どっちがボスがわからない。


「では、さようなら」


ルリさんの対影スーツから青いエネルギーラインが瞬いた。

瞬間、黒い粉が弾け、影獣の胴が裂ける。


マジに意味が分からん。見えない斬撃でも放っているのか。

だが影が濃い、裂けた身体が繋がろうと試みる。


「させるかよ」 アカネさんが間合いを詰めていた。

長巻が赤い軌跡を描き、十字に刻んで斬り飛ばす。


宙に浮いていたルリさんが流星のように降ってきて、ドゴン! という爆音と共に影が弾けた。

黒い粉が舞い、領域の濃度が一気に落ちていくのを感じる。


撮影終了。いや、お仕事終了である。

凄すぎる。褒めちぎらなければならない。彼女達の自尊心と言うものはメンタルそのものだと思う。


「んほほぉおおお~! すごい、凄すぎるっ! マジにお見事です! バイ〇ハザートの映画なみにアクションしてましたよ! 端的に言っても世界に平和が訪れた! こんな勇者がきたら魔王様もす巻き待ったなし! はい~、お疲れ様でした。本日はどうでしたか?」


インカムにて全力で褒めちぎると同時に、目の前に二人が戻ってきた。


「物足りないですね。ぜんぜん物足りないです。

自分の名前も記憶も思い出せない絶望の中、お兄さんに抱きしめられて、自分が何者か認識するあの瞬間が足りませんね」


「あれな~、恐怖と絶望の中、救われると脳がジュゥウウウと音を出して焼けるんだよな。

心臓はパチンと弾けるし。でも不純だ。アレは不純な気持ちだ。ルリ、あれはちがう。詳しく調べたんだ、ストックホルム症候群みたいなんだ。暴力を振るわれて思考の逃げ道を失った時、優しくされると依存するアレじゃないか?」


「いえ、私は純粋です」 「そうだよな、あの気持ちは簡単な言葉で終わらせていいはずがない」


何だ何だ、時間無いんだよね。

パンチドランカ―の好みの会話なら外でやってくんない?


「はい、お疲れ様でした。本日の対影時間は限られております。ではお帰り下さい。自分は、領域の解除までいなければいけないので。バイク使っていいですよ。では、またの機会にさようなら」


「相変わらず、終わったら冷たいですね。ノンデリって言われません?」 

「ノンデリだよな。でも、ベタベタしない。そこがいいってことにしようぜ? このぐらいの距離感が楽かもしれないな」


そうね、女性へのデリカシーはあまり持ち合わせてないかもしれない。

この世代の子に、九州ますらおのとらジローの男尊シーンを見せたら、発狂するのだろうか。

子供用のアニメだったんだが。


そのまま2人はダッシュで住宅街を駆け抜けて行った。

あれぐらいにイカれた対影の才能に恵まれるというのは、どんな感じなのだろうか。


そして、影の残滓は問題なく消え去り、住宅街に色が戻った。

遮断されていた電波も戻り、遠くでサイレンの音が鳴っている。


お仕事終了です。


そう思った瞬間だった。

柔らかなチャイムが鳴る。この音にしたやつに〇意が湧く。

警報音は心臓に悪いから、と言う配慮だったか。


携帯端末に、影襲来の通知が表示された。

「ああああああああ! はえーよ! 休憩ぐらいさせろや! 戦闘部隊のメンタルとか考えてくれって、休みがないと、超めんどくせぇんだから! ああああああ!」


即座にマユミさんから連絡が入る。

『ショウタくん、お疲れ様でした。しかし、敵は待ってくれないね。影の中の2度目は辛くないか? 代ろうか?』


「大丈夫です。マユミさんが現場指揮取った方が仕事が早い上に、残業も減るので当然、自分が入ります!」


『了解した』


この影襲来の感覚は、外したことがない。

いやな予感だけは当たるもんだな。


同時に、舞から通信が入る。


『お疲れ様です。うわ~、ショウタさんの感覚、本当に当たりますね。 えっと、昼ごはんは何味の携帯食にします? ショウタさんを先行急行しますのですぐに出ます』


「牛味、和牛味だよ。あのパイン味を作ったやつ絶対に20代だろ。菓子食ってるんじゃねーんだぞ。国家権力と予算を使って作らせて欲しい。和牛ビーフ味を所望致します、舞女王閣下殿!」


