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2周目は七つの大罪とともに ~仲間に売られて魔王に喰われた勇者、ハムスターになった暴食の魔王を連れて今度こそ全部滅ぼします~  作者: 貝ひも


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第8話 飴と鞭とあだ名

手がじんじんと痛み、押さえていたのも束の間だった。

ベアトリーチェは尋ねた。

「ところで、本当にこれは何なんですか? 召喚獣やペットにしては、初めて見る形ですけど」

「あ?」

いつの間にかダンテの肩によじ登ったゴールデンハムスターが、ぴょんぴょんと跳ねていた。

一体いつ這い出してきたんだ?

【チュ、チイーッ! チーッ!】

せめてもの救いは、今回は空気を読んで喋らなかったことだろう。

まるで威嚇でもするように怒るベルゼブブを見て、ベアトリーチェは笑った。

「あら、可愛い」

「は……はは」

ダンテも、どこか脱力した笑いが漏れた。

だが、その笑いはすぐに引っ込めることになった。

ぴょんぴょん跳ねるハムスターに、ベアトリーチェがそっと手を差し出した、その瞬間。

【チイイーッ!】

ベルゼブブは口を目一杯開けて、彼女の指へと跳びかかったのだ!

ガジガジガジッ……!

「むっ!?」

ダンテすら一瞬身構える、矢のような奇襲だった。

そして、その奇襲を直撃されたベアトリーチェは。

「あはは、くすぐったい!」

ハムスターに噛まれたまま、笑っていた。

【チュ、チュー……チュ?】

ゴールデンハムスターも、戸惑いの色を浮かべていた。

ダンテはすぐ、その理由を理解できた。

(……歯が、刺さってないのか? まさか)

体格が大きい。

手が大きい。

当然、指も太い。

ちっぽけなハムスターの歯で、どうにかできる代物ではなかったのだ。

「こっちへ来い」

ダンテは、指にぶら下がったまましょげ返っているベルゼブブに手を差し出した。

ゴールデンハムスターは、気まずいような当惑したような様子で、そそくさとダンテの手に飛び移った。

(何て有様だ、ベルゼブブ……。暴食に狂ったネズミが、一体どうしてこうなった……)

文字通り、数多の疑問と嘆きを込めて。

口に出すことはできず、ただ見つめるだけ。

【チュー、チュウ……】

ベルゼブブはダンテの心を読んだかのように、その懐へと潜り込んだ。

とにかく、これだけ見てもダンテには確信できた。

(予想どおりだな。何らかの制約があるはずだ)

最初に回帰したとき。

2周目だと悟った時点から今まで、ベルゼブブは自分から離れなかった。

こんな目に遭わされても、離れようとしなかった。

(言うなれば、何だ、筐体? ゲーセンの店主? そういう力で、俺に帰属させられている感じなんだろうからな)

チャリン、チャリンと、コインの入る音が三回。

Credits (3)、そしてContinue、YES。

そこから「コンティニュー」が始まり、〈2周目特典〉という名目で連れてきたのがベルゼブブだ。

結局、この世界の秩序、構造、何であれ――そうした強制的な力によって、自分と共に過去へ送られたのだろうから……。

(待てよ。よく考えたら、俺の命とこいつを合わせて、百円ぶんってことか?)

Credits (3) → (2)。

百円で、これか?

(じゃあ、残りの二百円ぶんは、どう使うんだ?)

だとしたら、残りのクレジットは?

Credits (2)は?


(まさか……残機? 死んでもいい? 3周目、4周目が可能だと?)


ゴクリ。

3周目特典で、もう一つ。

4周目特典で、もう一つ。

そんなふうになる……。

ダンテは首を振った。

(イカれた話だ。文字通り、命でテストしなきゃならんのに、そんな真似をするわけがない)

「ちょっと試してみるか?」程度の気持ちでやれることではない。

失敗すれば、死だ。

2周目――これだけでも、すでに奇跡のど真ん中にいると見るべきだというのに。

3周目、4周目が可能だろうがなかろうが、そんなことを試すダンテではなかった。

(調べられるかもしれないからな。方法を、探す)

どんな方式で、どんな状況で使えるのか。

その方法を、探す。

(それもエリャの図書館の禁書区域にヒントがあれば、ありがたいんだが……)

何より、1周目で調べられなかった方向からアプローチするのが、正しい探索方法のはず。

そのために、目の前の女性と協力する。

「ベアゼ、もう考えてるだろうが、ウォークマン司教に渡りをつける一番の近道は――」

「何ですって?」

ダンテは彼女に、大まかな活動指針などを伝えるつもりだった。

だが、彼女はダンテの言葉を遮った。

信じられない、それはどういうことだ、という表情で。

ダンテは首をかしげた。

「ん? 話、通じてなかったか?」

「話は通じましたけど……今、何て呼びました?」

「俺が? 何を?」

「私の名前です。今、何て言いました?」

彼女の眉間に、しわが寄った。

ダンテは慌てた。

名前……何だったか?

