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2周目は七つの大罪とともに ~仲間に売られて魔王に喰われた勇者、ハムスターになった暴食の魔王を連れて今度こそ全部滅ぼします~  作者: 貝ひも


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2/8

第2話 2周目特典はハムスターでした

ふわふわと浮いているような感覚。

《フライ》をはじめとする浮遊魔法の類はさんざん経験してきたから、さして特別でもない感覚のはずなのだが。

(……生きてる。ベルゼブブの胃袋じゃない?)

ダンテには分かった。

闇の中でも確かに感じられる、自分の呼吸、脈拍、触感。

死んでいない。

(目を開けたら現実……に帰れる、そんな――)


 久男。田中久男!

 何やってんだよ、お前? 飲みながら寝落ちか?

 カラオケでも行こうぜ、俺のおごりだ。


いつ呼ばれたのか、もう記憶もおぼろげな自分の名前を、また聞けるんじゃないか。

友人たち。家族。

彼女……には、まだなっていなかったあの子。

彼らに、また会えるんじゃないか。


 田中主任、主任になったんだからもっと頑張らないとな? 期待してるよ?

 田中主任! これ、誰がこうやれって言った? は? 俺が? ふざけてるのか!?

 いや、主任にもなってこんなミスするかね、普通?


(あ。)

しっとりした感傷に浸ろうとしていたところに、やはり現実は冷たいものか。

改めて目の覚める過去の記憶とともに、ダンテは首を振った。

今すぐその名前で呼ばれることはない、ということ。


【 Credits (2) 】


眼前に見える文字は、ここがダンテの現実であることを刻みつけてくれたから。

フッ、と文字が消えた。

再び、闇だけが残った。

(今まで、この手のメッセージが見えたことはなかった)

おかげでダンテは、自分の思考に集中することができた。

まるで上から見下ろすような、ホログラムのメッセージ?

このクソッタレな世界に放り込まれて六年、どれだけ足掻いても見えたことなどなかった。

なのに、今さら?

不満はそこまでにして。

(とにかく、小説や漫画の類じゃなかったわけだ。ゲームなら、なお良し)

ダンテは素早く自分の状況を整理することができた。

ゲームなら、確固たる目的があるじゃないか。

クリア条件が存在するはずだ。

(そうだ。ステータスがあって、レベルがあって、インベントリまであるゲームなら……クラシックにいくのが正解だろう。世界を乱す魔王を倒せばエンディング。やっぱり七罪宗を全員ぶちのめすのが、このゲームの目的のはずだ。どうりで、あちこち旅している間ずっと勇者様~勇者様~って呼ばれてたわけだよ。勇者として魔王どもを殺すのが、エンディングを見る条件のはずだ)

目的を達成すれば現実へ、元の世界へ帰してくれるんだろう?

……。

ゴクリ。

ダンテは思わず生唾を飲み込んだ。

そこまで考えが至ると、浮かんでくる疑問……。

誰が?

(……金を入れたやつが?)

それとも、ゲーセンの店主?

チャリン、チャリンと、コインが入っていく音を覚えている。

誰が今、筐体の前でコインを入れているんだろうか?

(いや、今どきゲーセンの筐体を探すほうが難しくないか? そもそも俺は帰宅途中だったんだぞ。うちの近所にゲーセンなんてないのに!)

くだらないことを言いながら手足をばたつかせたのも、束の間だった。

闇の彼方に見える、小さな点がひとつ。

それは瞬く間に大きくなり、光の入り口となった。

ダンテの体は、そこへ向かって吸い込まれ始めた。

(実はここがベルゼブブの胃袋で合ってて、あれがベルゼブブのケツの穴、とかじゃないだろうな? 糞になって排出される絵面は、さすがにちょっと――)

ありえないことを考えながらも、ダンテは受け身の姿勢を取った。


───────────……!!!!


ガクン、と最初に感じたのは、やはり重力。

立った。

少し見慣れない気もするが、記憶の中には確かにある場所が見えた。

ダンテは眉間を寄せて呟いた。

「でも《コンティニュー》なら、死んだ場所から再開すべきじゃないのか? 体力全回復、必殺技の類もきっちり補充してくれてさ。ゲーセンにも行ったことないやつが作ったのか……?」

六年前、初めて憑依した、まさにその日。

あのとき見た小さな村に、ダンテは立っていた。


***


日が沈みかけていく時間。

村の入り口。

(すべてを覚えているわけじゃないが、この日を忘れるはずがない)

憑依した、まさにその日。

ダンテは周囲を観察・警戒すると同時に、自分の状態をチェックした。

すり切れた革靴、よれよれの服、鞘から抜いたところで刃こぼれした短剣……。

あのときと、同じ。

(ステータス)


【ダンテ】

─レベル:1

─職業:冒険者(F)

