17 人の習性
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白羽 ショウタ
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アヤメさんが来たなら話が早い。
彼女に難易度を変えてもらうしかない。と、簡単に言うけども彼女は最近まで高校生。
ついこの前まで〇にそうだった少女に、こちらの都合で領域弱体化をやってほしいと頼む。
まともな大人じゃないと思うが、彼女には実績がある。
ホテルのロビーでの朝を思い出す。
「危険がないようにお願い。大丈夫だよね。誰かに見られたりしないよね? 危険が迫ったり、捕まったらすぐ自分の名前を出してね」
アヤメさんはこくりと頷く。
綺麗な黒い髪が揺れ、のぞき込むように目をのぞかれた気がする。
この心臓がドキッ!するのは何かの得体の知れない恐怖の感覚か、それとも本能的な何かだろうか。
「中に入って吸って、倒したら吸うだけですから問題ありません。戻ったら、この宿泊の理由説明で、両親への挨拶をお願いします。ショウタさんなら大丈夫だと思います。スーツで来てくださいね」
あれ~。本当に女子高生だった?
胆力が凄いね。それとも邪悪な影に言わされているのか。
もちろん二つ返事で頷いた。
「喜んで宿泊理由を説明させていただきます。これさ、うちで就職してもらう以外、カバーストーリーを作るのは無理だよね。『アヤメさんは大変才能があり、本人の意思を尊重して影対の見学にきて頂きました』 でいいね」
「はい。歳の差は問題ないと思います。責任感ある男性で、私の将来を真剣に考えてくれていると伝えています」
「あれ? 就活の話だよね。世代ギャップのニュアンスって難しいよね」
そんな話をした。
ということで、今日中に片を付けた方がいい。
ここの司令部もそれを望んでいるだろう。
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『先人の頑張りにより、影領域は弱体化している。倒すなら今です。今日倒さないと回復するかもしれません』
と、車両の中で舞にそう書いた紙を渡す。
本当の理由なんて書けるわけねーだろ。影を吸う能力とか、何だよ。絶対に検査にひっかかるわ。今すぐ研究対象待ったなし。
司令部にも通さないといけないので、舞に渡せばすぐにうちの対策府に通達されるだろう。
「舞さん、頼む。何でもするから。これを通達して。頼む、今日弱体化するから」
舞の目が細くなり、手が震えている。
「だってさ、本当の理由なんて言える訳ないじゃん。頼むって。お願い。お願いします。これが終わればすべてを言うから。あの日、助けるため喋る影を彼女に埋めたんだよ。見た目が彼女であるなら、影ではなく彼女だ。アニメもガワと声が似てれば中身が変わってもソレと受け入れるでしょ? それと一緒だって、大丈夫、彼女は人間。そもそも、弱体化しないとうちらも〇んじゃう確率が高いんだよ。通すしかないって。あの状態でアカネさんが負傷したんだよ。やるしかないって、ここで作戦を止めてもいいけど、結果はどうなると思う? やるしかないって」
「あああああああああああ! あの、ショウタさん、私、私わあぁあああ!? 共犯者わぁああああああああ!」
「もし首が吹き飛んだら、責任とるから。家にいてくれればいいから。自分が稼ぐし、貯金もあるしさ。口座ごと渡したって構わない。幸せにしてみせる。年単位でお互い思うところがあっても、一緒にやれてたじゃん。絶対、生活も上手くいくって」
「たとえが最低ですね! 恋愛イベントが飛んで、急に愛の逃亡生活みたいな感じになってきましたよ!」
「本当に申し訳ない」 「ですが責任を取って頂けますならば、やりましょう。口座は私に渡してくださいね」
「はい」
まぁ、大丈夫じゃろ。
借りはこの都に作れるし、勝てる見込みしかない。
問題は、その後司令部に報告の時だよな。
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漆黒の影領域の前に、戦力が集結する。
現地の司令部が周囲の規制を終わらせており、立ち入り禁止のポールが並んでいる。
これからの作業に邪魔にならないように、人を遠ざけていた。
アヤメさんはこの中をよくもまぁ、抜けて入れるわけだよな。
近づく人間は基本いないので、半径2kmのどこかの規制が緩いとこから簡単にはいれるとは思う。
球体を見るとまだ漆黒の空間をしている。
アヤメさんの合図は薄くなった時だ。
そんな事を考えていると、黒い球体の横を大型ヘリが低く近づいてきた。
現地司令部の職員たちが、騒がしくなり規制線がさらに押し広げられている。
砂ぼこりが舞い上がり、ヘリの着地を舞さんと並んで見上げていた。
「きましたね」 「舞さんありがとうございます」
舞さんが端末を片手に言う。
顔が若干引きつっているが、端末をいじる指は止まっていない。
とっても優秀な叩き上げのパートナーだ。
「婚約届と財産分配の契約書を作成しておきますよ」 「ゴメン、ほんとゴメンって。大丈夫、大丈夫だから。それ、冗談だよね? 交際の段階をすっとばしてるけど、仕事や生活以外でみれない自分の悪い一面が、どこかにあるって。相手は慎重に選んだ方がいいよ」
ヘリから最初に降りて来たのはルリさんだった。
紫の髪が小さく揺れているのを見た瞬間、いつの間にか目の前にいた。
