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16 瀬川舞

―――――


大事な話ですか。

ついにきたのではないでしょうか。

これは、きてますよね? ついに恋愛対象としてみてくれるようになったのでしょうか。

男女の友情は、成立するのかという話になりますが。

一緒にホテルに入ってみれば、議題にあがる話ではなくなると思いますよ。


いえ、ショウタさんは女性を耳元で誘っておきながら、仕事の話をするタイプですけど、『舞』 と呼び捨てにされ大事な話となれば・・・。


「これは、来ましたね!」


拳を握りしめて、ホテルの部屋を開けて即座に服を脱ぎ捨てる。

ロビー集合まで、30分しかないですよ。現場上がりの格好でデートなんてできるはずがありませんし。

ちゃんと服を持ってきてよかった。とりあえずシャワーをしながら、顔のテカテカを落とさないと!


シャワーから上がり時計を見ると残り15分。ありえません、何者かに時間が盗まれてます。

そうです。告白の場面で 『時間が光より早く感じる』 のは、私の好きなタイムリープのアニメのセリフでしたか。

絶対的な基準なんて存在しなく、相対的な観測が全てならもう少し時間をゆっくり流して頂いてもいいのでは、ありませんか?


鏡の前の赤メッシュを指でととのえながらドライヤーで、ゴアアアアアア! と、強力に固定する。

裸のままですが、時間がないのです。仕方のない犠牲なのです。


そして、リップを引き直せば、よし! 私、かわいいです。

残り5分。


念のため持って来たワンピースに感謝です。

遊びにきたわけではないですよ、県外に出張となれば私服を持ってくるのは当然ですよね~?


ロビーにギュギュっと走り込むと、ショウタさんはすでに待っていました。

いつもの白いシャツにジャケット。

知っています、その服もいつも通りですね。

彼の方が歳が上ですが、ホテルの照明の下では大人の男性に見えます。


人を助けることをめんどくさそうに引き受ける人、そして引き受けたら最後まで投げない人。

仕事を追加しようとすると、ハリケーンの様に司令部に襲い掛かる悪魔です。

そのうえで、いつも一緒にいるわけですから好きにならない方が無理ですよね。


「おや、どうしたの。そんな素敵な服持ってきてたの。似合ってるじゃん? そういうのどこで買うのさ。もう男性陣はユニ〇ロに支配されてて、そこの物を一生着て過ごすんだよ。なんて可哀そうな象さんなんだろう」


言っていることが半分もわかりません。

ジョジョタウンで似合うものを買ってどうぞと言いたいですが、ショウタさんは素で言っているのでしょう。

オシャンティなところは、いかない人ですし。


「あっ、ごめんごめん。つまり可愛いね! と言いたかったんだ」


う~ん、会話がウィットに富んでますよね。観察眼と知識も素敵です。

ドキッとさせてきます。同世代とは引き出しの多さが違います。


「少し歩こうよ」 と、そう言ってロビーから出て行きますが、私も横についていきます。

このまま腕を掴んでみたいですが、恥ずかしいので帰り際にしてみましょう。


「舞さん、お高い焼き鳥が食べたいのですが」 「はい、焼き鳥ですか」


「でも、こういうデートはパスタなわけで。昭和のデート本にはパスタと書いてあったと、古事記にも記されてるわけですね。なので、パスタがいいですか? 自分は焼き鳥が食べたいのですが、我慢してパスタにします」


「えぇ? ショウタさん、焼き鳥食べたいのではないのですか? デートでパスタは安易じゃないですか。フレンチならともかくですね、パスタて、どういうことですか。いえ、レトロな昭和喫茶店のパスタとかエモいですけど」