「あ、はい。パイン味ですね。忙しい時にこそメンタル回復で甘いものがいいと思います」


忙しさでめんどくさくなるのは、自分も一緒だったか。

いや、違う。甘いのがそんなに好きじゃない。でも、20代は大好きだったんだ。今やショートケーキすら食うのがキツイ。こんな未来望んではいなかった。


――――


戦闘を終えて、夕方には支援部へ戻ることができた。


みんなの目が死んでる。そして、心にも魔物が住んでいる。

マユミさんも、さすがにお疲れのご様子だった。

黄色がかった髪を軽くまとめ、デスクに肘をついて上長としての報告書を処理している。

自分の報告書と動画のとりまとめは、明日で勘弁願いたい。

正直疲れた。


「今日はもう、夕食作る気が起こりません。マユミさん、今日は外にしませんか?」


「そうだね。私も無理だ。包丁持ったら、司令総括の残り少ない髪を刻みそう」


自分は支援部で暮らしている、と思う。

365日出勤を考えると、朝昼夜。ここにいた方が良い。

つまり、マユミさんとおはようから、おやすみまで生活をともにしている。

生活空間ゾーンで、よく手が空いたら映画見たりゲームで遊ぶ。マユミさんのお兄さんに鍛えられたようで格ゲーとスマブロができる大変貴重な女性である。


お互いを尊重できて、距離感も大変親しい。

ほぼ同棲じゃねぇかなぁ? と、お互い思っている気がする。

だが、一線は超えていない。

飲み会で手が触れたり、夜に2人だけで残ったりすると、満たされない感情を埋めようと変な空気になることがあるため、基本自分は寝に家に帰る。


社会人として、正しい判断だ。

たぶんね。


「ショウタくん、今日は飲みにいきましょうか」 「賛成です」


その瞬間、支援部の入り口が開いた。


「お兄さんたち、飲みに行くんですか? 私たちも飲みにいきます。一緒にいきましょう」


ルリさんが入ってきた。帰宅しないで、なぜまだいるのか。

その後ろから、アカネさんも顔を出す。


「私たちも飲みに行くんだ。一緒に行こうぜ」


「わぁ。飲みに行きましょう。でも、タイミングが完璧すぎますよね?」 「待機してました」


ルリさんが胸を張って答えるが、なんか違和感を感じる。


「あ、舞さんは誘ってみました?」 「推しの配信があるとかで帰ったぜ」


今時の子って、そんな感じ?

上役が飲みに行くってなら自分を犠牲にして付き合わないとダメじゃない。

自分の時代の常識はそうだったのにな~。時代も変ったね? いいことだ。


――――


いつものお値段高めの居酒屋に行く。個室もあり、たいへん静かである。

若い頃は金が欲しかったのに、今は金を使いたくてしょうがない。

ストレスかな。


「「「「お疲れ様でした~!!!」」」」


グラスが鳴る鳴る。

向かいの席のマユミさんのジョッキがすぐに空く。

サラリーマン時代の習性で 「マユミさん、次何行きます? もうすぐツマミが来ますから、その時に飲み物頼みましょう」 とハードドリンカーのマユミさんの肝臓を労わる、できる部下を演じる。


隣のルリさんは、当然のようにタコワサを頼んだ。

そして、一口食べた。


「・・・、味は確認しました」 「また残すんですか」


「お兄さんにあげます。品数が増えてうれしいですよね」 「毎回そのパターンですよね」


小皿がこちらにグイッと押し出される。

なぜ、頼むのか。でも少しわかる。

自分も昔、海外のマンゴーを食べた時の感動が忘れられない。

自分もメニューにあるマンゴー関係を頼んでしまう。思い出ほど、美味しくないのはわかっているのに。


適当に注文が来た時、とうぜん現場の話になる。


「で、最近、影がなんか活発ですよね」


マユミさんが3杯目のグラスを置いた。


「そうだね。発生間隔が短い。なぜだか濃度も上がっている。そろそろ、他の都市部がオーバーフローすると思うのよ。それを想像しただけで、そろそろ日本酒だね。うちらに他県に出動しろとか言った日には・・・」


「一番高い日本酒下さい。あ、味は値段じゃないのは分かっていますよ。ただ、今は速度が必要なので。すぐに持ってきてください」 と、店員に伝える。マユミさんにこの先を言わさず日本酒を注文する。


「影の出現は、観測力に比例していると言われているけども、何か他の法則がある気がするぜ」


「うーん、そうですね。今年は特におかしいです」


そんなやりとりをしていると隣のアカネさんが距離を詰めてきた。

誰もが寂しい夜を持っているが、仕事仲間に手を出す気はない。


白い髪が肩にかかる、酒の匂いがする。

私服でもなんだか対影スーツに似ている、黒のブラウス。


「と言ってもだ」 アカネさんがグラスを指先で回す。


「影が増えようが、消えようがやる事は変わらねぇ。斬れるなら斬るし、無理なら引くだけだ」


おや、引いてくれる事を学習してくれたのか。

被弾した後、優しく抱きしめ 「一度引きましょう」 と言った瞬間、突撃していくのを自分の持ちうる全ての力を出して抱きつき、引きずられながら止める。

全ての言葉の話術を使い、止めなければならない。


「マジ感動のセリフですね。引いてくれるんですか。もうピカチュ〇の鳴きまねをしてアカネさんの歓心を買い、突撃していくアカネさんを止めなくていいんですか。いや、ウソですよね。で、本当は?」


「おう、おおう。いや、突撃する。そうだ、最強が幸せの近道だと思ったんだ。多く斬って誰よりも強いって言われる。それで満たされたと思っていた。それが今や、意外にも幸せなんだ」