「お兄さん、来ましたよ」 「ありがとう、今回も無事に帰らせるよ。頼みました」
次に降りてきたのは白神アカネさんだった。
白い髪が目立つ。顔色もよい。
「白神 アカネさん。趣味は・・・「白羽さん、ルリとデートしたんだって?」 デートぐらいでそんな感じ? じゃあ、デート以上の事を退院祝いでやればいいね」
「あっ、はい」
その後ろから、水色の髪を揺らして水色の悪魔が降りてくる。
「ショウタさん、モテモテですよねぇ。うちの部に男性がいないので、なんか魅力的に映ります」
「どうしたの? 今日、水着じゃないけど体調とか悪いの? 奥に用意してあるから、頼むよ。伝説になろうよ。ナツメさんの大好きなクリーチャーハンターと一緒だよ、全裸クリアーみたいな感じでRTAしよう?」
「ほほぅ、ゲームと現実を混同しておりますね。現実は失敗した時のコンテニューがないですぅ。いえ、ありますね。来世というものが? ショウタさん? コンテニューしてみませんか?」
これは放っておこう。
そして最後にマユミさんが降りてきた。
戦闘用の黒の対影スーツ姿で、腰に刀を差していた。
黄色い髪が黒い球体に映えている。
おや、マユミさんに戦闘に加わってもらうより外で指示を出していて貰った方が良いのだが。
「ショウタくん、どうだい。似合うかな? ショウタくんが来る前は、戦闘しながら支援をしていたのよ」
「お似合いです。ビビるぐらい似合ってます。中に入られるより外でお願いしたいのですが」
「もちろんだよ。君の働きに本当に感謝している。君が来てから戦闘不能者が出ることもなく、領域内の地獄の中で命を拾うような場面がなくなった。前向きに取り組むメンタルこそ、結果に繋がってるのかな」
そのまま、マユミさんが一歩前にでて全員に号令をかける。
「さて、この都に借りを作り、人材確保の礎を作ろうじゃないか。突入準備だ。いつも通り、ルリ、アカネ、ナツメ君。頼んだよ。ショウタくんは支援と内部指示。私は外から指揮を取るわよ」
「「「了解」」」
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黒瀬 アヤメ
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身体に影を纏う。
そう意識すると、黒い霧が私の輪郭を包む。
不思議と心が落ち着き、空間が私と同化しているのを感じる。
『アヤメ。これが光学迷彩だ。君たち人間の英知には驚かされル』
得意そうにもう1人の私が言う。
『観測できない意識の外から襲う捕食者。めちゃくちゃカッコイイ。影に足りない視点はコレだったのダ』
「私、人間からどんどん遠ざかってると思うの。ねぇ、私、大丈夫? 映画の影響を受けすぎじゃない? 影対策府の人を見てもこんな力なかったよ」
月額の映画フリックスに加入したのが間違いだったかも。
私の意識が休んでいる間に、すごい技を習得していた。
前の影領域を吸収したことによる力で、何となく風景に溶け込み人にバレにくくなる。
『個性とは素晴らしイ』
そう呟きながら、私は規制の薄い場所を探していた。
当然、警備の多い場所は避ける。少し歩くだけで、誰も居ない場所を見つけた。
広がる影領域に誰も近づきたくないよ。
私はその黒の中へ、そっと中へ入る。
影の中に入ると音が消えた。
中の影にバレない様に領域内のギリギリで吸う。
私は指先で領域の先端に触れる。意識の無い冷たいエネルギーが指先から体に入ってくる。
少しだけ吸う。バレそうになったら、すぐに外へ出る。
私の命を保つ方法は、これしかない。影を3年吸わないと〇ぬみたい。
「これをショウタさんに言わなかったのは、ズルくない?」 『ズルくない、真実はいつも優しいウソに包まれている』
すべては優しいウソに包まれている? でも、そんな気がしてきた。私に詩人の才能があったなんて。
・・・違う。彼に心配をこれ以上かけたくない。
これを繰り返すと、煌めくような銀河の世界から現実世界の風景に戻って行く。
「薄くなったね」
そう呟いた。
これで、褒めてもらえるだろうか。
あの人の近くにいるだけで、心臓が跳ねる。触れている時こそ、この世界を感じることができる。
あの瞬間こそ世界が宇宙が、私たちを中心に回っているような。全てを得るような感覚。
その瞬間だった、遠くで紫の光が走る。
続いて赤い閃光、水色の無数の線が見えた。
ショウタさんが突入したのだと分かった。
戦闘の音は聞こえないけど、戦っているのだろう。
壁の空間が揺らぎ、観測力と言うものがボコボコにされているのがわかる。
中心部で影の飛沫が噴水のように吹き上がっていた。
まわりの空間がさらに薄くなっている。ここの主の観測が弱まっている証拠だ。
吸える。空間が薄くなれば彼が喜ぶ。
気づいた時には、私は空間を吸っていた。
1つわかるのは、ドンドン私は強くなっている。量子の存在は、私が認識するから形作っているのではないかと錯覚する。
本当に私は人間なのかな。
『影と宇宙の真理に詳しい人間、黒瀬アヤメ。邦画が趣味なので人間だナ。影より闇落ちする思考、身体によくないゾ。つまり、ちょっとだけ観測力が強い女子高生ダ』
「う~ん、それは無理があると思うの」
これで終わりだ。やれることは、やった。
早く帰ろう。明日にでも彼が家に来てくれる。これほど、ワクワクするイベントが他あるだろうか!