「なるほど、やはり女性にはパスタ。でも焼き鳥が食べたいわけです。舞さん、個室の焼き鳥どうですか。いえ、失礼しました、パスタがいいですね、パスタにしましょう」


あっ、からかわれています。

私が浮かれているのに気づいていますね。

強いですね。この人を少し困らしてやりたいです。


「ではショウタさん、パスタにしましょう!」


「なるほど、パスタ。やはりパスタ。そうきましたか。ではこちらがパスタ屋さんです」


そう言ってショウタさんが片腕を上げて示した先を、私は首を上げて見上げる。

そこの看板には 「焼き鳥 ほしの」 と書かれていた。


「?? 焼き鳥じゃないですか、最初から焼き鳥にしたかったのではないですか!?」


「はい、パスタ屋さんです。よく焼いていますよ~。 好きなだけチュンチュン食べてくださいね~」


と、彼が店に入っていく。カオスすぎて思わず笑ってしまった。

人を笑わせないと気が済まないのでしょうか。


「いらっしゃいませ~」 と店員さんの声が聞こえました。


――――


「・・・素敵なパスタ屋さんですね?」


「舞さん? パスタに見えます? もしかして病んでる? ここは焼き鳥ですけども。はい。来ました。舞さん、焼きたてで熱いから気を付けてね」


この男を止められるのは、戦闘部の暴力のみなのでしょうか。

でも、焼き鳥が運ばれてきた瞬間、ショウタさんが少し嬉しそうな顔をしたので、そこを突っ込むのをやめましょう。


「で、これって本格的なデートっぽいですよね?」


「そうね、これがデートならいつも一緒に行ってる昼飯もデートになるかな。つまり、・・・自分たちには刺激が必要だね。はい、どうぞ。そのマンネリを解決する、七味唐辛子です。タレが甘いと感じたらかけてください」


と、唐辛子の瓶を渡される。

う~ん。強いですね。らちがあきませんね。

今日、部屋に突撃しましょうか。私に恥をかかせる人ではありませんし。

明日からの関係性を考えたら、強引にイベントを進めるのが一番ですよね。

強制的にイベントを進めることにしましょう!


照りのあるタレが炭の香りをまとっている。

湯気が立ち上り、甘辛い匂いが鼻先をくすぐる。

串を1本手に取った。


「熱いよ」 「はい」


美味しい。


「口元にタレ。美人に箔が付いたね。おめでと」


慌てて指で拭おうとすると、ショウタさんが紙ナプキンを差し出してくれた。


ちょっと、過保護じゃないですかね~。子供じゃないんですけども~。

なんかデートと言う感じじゃないですよね? でも彼の瞳はずーっと私だけを見ている。

微妙な関係性です、もうこれは私から押さないと進まないですね。


「で、大事な話があるんだけど」


来ました。

いよいよ、大事な話です。

恋愛なのか任務の話なのか。

おそらく両方です。仕事なしでこの人は動かない。

私は、背筋を伸ばした。


「はい、ショウタさんの妹さんの就職先でしたらすぐにでも」 「あ、ほんとゴメン。頼むかも。いや、ピンポイントな話題だね? 会ったことない・・・、よね? あった? いや、ちがうちがう。妹は耐性者じゃないし」


「大手の発注業者に一声かければ簡単に就職できますよ」 「魅力的な口利きだね。いや、そういうのじゃなくて、いや。後で頼むかも。それで、舞さん・・・」


その時、扉がトントンと叩かれた。


「お客様、失礼します。待ち合わせのお客様をご案内いたしました」


定員の声に続いて、スーッと扉が開くと1人の少女が立っていた。

肩まである髪、少し大人びた服装。

黒い瞳。ショウタさんが禁忌を犯して助けた少女、黒瀬アヤメさんだった。


「ショウタさん。来ました」


ショウタさんを見ると、もも串を持ったまま固まっている。


「おおおお!? 早すぎるって!?  ここ関西やぞ。どうやって来たの!?」


「徒歩と電車です」 「電車と徒歩でこられる距離じゃねぇなぁ? 暗黒面のフォースじゃねーか?! 舞さんにまだ、話してもいないし!?」


「急いできました」 「すべてを省略して吹っ切れた?! その力を使っていいものなの!? あ~、舞さん。ゴメン、こちら影の力に目覚めた少女の黒瀬アヤメさんです」


極秘任務が飛び込んできました!? ショウタさんが隠したかった秘密、喋ってしまってますよ?!

やっぱり、アヤメさんは影の力に目覚めましたか。影が入ってますからね!?