アカネさんの赤い瞳がこちらを見る。

でも突撃するのかよ。影より学習してないよな。

そして、本日2度目のタコワサの皿を押し出して来るルリさん。


「では、幸せのおすそわけです」 「いいえ、それは残り物です。次からこの店のタコワサは消えます。支援部がもつ国家権力舐めんなよ。このメニュー消してやるわ」


「ショウタくん、人気者ねぇ。どんどんやりなさい。酒がうまいっ!」


マユミさんは酒が入ると、少し親父くさくなる。同い年だしな。

自分もそう変わらんか。


「いいじゃないか。支援部の数少ない福利厚生よ?? 意外にも私も今が幸せ。たぶんね、幸せとか考えないぐらいの夢中、忙しさが幸せかもね。まぁ・・・、家庭を持つ忙しさに、類似しているみたいよ・・・」


「あ、それわかります。ぽっかり空く夜に孤独を感じる時間の話ですよね。さすがマユミさん。同年代だけありますね。でも! この休みない部署で、家庭持てると思います? 無理でしょ」


「「ふぁああああああああああああああ!!!!」」


見事な、マユミさんとのコラボレーション。自分も思わず絶叫してしまう。

ビクッとするルリさんとアカネさん。

このレベルの話は年下にはわかんねーだろうな。


その時、スマホが震えビクッとした。

職業病で、舞からの連絡かと思った。

推しの配信実況でも送ってきたのだろうか。あいつは同じ趣味を共有したがる病気にかかっている。

「この配信者よくないですか?」 とか、ク〇ほど男性配信者とか興味ねーから。


画面を見る。まさかの送信者は黒瀬アヤメ。

家に帰ったら連絡を入れようと思っていたところだ。

そして背筋に、冷たい感覚が走った。


添付画像が一枚、送られている。その画像が自分の家の前だった。


「はい?」


公共住宅、と言えるヘリポートと巨大駐車場が付いている我が家。

不思議だよなぁ。いつでも連れかれるような国家の陰謀な気がする。


その門の前が写っていた。文章はない。

画像だけだ。


「どうかしたのか? 顔色悪いけど。飲みすぎた? でもね、ショウタくん。わかるでしょう。どんなに酷い酔いでも朝一番は、デスクについてならない呪いにかかっているの」


マユミさんが気遣ってくれている。のか?

そうね、我々の労働文化はこんな感じだね。朝さえ切り抜ければ、後はトイレで寝る。


「いえ、大丈夫です」


次の通知が鳴る。また画像が送られてくる。

今度は玄関だった。

自分の家の玄関。画面の中で、夜の外灯に照らされたドアが写っている。

心臓がパチンと跳ねる。

何だコレ? メリーさん? 今家の前にいるのってか? いや、何してんだ。


すぐに文字を打つ。


【何してるんですか、それ自分の家じゃない? 〇ソ影の存在ばれたりした?】


送信。

既読。

返信はない。


代わりに次の画像が来た。

今度は玄関の内側だった。

靴箱。廊下。照明のスイッチ。全て写っている。

そこは、間違いなく自分の家の中だ。

いかれてやがる。


『何してんだ。なんの画像だ。カギは、もしかして開いてた? 何してんの??』


送信。

既読。

返事はない。


「ショウタさん、大丈夫か? 顔色悪い、私も具合悪い。背中をさすってくれないか」

「アカネさん、不純です。接触プレイ良くないですよ」


次の画像はリビング。

自分のリビングだった。

ソファ。テーブル。昨日、帰っていないのに散らかっている部屋。

完全に侵入されている。


飲み会どころではない。帰らないと。

マジに影はアニマルで下賤。人間と宜しくやれるわけない。

早く処分の方法を考えないと。人間社会に溶け込めるわけない。


アヤメさんの女子高校生の方は何してんの? 完全に乗っ取られたか。


「すみません。ちょっと用事ができて帰ります」


自分は立ち上がった。


「え、急に? 用事ってなんですか。お兄さんに夜用事があるわけないじゃないですか。私、こう見えて権力あるので家族構成を調べてますよ。安心してください、妹さんのお仕事は安定してます」


ルリさんが首をかしげる。

お前も影にのっとられてるんじゃないの。戦闘部のメンタルはイカれている。家族構成も調べないと信用できねーってか。


「ショウタさん。見苦しいぜ。彼女なんてできるわけがない。大人しく格好つけないで座って肩を抱きしめて欲しい」


「ショウタくん、新しい推しがいたら共有したい。後で教えてね。オロロロロロッ」


いや、世界がイカレていて。職場がイカれている。

自分だけがまともなんだな。


また通知が来た。

画像ではない、短い文章だ。


『ショウタの家、温かイ』


狂っている。全てが狂っている。


「すみません。ちょっと、今日は帰ります。今日の埋め合わせは明日とかでお願いします」


「「「うん、親の病気関係? 私たちも手伝えることがあったら言ってね! 国を挙げてサポートすると同時に影の処理だけは出勤の形になると思うから。その代わり全ての公共機関使い放題だ!」」」


親の有事の際に影対策だけは駆り出されそう。

その代わりに全ての融通が利くんだろうな。そうなりそうだよな。そうなりそう。

場を後にし、急いで家に帰った。



いつもありがとうございます。

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