自分は、何と言った?

「ベア……ゼ、じゃなかったか? いや、んんっ、その、ベルゼアート?」

彼女は、何も言わなかった。

ダンテは目をぎゅっとつぶり、しばしうんうん唸ってから、ようやく思い出した。

「ベアトリーチェ! そう、ベアトリーチェだ! はっはっはっは!」

それも、本人の前で。

豪快に笑い声まで上げながら。

「感動でもしてほしそうな声で呼ばないでください。どうやったら人の名前を――それも、さっき『あの意味』の握手まで交わしておいて、名前を忘れられるんですか? うまくやっていこうと言っておきながら――」

ダンテは、ベアトリーチェに叱られた。

それも、かなり長い時間。

ようやく場が収まってから、ダンテと彼女は話を交わした。

「ウォークマン司教様と親しくしておく……そういう『綱渡り』はあまり好きではありませんが、はい。意味は分かりました。ウォークマン司教様と対立する側の方々とも、距離を置かないといけませんね。今の聖皇猊下がご健在なら、そちらにも気を配らないと」

やはり、聡明な頭脳。

ダンテは頷いた。

「そうだ。ただし、お前がやるべきことを忘れてもいけないぞ」

「やるべきこと……?」

「低きに臨みなさい、ですよ。『聖女様』。そうすれば、道は必ず開けますから」

ベアトリーチェの瞳が、きらりと光った。

ゴクリ。彼女は生唾を飲み込んだ。

聖女。

ダンテが自分をそう表現したことが、どんな意味を持つのか。

彼女は、問わなかった。

その態度もまた、ダンテには気に入った。

「連絡は、どうやって取れば?」

「さてな。だが、いつかその瞬間が来れば、互いに届く方法はいくらでもあるはずだ」

「……ふ~ん。聖女と対等になれるほどの、ですか……」

ベアトリーチェは、かすかな微笑みを浮かべた。

聖女になるだろうと、ダンテは言ってくれた。

その信頼を土台に、自分は努力する。

ならばダンテもまた、聖女に比肩する――あるいはそれ以上の名声を手にする、という意味ではないか。

どこにいても、その噂を聞き、連絡が取れるほどに!

この言葉を信じる? こんな突拍子もない話を?

「ああ、本当に。おかしな夜。夢みたいです、夢」

ベアトリーチェはそう言って、明るく笑った。

ダンテはふっと笑い、席を立った。

「こっちは夢の中で六年目だけどな。とにかく、『準備が整ったら』連絡を取り合おう。互いに」

「はい。お体に気をつけて、ダンテ様」

今度はベアトリーチェが、ダンテに手を差し出した。

ダンテはその手を握り返した。

「あれだけの力があるわりに、柔らかい手だな」

そして、うっかり呟いてしまった。

苦痛を呼ぶ、一言だった。

「……今、何て? 何と言いました?」

「ああああっ、待っ――手、手! 力を抜けって!? 手!」

「セクハラは、許しませんよ」

「俺がいつセクハラを――。ああ、オーケー! 分かったから、まず放してくれ!」

ダンテは確信した。

ホブゴブリンの処理に、わざわざ《暴食の権能》まで使う必要はなかっただろうと。


ダンテは、主神教の深部へ潜り込むルートを一つ、確保した。


***


ザッ……ザッ……。

ダンテはゆっくりとした足取りで歩いた。

まだ、夜明け前だ。

駐屯部隊のヒゲの指揮官と合流して領主に会いに行くのは、日が昇ってからになるだろう。

今すぐ確かめてみたいことは、別にあった。

「おい。ここまでの状況は、全部理解できてるな?」

ベルゼブブ。

七つの大罪が、一体。

ダンテは、自分の手のひらに乗ったゴールデンハムスターを見て言った。

「協力しろ。魔王を殺す順番。情報、知識、とにかくお前の知っていること、全部だ」

今でこそ小さいが、物理的な力だけの存在ではなかった。

七体の魔王の、一角だった。

自分だけの勢力圏があり。

支配する魔族がいて。

周辺の人間どもを殺し、苦しめてきた、七罪宗の一体だ。

その知識と経験は、ダンテにとっても途方もない助けになるはず。

【クフフ、私が? なぜ?】

ベルゼブブは笑いながら言った。

ダンテは淡々と頷いた。

そして、ガシッ――!