「ああああああ!? ショウタさん?!? とりあえず、座ってもらって串、でも食べてもらいましょう!? ここパスタ屋ですし、女子高生にピッタリではないですか!?」


「えっ、パスタ!? え~と、アヤメさん。こちら仕事の相方の舞さんです。とりあえず、座りましょう。君の話をこれから出すところです」


今、ショウタさん全部話しませんでしたか?

これ、中身が人じゃなかったら処分対象でしょう!?


「いただきます」


アヤメさんは私の隣にスッと座り、つくねを一本、持ち上げた。

彼女は本当に人間なのでしょうか!?

最近まで普通の女子高生だったとは思えない行動力と精神力です。


「どうそ??」


つくねを歯で抜き取ると、そのままハフハフと食べている。

そして、舌で口元についたタレを舐め取った。


大人の雰囲気を感じます。この大人びた感じ、影じゃないでしょうか。


「おいしいです」 「よかったですよ」


言葉は、普通にかわすことができるんですね。

ショウタさんを見ると困った顔をしている。

あの少女がいきなり出現したら、困りますよね。

でも、私は全部見たいと思います。

ショウタさんの感情と結論まで。


ショウタさんがようやく串を置いた。

顔が真剣な仕事の顔です。毎日観察してますから、私はわかりますよ。


「舞さん」 「はい」


「アヤメさんの中に影がいるんです」


うわ~。言っちゃいました。

影を埋めたことに何か弊害があると思っていましたが、これはヤバイですね。

私は、知らなくて。初めて聞くふりをしなければなりません。


もし 『知ってて探りを入れてました』 と言ったら、ショウタさんは確実に怒るでしょう。

総括、マユミ部長、私が極秘として扱って言わないのは、ショウタさんがどう動くか分からないからですよ!


ショウタさん、何と言うことをしたのですか。

でも、あの状態の少女は、ショウタさんは助けますよね。

困っている人がいたら助けてくれる人です。私が新人の時、そうしてくれたように。

ただ、あの時点でバレていたら、この少女は処分されています。危険すぎます。


私も困りました。どう反応をしましょう。

アヤメさん本人を見ると、つくねの串を両手で持ったままこちらを見ています。

感情が読み取れません。女子高生とは思えない胆力です。


「ショウタさん。今、このタイミングで言うことですか?」 「ショウタさん、あまりにもひどくないですか」


「酷い人間だと思うよ。このまま、舞さんに顛末を話そうと思うんだよね。舞さん、彼女をうちに入れたいんだ。もう少し仕事を真面目にして、立場が偉くなってたら色々できたんだろうけどこれが限界だよ」


酷い人は、人を助けたりするわけないですけど。


「彼女に隠れて生きてもらう事もできただろうけど。アヤメさん何も悪くないし、責任ぐらい自分がとらないとね。この超影領域のことが終わったら全部話そうと思うんだ」


つくねを持った指は、少し震えている。

彼女は何も言わないですね。

今日のこれを打ち合わせてましたかね? そんな暇は今日はないハズです。


「そうそう前回、うちの都の影濃度が薄くなったのも彼女のおかげです。こう彼女は問題も無く暮らせており・・・? そう、普通に? 過ごしているから? いや、計り知れない価値がある。それをここの影領域の時、証明してそのまま自分のしたことを明るみに出そうかなと。そうなれば彼女を守り切れると思うんだ」


「はい? そんな力初めて聞きましたけど。基本が戦闘や身体能力になるハズですが」


それは、初めて知りました。

その人知を超えた力、やばくないですか? うちの司令部で守れますかね。

国が召し上げそうな、力ですけど。


「ということで、舞さん。味方になって欲しい。彼女は安全だ、大丈夫だと思う。目が離せないから対策府にいてもらうしかないじゃん」


「もちろんです、ショウタさんが居ない職場とか考えられません」


そういうことでしたか。

影を宿して生き返ってしまって、世間にバレたらどうなるか分からない。

あと、ヤバそうですし。女子高生の雰囲気じゃないですよ。


――――


焼鳥屋を出ると、思ったより夜風が冷たい。

炭の匂いが、髪や服に少し染みついている。


ホテルまでの道を3人で歩く。

この状況は一体なんなのでしょうか。


「ショウタさん、今日のデートは失敗です」


「そうだね。アヤメさんが来るとは思わなかったんだよね。影領域のことが終わったら会って面接をしてもらおうかと思ってたんだけど?? はい、大変申し訳ございませんでした」


