97話 機械士軍団長
眼の前に降り立ったその存在に、隆之介たちは驚嘆した。
そいつは人間とは似ても似つかない……ロボットだった。
樽のように分厚い胴体から4本の脚が生え、それとは別に2本の腕がついている。
腕の先には巨大な斧。
胴体の上部から、赤く光るセンサーが隆之介たちを覗く。
そして何より、ロボットの全身を頑丈そうなライトブルーの鉄鋼が覆っていた。
「我ハ機械士軍団長、サツノカイ。うぬらト戦えることヲ以前より楽しみニしていたゾ……」
どこから発声しているのかすら把握できない。
やはり気色が悪い。
「隆之介、これは……」
「あぁ。もとより覚悟はしていたが、やるしかねぇな」
隆之介と悠玄は各々、刀を抜く。
「デハ、こちらから行こう!」
軍団長は4つの脚を巧みに操り、一瞬で距離を詰める。
巨体に反してなんてスピード!
しかし、太刀筋は読める。
隆之介は回避の姿勢に入った。
その隣。悠玄はなんと斧の一撃を受け止めようとしている。
それは無謀だろ!
「バカッ、回避……!」
隆之介の一声は間に合わなかった。
隆之介が回避したのもつかの間、悠玄はその一撃を受け止めることができず、檻の壁に叩きつけられた。
「悠玄!」
「よそ見している場合カナ?」
隆之介に2本の斧が襲いかかる。
続けざまの連撃を隆之介はひらりと躱す。
振り終わりに隙がある。
一気に懐に侵入し、金属のボディに対し、日本刀を一閃させる。
響き渡る金切り音。
サツノカイの体には傷一つつかない。
「ワレノ攻擊ヲ掻い潜るトハ、なかなかやるナ!」
サツノカイは斧を振り下ろす。
隆之介は足の間をくぐり抜けて、ギリギリのところで回避する。
攻撃の一つ一つがクソほど重い。まともに当たったらダメなやつだな。
さらにこの防御力。中途半端な攻撃では、何百回やっても無意味。
重戦車みたいなやろーだ。
その時、視線の先で悠玄が起き上がった。
頭から出血してるが、動きに問題は無さそうだ。
「悠玄!俺がこいつを正面から引きつける!お前は隙を見て攻撃を当てろ。ヒットアンドアウェイだ!」
吐息を漏らしながら、悠玄は小さく頷いた。
悠玄の脳内に、バッファルとの修行の日々が駆け巡る。
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「悠玄、君は前線を張れる実力にない」
鍛錬の最中に言われた言葉。
こんなことを言われたら、流石に黙っていられない。
「それは今後成長する見込みがないってことですか?」
悠玄は奥歯をむき出しにして問う。
バッファルは首を横に振る。
「現段階での話だ。隆之介らと比較すれば、そう評価せざるを得ない。だからこそ、できることがある」
バッファルは指で自分のまぶたを広げる。
「君は周りの環境を把握することに長けている。自身の立場をわきまえ、適切に動ける。君はしばらく遊軍として動くんだ」
「遊軍……ですか」
「そう。主役は別の人におまかせする。君はあくまで主役を助けるサブだ」
悠玄の肩にぽんと手を置くバッファル。
「なにも隆之介や偲に対抗しなくていい。彼らとはまったく異なる役割が、君の価値を最大化させる」
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悠玄は隆之介から離れた位置で、戦況を広く捉える。
俺はただの脇役。
主戦力を張れるような人間じゃない。
それでいいんだ。
隆之介は悠玄を信じ、サツノカイに突撃する。
そのまま怒涛の連撃。サツノカイは斧ですべての一撃をはらいにかかる。
手数は五分五分。一時的に両者が拮抗する。
「俺らはてめえら機械と違ってなぁ、限界を取っ払えるんだよ!」
隆之介の勢いがここに来て増した。
斬撃がサツノカイの防御をすり抜け始める。
しかし、サツノカイの斧には決定的なリーチの利がある。
隆之介の刀は空を切り、金属のボディに届かない。
一方、悠玄はサツノカイの背後を取ることに成功していた。
胴体は分厚い装甲で覆われている。
ならば脚だ。軍団長の足元に飛び込む悠玄。
「見えてイルゾ」
サツノカイの胴体が180度回転した。
赤い眼が悠玄を捉える。
斧を振り下ろすサツノカイ。
悠玄は転がって回避する。
太ももに浅い傷が走る。
立ち上がった悠玄は舌打ちをする。
「ソコノ少年。我のような機械ハうぬらと違い、スタミナという概念がナイ」
隆之介へ方向転換する軍団長。
隆之介は連撃により、体力を使い切っていた。
攻撃を見切り、避けようとするがキレが出ない。
致命は外すも、胸をバッサリ切られる。
「痛ぇな、この野郎」
隆之介はサツノカイから距離を空け、悠玄と合流する。
「怪我は大丈夫か?」
「あぁ。それより、やつの選択肢には『回避』という動作がない。それがあの隙のない動きを可能にしている」悠玄は言う。
「攻撃を通すにはサツノカイに、俺らの一撃が脅威であると思わせる必要がある。そうだな?」
「話が早くて助かる」
隆之介と悠玄は左右に分かれる。
サツノカイの周りを反時計回りにグルグル。
攻撃できるチャンスを探す。
「ちょこまかと……鬱陶シイ!」
サツノカイが狙いを定めたのは隆之介。
重くも素早い身のこなしで、隆之介に2本の斧が襲いかかる。
それよりも早く、悠玄はサツノカイの背後で日本刀を振り上げていた。
サツノカイはフクロウの首のごとく、一瞬で向きを変える。
しかしそれは読んでいる!
悠玄は振り下ろされた一撃を、間一髪で躱す。
「コノ動きガうぬらにできるカ?」
なんと斧がまたたく間に地面から離れ、悠玄へとまっすぐに向かう。
悠玄はとっさに腕を組んでガードするも、斧の柄がクリティカルヒット!
爆発的にふっとばされた少年は、もんどり打って倒れる。
「ごめんな。そしてありがとう」
悠玄の作ってくれた決定的な隙。
隆之介はそれを見逃さない。
体幹を総動員した決死の一撃が、サツノカイの装甲を叩き切った。
装甲の凹む音が響く。
サツノカイは振り向きざまに斧を振るうも、隆之介は余裕を持って回避する。
ふっ飛ばされた悠玄をちらりと見る。
悠玄は仰向けに倒れながらも、片腕を突き上げ、グッドマークを掲げていた。
大事はなさそうだ。隆之介は一息吐く。
サツノカイは赤いセンサーを光らせ、二人を真っ直ぐ見つめる。
「うぬらヲ侮っていたヨウダ。ここからハ本気ヲだそう」