【チュ、チューッ!?】

ベルゼブブを、握り込んだ。

「ハムスターの『ハム』の話をしたの、もう忘れたのか? まだ俺の性分が分かってないらしいな。怠惰のロバ、ベルフェゴールがどうやって死んだか、教えてやろうか?」

【チュー! ま、待て! チュチュッ!】

殺せる。

今すぐにでも。

ダンテは、実際に力を込めた。

「お前を殺してもいいんだ。まあ、『2周目特典』は消えるわけだが……『2周目』というだけでも、俺には十分すぎるんでね。お前の知ってる順番だの何だの、それもエリャの図書館にたぶんある。ちょっと面倒な回り道になるが、すぐ分かることだ」

惜しい。

だが、未練はない。

そもそもこの六年間の旅路、1周目にはこんな助けなど最初からなかった。

地べたを転げ回って積み上げた経験と、知識と、情報がある。

【分かっ――。分かったと言っている!】

口をパクパクさせて、もがくゴールデンハムスター。

その頃になってようやく、ダンテは手の力を抜いた。

鞭?

なら、次は飴だ。

「『暴食の蠅』なんぞに、その座を明け渡したままでいたいわけじゃないだろう?」

現在の、七罪宗。

今、【暴食】の座を占めている者。

イスカリオに対して、ベルゼブブが渇望を覚えないはずがない、ということ。

「もちろん、この状況を作ったのは俺だ。だが、俺だけのせいにもできないはずだぞ」

そもそも、2周目特典なんて状況が、なぜ発生した?

ダンテが死んだからだ。

ダンテは、なぜ死んだ?

イスカリオが裏切ったからだ。

イスカリオは、なぜ裏切った?

「厳密に言えば、お前が俺を殺したんだからな」

【……】

生贄を捧げろと言った、暴食に狂ったネズミがいたからだ。

「協力しろ。最後の提案だ」

間が、空いた。

ネズミも、ダンテも、じっと動かずにいたのは、どれほどの時間だったか。

【いいだろう……。ある程度は、な】

ついに、ベルゼブブはダンテの提案を受け入れた。

ダンテも頷いた。

(どうせ100%の協力なんてありえない。だが……死ぬ前にこいつが言った通りだ。悪魔は語らぬことはあっても、偽りは語らない。俺の害にしかならない行動は、しないはずだ)

見た目が可愛いだけで、七罪宗ではないか。

純粋で無垢な心で協力を決めたはずがない。

だが、嘘をついて、わざと役に立たない真似をすることもないだろう。

だからこそ、しっかり見極めなければならない。


【暴食の刻印:11】


ホブゴブリンの血肉を喰らって得たのが10点。おそらく、ベルゼブブが当てにしているであろう変数。

この【暴食の刻印】についてより深く知るためにも、ベルゼブブとの協力は必要だろう。

そこでダンテは、相互信頼を築くための第一段階に突入した。

「よし。じゃあ、ハム助って呼ぶぞ」

あだ名づけ、である。

【……何?】

「ハムスターみたいな見た目だからな。ハム助。それともジェリーのほうがいいか? あ、いや、ジェリーはやめとこう。なんか権利的に危ない匂いがする」

【ちょ、ちょっと待て。何をイカれたことを――】

「嫌か? ハム助。語感、いいだろ?」

ただ、ダンテの考える「あだ名」の概念を、ベルゼブブが受け入れるはずもない、というのが問題だっただけで。

【人間という種族がいくら厚かましいとはいえ、限度というものが――!】

「あ、いたたっ! おい、痛い! 噛むな! ってか、こんなに強いのに、何でベアトリーチェの指には歯も立たなくて――」

激しく反発し、噛みつき、暴れ狂うベルゼブブをなだめ、説得すること数分……。


「行くぞ、ブブ」

【クソッ、その名前も気に食わんが。ハム助よりはマシだ】


(旧)七つの大罪が一体。

暴食に狂ったネズミ、ベルゼブブ(こと、ブブ)がダンテと共にあった。

目的地は、駐屯部隊の指揮官のいる場所。

より具体的には、彼が引き合わせてくれるという、この村が属する領地の領主への謁見。

いや、もっと正確に言うなら……。

(オルガス伯爵、だったな。通行証、装備、それから……)

彼からダンテ自身が引き出す報酬こそが、究極の目的だろう。

大悪魔ベルゼブブ、本日をもって「ブブ」になりました。ご本人は不服のようですが、ハム助よりはマシだそうです。

次回、二周目でも世間の風は冷たい……かと思いきや?

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