もしかして彼女は「サードラブパラダイス」
緊急会議だ。
ヌーヴェル家にもささやかながら危機というものはあったがこれまでの日ではないほどの重大な事件だ。飄々と物事をこなす父が私と、そして母に相談をするほどの危機である。
「迎えを待っていたリリアンヌをフィリップ家が責任を持って家まで送り届けるという連絡があった」
「フィ、フィリップ公爵家……! それは分家ではなくて」
「いや、フィリップ家とおっしゃったそうだ」
何ということだ。リリアンヌの素晴らしい美しさにもう気がついてしまったか。いや気がつかない方がおかしいか。
「本家で今学園にいるのはどなただったかしら?」
「次期当主ハワード公だよ、母さん」
「……!」
貴族令嬢のように失神しそうになるところを母はぐっとこらえ、カウチきつく握りしめ意識を保とうとする。
「……まあ、リリアンヌちゃんは可愛いからしょうがないわ、……しょうがない」
「そうだ、これは当然の結果だと言える。」
「父上、」
「お前が父上と呼ぶなんて珍しいな」
「茶化さないでください。今、我々が考えるべきことはそんな愛らしいリリアンヌに何の対策も取らなかった愚かさと今後のことについてですよ」
執事が何度か書斎をノックするも誰も声をかけようとしない。どうせ食事のしたくでもできたんだろう。こっちは食事してる場合じゃなお。
「お義父様……?」
ドアの向こうからか細いリリアンヌの声がしたと思ったら書斎奥にある椅子に腰掛けていたはずの父は飛び上がってドアへ向かう。
「どうしたリリアンヌ?」
「あの、今日街へ行ったのでお土産を……、あ、お義母様にお義兄様も」
「お土産? 何を買ったの?」
「スネグラチカです。あのこの前学園で食べて美味しかったので是非みんなにも食べてもらいたくて」
父はそのままお茶に懐柔され今回の問題を忘れたが。私は秘密裏に調査を進め、リリアンヌが今、トライアス家三男ととユウ家嫡男にまで声をかけられているという衝撃の事実が判明した。
これは由々しき事態だ。大変に由々しき事態。
「お義兄様、どうされました」
「リリアンヌ、学園は、どうだい」
「はい、楽しく過ごしてます」
「そうか、楽しいというのは、その……」
「家政の授業が楽しいです。」
「そーか、そーかそーか。そうだよな。リリアンヌは勉強したいんだもんなあ!」
てっきり『好きな人ができました』とか言われるかと思ったぞ。
「そ、その、仲良くなったり、した人は、い、いるのか」
スマートに自然な流れで聞いたぞ。今私はなんら会話の流れに逆らうことなく聞いたんだ。
「はい。皆さんとっても優しいです」
リリアンヌはいつも通りの笑みを浮かべて答えた。