心がこもってないですね。


「では、次はちゃんとしたデートをしてもらっていいですか?」


「定義が難しいよね。毎日デートみたいなもんじゃん。車両と言う密室、その中の男女は何も起きないハズがなく。ないな。どこ行きたいって言っても、舞さんと自分が出勤できる距離じゃないと難しくねーかな」


「そこは 『はい』 と言ってもらうところです」 「はい」


ホテルへ着くと、黒瀬さんは当然のようにショウタさんの隣へ立った。


「私は、ショウタさんと同じ部屋で大丈夫です」


「大丈夫ではありませんね。ダメですよ。とりあえず、国家の力で部屋を取ります。未成年ですよね? 手口が巧妙ですね。親子には見えないので、ダメですよ」


最近の女子高生は進んでますね。

友達感覚で部屋に行ったりしてはいけません。

はっ!?


「アヤメさん、何かあったらすぐ連絡してね。明日は宜しくお願い。すぐ連絡するよ」


「はい」


黒瀬 アヤメ、影を宿した少女ですか。

聞きたいことは山ほどあります

けれども、ここで問い詰めるべきではない。

影の力を使って領域を薄めるそうですが、その力で何をするか確認してからでも遅くないでしょう。


私が別の部屋を取り、黒瀬さんを部屋まで送るのを見届けた。


「おやすみなさい」 「おやすみ」


扉が閉まると、廊下に私とショウタさんだけが残った。

そして、微妙な空気も残りました。


「また明日打ち合わせましょうか。明日は動くかもしれない」 「はい」


本当は、もう少し話したかった。

でも、明日でもできますかね。


ショウタさんは軽く手を振ると、自分の部屋の方へ歩いていく。

私も自分の部屋へ戻った。


ふぅ。

これ以上を望むのは、ダメなのでしょうか。もう少し進展してもいいのではありませんか。

胸のモヤモヤが晴れない。明日も明後日も彼が隣にいるのはわかっているのに。


その時、コンコンと部屋のドアが叩かれる。

おや、こんな時間に誰でしょうか。


そっと扉ののぞき穴を見ると、ショウタさんがそこにはいた。

どうしたのでしょう。

ホテルの部屋へ夜の訪問、出張中の2人。はやり、何も起きないはずがなく・・・?


私は、一度深呼吸をして、扉を開けた。

先ほど、そのままの白いシャツのショウタさんがいた。


「少しだけ、入れてもらっていいかな」


頷く間もなく、彼が入って来た。

いや、待ってください。デート前に脱いだ服が散乱してますよ。


扉が閉まる。


「今日のことは、内緒にしてくれないかな」


「ええ~。司令部の私に頼むのは難しくないですか」


と、言おうとした瞬間、ショウタさんが、私の手を取り壁に手をついた。


心臓が跳ね上がる。

見たことはあっても、やられてみると心臓の鼓動が段違いだ。

肌が重なる距離、まだ炭の匂いが残っている。


「もしも、アヤメさんのことで舞に迷惑がかかるようだったら、一緒に逃げて欲しい。信用できるのが舞さんしかいないんだ。万が一の時は、船の手配をお願いしたい。船1台購入して欲しいんだ」


とても嬉しい。そして悔しい。

私を口説きにきたのではないのですか。

もう、ショウタさんが何をしたか知っていたとは言えないじゃないですか。

とても困りました。


「今日のことは内緒にするのはいいですけど。私に、逃亡補助を頼みにきたんですか?」


「責任取るから、万が一の場合は一緒に関係者だけで逃げようかと。そうか頷いたね、これで共犯者だ」


「それ、司令部の人間に頼むことではありませんよ」 「舞さんに頼んでるんだ」


一緒に逃げましょう。

と、来ましたか。何がどうなるのでしょうか。

共犯者と呼ばれるのが嬉しいと思ってしまった時点で、私は逃げられないのではありませんか。




いつもありがとうございます。

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