─能力

 力:6 敏捷:5

 体力:8 魔力:3

 知識:4 正確:5

 意志:10 運:4

─特記事項:なし


正確な数値までは覚えていないが、このしょぼさから見て、あのときと変わりないはず。

ダンテは即座に次へ移った。

(スキル)


─スキル:なし

─耐性:なし


保有スキル、保有耐性なし。

あのときと同じ。

(インベントリ)

アイテム欄の干し肉五つも、あのときと同じ。

「過去に戻って――きたぁ!? 何だ? 何だこれ?!」

違う点は、たった一つだった。

よれよれの服の中に感じる、微妙な温かさ。

何かがもぞもぞと動く、どこか心地よくもあり、鳥肌も立つこの感覚。

ダンテは本能的に服の中へ手を突っ込み、それを取り出して放り投げた。

【チュ、チューッ!】

チュー?

そこでようやく、地面にべちゃっと落ちたそれを見ることができた。

黄金色の毛。

小さくて丸っこい体。

黒い豆粒の目とピンク色の鼻が印象的な……。

「ハムスター? いや、まさかな」

ダンテはゴールデンハムスターに酷似した生命体の、背中の皮をつまみ上げた。

呆れているのは、ダンテだけではなかった。

【チュー、チュチュッ、チュー!】

ゴールデンハムスター?

いや、砂漠の砂色のネズミ。

こいつは、間違いなく……。

「おい、七罪宗(しちざいしゅう)

七体の魔王の一体。

七つの大罪の顕現。


【はあ……そうだ。ベルゼブブだ】

暴食に狂ったネズミ、ベルゼブブが口を開いた。


状況を理解できない人間と七罪宗が、ただ互いを見つめて瞬きだけを繰り返していた。

【クックック、なぜ黙っている? 私が恐ろしいか、人間?】

「はっ。ゴー・ルデンハムスターごときが、何を――」

【ゴ、ゴールデン、何だと? 無礼者め! いいから放せ】

「何で俺が?」

【ぐぬぬ――。放せと、放せと言っている!】

じたばたと暴れるハムスターの力の、なんと強いことか。

ダンテは結局、背中の皮をつまんでいたそいつを、手のひらの上に乗せてやらねばならなかった。

ぜえぜえと息を切らすハムスターを見ていると、ダンテは笑いも出なかった。

これは一体、どういう状況だ?

そのとき、ふと頭をよぎる考えがあった。

「……クソが。六年前に戻ったんじゃない。死んだんだ、俺は」

【……何?】

「これは夢だ。俺はもう死んでる。ちくしょう」

夢か。

だから、か。

どうりで、この六年間見えもしなかったコンティニュー~とかいうホログラムメッセージが見えたり。

ゲーセンのコイン投入音が聞こえたりしたわけだ。

死ぬ間際に駆け巡るという走馬灯が、ちょっとばかりリアリティを増した、そういうことなんだな。

「どうせ見せてくれるなら、もっと昔を見せてくれよ……。この日を見せられても別に懐かしくもないのに、何でわざわざ――。いっ!?」

瞬間、感じるチクリとした感覚。

痛い。

痛い?

ダンテは指先ににじむ血の玉を見た。

ハムスターがガブリと噛みつき、にじみ出た血。

ハムスターはあまつさえ、それを二度ほど舐めた。

【しっかりしろ、人間。そして、どうなっているのか説明しろ】

「……説明しろって。何をだよ」

【この状況をだ。なぜ私が……なぜ、こんなことになった?】

「それはこっちが聞きたい……。いや、待てよ」

瞬間、ダンテの頭に浮かんだ言葉。


【2周目特典として、一つだけ持ち帰ることができます】


そうだ、死んだんじゃない。

あの闇の中でも、確かに生きていることを感じた。

自分はベルゼブブのケツの穴から排出されたわけじゃない。

持ち帰る、と言った。

帰ってきたのだとしたら。

(六年前、このイカれた世界に初めて落とされたあの日に、戻ってきた?)

ベルゼブブと、一緒に?

(いや、いやいや、でも何でベルゼブブなんだ? それこそ意味が分からな……)