「『いや、ない!』」 と、私たちは満場一致でテンションが上がっている。
『ツイストゥーゲーム(なんか肉体的にもつれる邪悪なマット式ゲーム)で遊ぶのがいいんじゃないカ』
「私、天才すぎだと思うの。ツイストゥゲームでゲームを装いぃいいいいいいい、ああああああああ!」
早く出よう、準備は山ほどあるから。
私は影をまとったまま、領域外へ出る。
抜かりはないし、誰にも見つかる事もない。
そう思っていた。
規制線を出たとこで、私の足が止まった。
黄色の瞳、金の髪。
黒い対影スーツで、腰に刀を差している。
「どこへ行くんだい? 元気そうで何よりだね」
優しい声だ。同時に全身に恐怖と電撃が走る。これは、恐怖だ。
〇ぬ時に経験したあの黒い帳が目の前にいる。
なぜ私は、そう思うの? 声はやさしい。でも手が刀にかかっているから。
この空間が下手なことをすると〇ぬと教えてくれてる。絶対的な観測力ダ。
私のすべてが、動くなと警告を発していル。
この人は琥珀マユミさんだ。私が〇んで目が覚めた時、居てくれた人だ。
『よかった、目覚めたかい? 家族も安心しただろうね』 『あ、あの助けてくれたあの人は、どこにいますか』
『ああ、それはうちのショウタくんだよ』
今でも病院でのやりとりを思い出せる。
でも、今ここにいる恐怖の化身は一体誰なのか。
「もう怪我は、いいのかい? 黒瀬 アヤメさん」
マユミさんは穏やかに笑っているが、逃げ道はない。
「あの日から君を見させてもらっていたよ。君の中にいるものについて、聞かせてもらおうか」
ショウタさんの名前を出したかった。
危険が迫ったら、自分の名前を出してね。と、男性がプライドを自慢するような言い方で、何度も言われている。
名前を出したかった。でも!
それを言えば、ショウタさんが共犯になる。彼は何も悪くない。
何も悪くない! ここで名前を出せば、責任を押し付けることになると思うの。
この人は知っているんだ。
私を助けてくれた人に、これ以上は責任を負わせたくなイ!
決めたゾ! 一度逃げよう。
影よ、きて。
視界が黒くにじむ。足に力をいれる。
簡単にここから離れられると思った。
足が地面を蹴るより早く、私の体が宙に浮いたのを感じた。
マユミさんの足が、私の足首を払ったのだ。
体勢が崩れるが、腕に影が集まり腕だけで跳ねようとした。
地面に手をつき、体を浮かせる圧倒的な腕力だ。
その瞬間、手首に硬い物が食い込んだ。刀の柄だった。
柄が、私の手を縫い止めるように押さえ込んでいる。
骨がきしむ、痛みで声がでない。
「ガッ――」 そのまま、仰向けにされ、刃が首にあたる。
動けば切れる、それはわかった。
マユミさんは穏やかな顔のままだった。
「怖いな。能力がわからない。でも、これ以上暴れるなら、斬るわよ」
私の中の影は黙った。
「斬っても止まるのかわからない。だから、止まるまで細かくするしかない。対影の戦闘ではそう教わる」
この人は本当にやる。そうわかった。
「大人しく捕まりなさい。黒瀬アヤメさん」
怖い、悔しイ。
知恵と力を得たというのニ、目の前の大人には届かなかった。
でもここで捕まるのは、私の意思でなければならない。
打ちのめされた私は、思わずつぶやいた。
「ショウタさん・・・」
「最初に出した言葉がソレかい? 効くわね~」
殺意が引いていくのを感じられた。
「悪いようにはしないよ。だが、ここ数日の様子は見過ごせない。その力はなに? あなたは一体何者なの?」
私は何者なのか、私が知りたい。
――――
いつもありがとうございます。