ダンテは考えた。

この状況が起きる前、何を、どのように、なぜしていたのか。

もぞもぞと呑み込まれていく、あの感覚。

持っていたすべての装備が、すべてのアイテムが溶けて消えた。

ベルゼブブに、全部吸収された。

そうして、糸一本まとえない体ひとつで……。

【聞いているのか、人間?】

こいつに、喰われていたんじゃないか。

「おい」

【……何だ? 私に向かって――】

「おい」

【――チューッ!?】

ダンテはそのまま、ハムスターの背中の皮をつまみ上げた。

じたばたともがくが、さっきとは違う。

ダンテの目つきは、すでに変わっていた。

「ベルゼブブ。俺がお前を生かしておく理由は?」

【チュー、チュチュ! チュッ!】

暴食に狂ったネズミ、七罪宗が一体。

生かしておく理由がない。

「今さら猿芝居はやめろ。理由がないなら、お前を殺す」

生かしておく理由があるとすれば、一つだけだ。

自分の役に立つこと。

スラリ――短剣を抜いてハムスターに突きつけるまで、その動作は流れるようにつながった。

ダンテの、本気。

それをベルゼブブが感じ取れなかったはずはなかった。

【お前のやり方では、やつらを――我々を殺せないからだ!】

暴食の悪魔は叫んだ。

ダンテが最も食いつくであろう情報だった。

「そうか。『旅路』がどうとか言ってたな。あれがどういう意味か、言ってみろ」

【順序が違うと言っているのだ、順序が!】

「順序? 言ってみろ」

【私が話すとでも?】

チューッ、とベルゼブブは威風堂々とした表情で言った。

ダンテの手に、ぶら下げられたまま。

ダンテはニヤリと笑った。

「……お前、ハムスターの『ハム』が何のハムだか、考えたことないだろ? 今日はその意味を、身をもってきっちり教えてやろうか?」

【は、放せ――! 放せーッ! チューッ!】

ベルゼブブはじたばたともがいた。

この態度や姿はともかくとして、その言葉に込められた重みだけは本物だ。

実際、ダンテはベルゼブブの討伐に失敗したのだから。

そして、死んだのだから。

裏切られて。

じたばたするハムスターは、そういうことが二度と起こらないようにしてやれる、という取引を持ちかけているのだ。

【話したら私を殺すくせに、話すとでも思うか?】

自分の命を懸けた駆け引き、とでも言うべきか。

ダンテは切り返した。

「話さなくても殺せるのに、俺がお前を殺せないとでも思うか?」

【私は七体の魔王の一体。暴食のベルゼブブだ。貴様の知らぬ数多の秘密を知る、古の悪魔。私を殺すのは、容易ではないぞ】

ハムスターは、宙にだらんと垂れた体で凄んでみせた。

やはりその言葉に真実が宿っていることだけは、事実だった。

「……なら聞くが。今が六年前だとしたら。お前はこの時点で、すでに『暴食』として悪名高い魔王だった。なのになぜ今、ここにいる? じゃあ、この時間軸の……? 現在? 今の『暴食』は何だ? 誰だ?」

その仕組みは分からずとも、今は六年前のあの日だ。

つまり、時間が六年、巻き戻ったのだ。

それなのに、ベルゼブブが今ここにいるとしたら?

この世界の【暴食】は、どうなっている?


【知らん】

「よし、ぶん投げるか」


【チュ、チューッ!】

ダンテは投球フォームを取りかけて、やめた。

どのみち、この『ハムスター』は特殊な能力によって手に入れたものだ。

この騒ぎでも逃げていかない、ということは?

(俺の所有物……離れられない、ってことだろう。【2周目特典】ってのも、そういう意味のはずだ)

帰属。

殺すのは、いつでもできる。

今、急ぐ必要はない。

「きゃあああっ――!」

「に、逃げろ! ゴブリンだ!」

「兵士様たちに知らせろ! ゴブリンが襲ってきた!」

何より、村の向こうから沸き起こる騒ぎのせいで、集中もできなかった。

ダンテは当然、知っている出来事だった。

「ああ、こんなに早く始まったんだったか」

憑依初日から巻き込まれた騒動――ゴブリンの村襲撃。

あの真に迫った悲鳴に小便をちびりかけて、すぐさま逃げ出したあの日。

ゴブリンは、一匹も殺せなかった。

文字通りただ走って、走って逃げたのが、一周目の自分だった。

それでも、その後の六年間それなりにうまくやってきたことを考えたら?

(あえてここでゴブリンを相手にする理由……が、ある)

身をひるがえして前回のように逃げようとしたダンテの体が、止まった。

その目つきが、変わった。

(そうだ、そういえば……。あの野郎)

ザッ、ザッ、タッ、タタッ、タタタッ――!

ダンテは速度を上げて走り始めた。

あのときは、知らなかった。

だが、この村にも駐屯軍がいる。

そしてその駐屯軍には、兵士たちの回復を担当する司祭も派遣されている。

一周目のときは、この時点では出会えなかった。

時間がずいぶん経ってから「あれ、あそこにいたの?」と、笑顔で言葉を交わした記憶がある。

その笑顔を、ダンテは覚えている。


「イスカリオ」


忘れようにも忘れられない人間が、すぐ近くにいる。

2周目特典:ゴールデンハムスター(中身:古の大悪魔)。

ペットにしては口が悪く、魔王にしては丸すぎる相棒との旅が始まります。

次回、勇者は「絶対に忘れられない顔」と再会します。……本当に?

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